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魔女様は攻略しない  作者: mom
第6章 不定形の光条
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98 背徳の祭壇(全自動)

人物紹介が的確な上に面白い、素敵なレビューをいただきました!

ありがとうございます!!



騎士団の馬車で家の近くまで送ってもらい、そのまま歩いてエリル村へ向かうと、村の前でエリックが待ち構えていた。


「そろそろお帰りの頃かと思っておりました。」


いや、何日に帰るとか日付単位でハッキリしてなかったんだけど……何故いる? お帰りの頃とかエスパーでもなきゃ分からなくない?


満面の笑みで門の中へ誘導するエリックを疑問の目で見ていると、他にもぞろぞろと村人が集まってくる。ジルは早速取り囲まれて質問攻めにあっていた。

その様子を見て、私の後ろに隠れていた黒いローブがびくりと揺れる。


「そちらの方は………………」


そしてそれを見てエリックが瞳を期待にきらきらさせている。

そんなに期待されても、別に新しい下僕とかではない。少しエリックに似ているところもあるが……もしかしたら仲良くなってしまったりはするかもしれないが…………。


そう思っていると、ローブを被っている彼女────シレーアは、フードを外しながら前に歩み出た。


「イノスのチュウジツなるシモベ、シレーア、モシマス……………イゴオミシリオキ。」


出会って数日の間で少し流暢になった言葉でとんでもない自己紹介をする。


対するエリックは唇だけ微笑んだまま、あれこれ吸い込みそうな空洞の目でシレーアを見つめている。その瞳孔はさながら渦のようである。

目ぇ怖っ!


「えっと、実は………」


とりあえず沈黙が怖いので経緯を話すことにする。

教会の件が片付いた後、ルザールのお姉さんの処遇について騎士団で話し合いがあり、結局彼女は私が預かることになった。なんでだ。

ルザールは一般的には偏見があるし、人の少ない田舎に預けようというのは分かる。しかし何だろう、ここが適しているから……というよりは、下手に触るとヤバそうだから懐いてるし持って帰ってね!的なノリで押し付けられた気がする。


まぁそんな私も、自傷して脅してくる奴と一緒に住むのは怖いし、エリル村に押し付けに来たのだけれど。

悲しいかな……こうしてたらい回しって起こるのね。


「なるほど、それで村に住めないか、と。」


一通り事情を話すと、普通の目玉に戻ったエリックが顎の下に手を添えて頷く。

純真無垢なノアをエリル村に混ぜるのは抵抗があったが、その点彼女は朱に交わる前からクリムゾンレッドな感じだったので問題はない。

あとは村の側が受け入れられるかだが……魔物の死骸も喜んで祀ってたくらいだし、ルザールとか気にしない……わよね?


返事を待っているとエリックは目を見開い………………いや、目をかっ開いて、シレーアの肩を掴んだ。


「さすが魔女様!! 素晴らしい! まさに! 我々が!! 求めていた! 人材! です!!」


自称シモベが??


「あなた、自分の体験を他の人にお話できますか?」


エリックはゆっくりめの口調でシレーアとコミュニケーションを取りながら村人に指示を出し、少しして村人が持ってきた同人誌を広げながら何やら話し込みだした。

まだちゃんと言葉は通じない筈なのだが、絵を指差しながらプレゼンのように語るエリックにシレーアがしきりに頷いていて何だか怖い。


参加も制止もできないので、ジルとあやとりをして遊んで待っていると、終わったのかこちらへ戻ってきた。


「いや〜、いいお話を聞けました。言語の違いで全ては理解できてない私ですらこんなに感動するなんて…… 初対面の他人よりもやはり近しい者というか、この場合は同族でしょうか? 特に少数種族は他種族よりも同族の方に親しみが湧きやすい傾向にあるでしょうから、そちらから布教、しかも実体験ですからね。これは相当な衝撃でしょう。感動の伝播が止まるところを知らず波及していく様が今から目に見えるようです……こんな初体験ができる彼らが羨ましい。まぁ私の初体験も比べられない程、それはもう素晴らしいものでしたけど? でもやっぱり最初の衝撃は大事ですよね。それぞれ自分のファーストコンタクトが一番思い入れのある、忘れがたいものになる筈ですし、もう全てを新鮮に体験するには記憶を都度消去しなければならないがそんなこと出来るはずもなく消えたら消えたで困るし……ハァ〜人生って難しい。」


エリックはここまで一息で言い切ると、やれやれといった風に両手の平を上に向け目を伏せた。

さっきあれだけ語ってたのに、まだこんなに呂律が回るなんて……よく口が疲れないわね。

というか言語があまり通じない割に話が分かった的なことを言ってるけど、こっちは同じ言語を使ってると思えないレベルでエリックの話が見えないんだけど。彼らって誰ら? 早口すぎてところどころ聞き取れてないし。


「あの、終わったの?」


「あぁはい! お待たせしてしまい申し訳ありません……私としたことが、魔女様の新しいご武勇に意識を刈り取られてしまい……」


いやそれ失神してない?

というか失態みたいに言ってるけど、あんた割と日常的に妄想の世界にトリップしてると思うわよ。


「こちらの方の住まいの件、ちょうど整備中でじきに完成する物件がありまして。きっと気に入ると思いますよ。ご案内しますね。」


なんと、都合の良いこと。


「こちらです。」


エリックに従って歩いていくと、村の教会に着いた。

後ろを歩くシレーアを見るも、思いの外平然としている。どちらかというと興味ありげに見えるくらいだ。教会はトラウマが蘇ったりしないのだろうか。

……というかこの教会、ちょっと見ない間にまた少し外装が変わっているわね。


「前から思ってましたけど、貴方禍々しい見た目のくせに教会とか平気なんですね。」


「あは、よく言われる〜。」


信者くんは清廉そうに見えてアレだよね、と返すジルを眺めつつ中に入れば、こちらも外装と同じくリニューアルしていた。

日除けに酷使されていたゼーゼリアの絵が奥の壁まで移動しており、祭壇のところには何もない。ぱっと見、正しくゼーゼリアを掲げている教会に見える。

そんなはずはない。おかしい。


「ちょっと待ってくださいね。」


そう思っていると、エリックが部屋の隅にあったゼーゼリアの像の方へ歩いていく。前はなかった彫刻だ。

そして像の首に両手を添えると、思い切りゴキンと首を右に回した。


「え、な、何……?」


完全に首を折る手つきだった。

無駄に手慣れているし怖い。


「村外からの出入りの可能性があるときはさっきの状態にしていて、ここを回すと元に戻るんです。」


見てください、と指す先には、天井から下がるビロードのカーテンがあり、今まさに後ろから絵画が降りてきている。以前ゼノリアスに絶賛されていたエリル村宗教画だ。

スルリと降りてきて、空中のいい感じのところで静止した。


「このモードの時は祭壇の裏が地下に通じていて、ここから聖遺物の収納が可能です!」


そう言って祭壇の後ろをパカパカ開ける。

なんか楽しそうだが結構ついていけてない。


「あとここも収納になってるんです!」


お次は壁にあるゼーゼリアの絵画の額縁に手を掛けて開閉する。そこ開くのね。


匠の手がけた収納ハウスと化した教会を紹介し終えると、エリックは本題とばかりに私たちを隣の部屋へ通した。

通常の教会であれば、神使の自室になっているような場所だ。ここも一応、簡素なベッドと椅子と机があり、エリル村にしてはまともに見える。


「こちらです!」


そしてさらに奥の扉の向こうには階段があり、地下へと続いていた。こっちが本題か。


エリックが灯りを持っているが、地下なので当然暗い。

恐る恐る足を踏み入れた私を待ち構えていたのは、ルザールだらけの難民キャンプだった。





なぜ、ルザールを一匹連れ帰ったらたくさんに増えているのか…………。

緑の髪色も相まって、水に浸けると増えるわかめを彷彿とさせる。

いや、連れ帰る前からここにいたのだから、シレーアが増殖したわけではない。シレーアを連れてきた後にこれだけ増えていたなら、ルザールの養殖を疑うところだったが。エリル村ならやりかねない。クローンとか、禁忌でもやれたら手を出しそうな感じがする。


呆然と緑の美女軍団を眺めていると、美女たちの方はこちらを見て何やらひそひそ囁いている。


「みなさん、お静かに。魔女様の御前ですよ。」


ここにいるルザールたちは私のことをエリックから聞いているらしい。既に布教という名の洗脳でもされているのかと恐怖したが、今のところ信者感はない。


「このルザールたちがつい先日村に侵入しまして、ひとまずここに住まわせております。まだ作成途中なのですが順次ベッドなども運び込む予定でして。シレーアさんの分もご用意しますね。」


「え、侵入?したの?」


エリックが言うには、夜盗未遂で捕縛したが、見込みがあるので村に迎え入れるらしい。

泥棒しにきた侵入者を住ませて再利用しようとか正気かこの村……………いや元から正気ではなかったわね。


「もちろん魔女様の素晴らしさもお伝えしておりますよ。ただ、興味は示したのですが、文化が違うと好む傾向も異なるようで……そこでシレーアさんにお話していただこうか、と。」


「オマカセアレ。」


なぜかシレーアは理解したようで左手を胸に当てて深く頷いた。


「では、お願いしますね。……さて! 長くなるでしょうし、我々は外に出ましょう。ご帰還の宴をご用意しておりますので。」


そこはかとなく不安だわ。

なんかこの村、見てない間に髪が伸びる人形みたいね……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もエリル村の濃縮された狂気とミスティアとの温度差が大変面白かったです! [気になる点] こうして無垢だった村のルザールたちもエリル村の毒牙にかかり信者となって行き、エリル村の狂気は加速…
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