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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる

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11 悪魔は直視しない



「ありがとう、じゃあ悪いけどこの辺で待っててね。」


僕がミスティアに召喚されて5日。

一緒に住んで観察しているうちに気付いたことがある。


「それは良いけど、その………」


ミスティアは湯浴みをしたいようだが、難しそうなので水場で水浴びをするそうだ。その際水場まで歩いて移動すると折角綺麗になった足が汚れて二度手間なので僕に運んで欲しいらしい。どうせなら行きも運んでくれたら靴も履かなくていいし、ついでに魔物が来ないか見張りもしてくれないかと言われた。

悪魔使いが荒い。

でも僕はそれぐらい別にやってもいい。

実際やった。今水場まで送り届けたところだ。

問題はそこではない。


「どうしたの?」


「……脱ぐの?」


僕が思わず指差した先の彼女は、服のボタンに手をかけている。

持ってきた籠は恐らく脱いだものを入れておく為のものだろう。


そう、ミスティアはこと着替えや睡眠に於いてガードがかなり弱い。

子供だから大丈夫でしょう、気にしない。そういった考え方をしている。

元々貴族の令嬢じゃなかったのか。嘘だったのか。嘘は吐かない約束だから嘘ではないのか。信じられない、僕は村を滅ぼさないといけないのかもしれない。


「当たり前でしょう。もう脱ぐからちょっと離れてて。」


彼女にも一応裸は見られたくないという羞恥心はあるようで良かった。

僕の目の前で脱ぎ捨てる気かと思って焦った。

でもなんだか緩い気がする。いくら人の来ない山奥とは言え無防備すぎないだろうか。

だから僕に見張りを頼んだとも言えるけど…


「じゃあその辺にいるから、何かあれば呼んで。」


空に浮かんで辺りを一通り見回す。

魔物や不審者の影はない。

宙で膝を組みながら水場の方に目をやると、銀の光がチラリと揺れた。彼女は白いからよく目立つ。


あの髪は朝日に当たると陽が透けて神々しい。

眠っている間は繊細な、完璧な美を誇っているその容姿は一見すると天使のようだ。

しかし目を開くと天使と言うには意志が強すぎる。目が合えば、細く尖った針を突き付けられているようにゾクリとする。


余談だが、ミスティアは悪いことをしている時が一番可愛い。大はしゃぎで物盗りから金を奪うし、同族を見たことがないから定かではないが、もしかして彼女は悪魔なのではないか。

でも彼女は彼女基準で悪い奴には容赦がないというだけで、優しくないわけではない。

町の人には気を遣っているし、人間らしい常識もある。

ただ小悪魔なのは確定。

召喚したばかりの悪魔に同じベッドで寝たらと言う神経は理解出来ない。

悪魔はテディベアではないのだ。

床で寝るからと断ると、汚いから絶対するなと言われた。

まぁ悪魔は寝る必要は特に無いので、寝ると言っても転がって休憩するとかそういう意味合いだ。僕が寝なければ問題ない。


「ジル。」


声を掛けられ下を見る。

アメジストの瞳が僕を見上げていた。


うっかりふわふわ寄って行きそうになるが、すんでのところで彼女が裸だったことを思い出し上の方から返事をした。


「終わった?」


「タオルを取ってきてくれない?」


タオル。

そういえばミスティアはタオルを持って来ていない。彼女は結構抜けているところがある。


「ちょっと待ってて。」


家に取りに戻ったタオルを運びながら考える。

このタオルをどうやって渡すのか。


「持って来たけど…」


「ありがとう。」


こちらに背を向けながら振り返り、ちょうだいとばかりに肩越しに手をヒラヒラさせている。


「え゛っ、そこまで行くの。」


まごついている僕に、早くしてと言うように頷きながら目線を寄越す。


「そっち行ったら見えるけど……」


「目線を逸らしてくれれば良いから。」


僕のことを信用し過ぎではなかろうか。

この前信用してはないみたいなことを言っていたのに。


これ以上渋ると本当に意識してるみたいになるので、仕方なくその白い肢体を遠目で確認してから目を逸らしつつ飛んで近づく。

視界で肩の辺りを確認してそっとタオルを乗せた。


「はい。」


任務完了、今すぐ飛んで離れたい。


「ありがとう、軽く拭いたら戻るわ。濡れるから運び方はエイリアン持ちが良いかしら。」


エイリアン持ちとは彼女の脇の下から掬い上げてブラブラと運ぶ持ち方だ。

ミスティアはタオルを体に巻くとこちらを向いた。この格好のまま運べと言うのか。


このシステムは絶対に効率が悪い。

早めに改善案を提案しなければ。





夜、寝室に入るとドアを開ける音にも軋む床にも微塵も反応せずに彼女は寝ていた。

歩いて近寄るもやはり反応はない。

ベッドに上がる許可を得ている僕はしかしその横の椅子に腰を下ろし、眠る彼女を見た。


「君って変わってるよね。」


睡眠中は本当に滅多な事では起きなさそうな彼女は、初日にうたた寝していた際何度か呼び掛けたものの、成る程起きない。

それから寝ている時に話し掛けて起きないか確かめるのが日課のようになってしまった。


「中身は絶対9歳じゃないんだけどな…」


逆に子供っぽすぎるところもあるけど。


「とにかく、喚ばれたのが僕で良かったよ。」


寝ている間は隙の塊のような彼女ならば低位の魔物でも危ないだろう。

あの魔狼が何とかするかもしれないが。


「おやすみ、ミスティ。」


僕の独り言は今日も闇に溶けて消えた。



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