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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる
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10 略奪する



「グェッヘッヘ、兄ちゃん達、その中に入っている金を出しな。」


人気のない馬屋の裏に来ると、早速カモ……間違えた、カツアゲ3人組が現れた。見た目は町の不良高校生といったところか───高校はないけど。さっき尾けられていた時に先制攻撃で正面から顔を見られずに始末出来れば良かったんだけど、通行人がいたので断念した。

あからさまにザコ盗賊みたいな笑みを浮かべて壁を背にした私達にジリジリと近づいて来る。


「金?何のこと?」


ジルはそんなもん知りませんけど?といった風に返す。結構演技上手いなこいつ…気をつけよう。


「とぼけるな!ネーガンのジジィのところで持って出ただろう!」


「あぁ、だから尾けてたんだね。」


あの買取のおじさんはネーガンさんって言うのね。この様子だとお金があっても町人は襲わないのかしら。後が面倒だからか?

その点こっちは旅人風の部外者だし、狙われやすいのかな。最初に来た時はクレイグに付き添ってもらって良かった。


「おい、早くやっちまおうぜ。今はクレイグが居ねぇけど警備隊は居るんだからよ。見つかると面倒だ。」


と、思っていたら3人組の一人が勝手に追加ヒントをくれた。どうやらクレイグは町の治安に一役買っていたらしい。ただの世話焼きボーイと思っていたがやるな。年上の不良をビビらせるとは。


「怪我したくなかったら有り金全部置いてきなァ!」


本当にただの不良のようだ。

アホそうだし、この感じなら撃退してもネーガンさんに迷惑を掛けたりバックのヤバい人が出てきたりとかは無いだろう……多分。


「そろそろいいかな?」


「そうね、やっておしまい。」


私が明らかに悪役のようなセリフを吐くと、ジルは速やかにアホ3人組を気絶させた。





「あら、結構持ってるじゃない。」


ジルには念のため普通の人間風に倒すよう言っておいたが、実に鮮やかにこなしてくれた。

アホ3人組とは言え悪魔やら魔法やらがバレるのは避けたい。うっかり殺してしまって捜査されるのも困る。


気絶している3人組の周りをお金を数えながら小躍りしてくるくる回っていると、ジルに微笑ましいものでも見るような目で見られていた。恥ずかしい。

回るのをやめて誤魔化すように咳払いをする。


「まさかお小遣いが自分からやって来るとはね。」


「悪い顔だな~。」


「いいのいいの、盗っていいのは盗られる覚悟のある奴だけよ。私にはないけどね。」


そこはほら、やり返しただけだから。


「はいジル、これで食材とか調理器具とか買って。全部使っていいわよ。」


ジルの手に3人組から奪ったお金を入れた袋を乗せる。


「いいの?」


「食の充実は大事よ。私はよく分からないから任せるわ。」


ジルとザッハのお陰で食と住は完璧ね。

後は……服か。前買った分だけじゃ少ないし、何より暑い。

私がゲーム通りにシナリオを進めるのが億劫だった理由の一つが服だ。

この国では令嬢はあまり肌を見せるのは宜しくない、とされている。何も足首見せたらアウトというわけではないが、ゲームの舞台になる学園の制服は年中長袖に膝下のロングスカート。流石に生地は変わるけど………暑苦しい。

その点平民なら今私が着ているみたいに膝丈ちょうどくらいの半袖ワンピースもOK。

だが私は来たる夏に向けて更に上を行きたい。ノースリーブを着たりミニスカートを履きたい。ここで今回入手したいのが涼しげなミニワンピースだ。既製品は売ってなさそうなので適当なのを買って切るか。

幸い住んでいるのは山だし人に指をさされる事はないだろう。町に来る時は長めのヤツを着ればいいし。


「自分のお金は服に使うわ。フード付きのマントも欲しいわね。」


こんな布を被った代用品ではなくちゃんとしたヤツ。

ジルも尻尾とか耳とかあるから必要ね。


「そう言えばあなた服とか替えはないの?ついでだし買ったら?」


魔法陣からはジル本体しか出てこなかったものね。着せ替えは別売りというヤツか。


「あぁ、悪魔は服は具現化って言うの?能力で出てるみたいだから汚れないし替えも必要無いよ。」


え、それってつまり布ではなく────


「今あなた実質全裸ってこと?!」


「え?!違う!!」


二歩後ずさった私に慌ててジルが弁解を始める。


「大丈夫、分かってるわ。ちょっとからかっただけよ、ごめん。」


全裸ならその上から布をマントみたく巻いているので完全に露出狂だなとか想像して笑ってごめん。


「でも普通の服もあった方がいいわ。その服見た目に暑いし。」


どんな服がいいかとか話しながら町の商店街に戻る。尚、アホ3人組はここに放置して行く。そのうち勝手に起きるか誰かに起こされるだろう。





「でね、裾を短くしたいんだけど。」


「おっけーおっけー、じゃあ丈調整するわね!」


店に行って話をすると、オネエ風の仕立て屋さんは私の希望に「そんな短くすんの?」と疑問を持つ事もなく嬉々として作業を始めた。

その間にもジルは次々布を持って来てはオネエに話し掛けている。


「ちょっとジル、そんなに持って来ても仕立てないわよ。」


次々と買い物カートにお菓子を入れていく子供とその母親の会話のようだ。

そもそもなぜ仕立て屋なんぞに来たかと言うと、ジルが粘ったからだ。町には予め大体のサイズで作ってある既製品を売っている店がありそこで買うつもりだったのだが、後学のためとか言って仕立てを見たいとか駄々をこねた。

なんでも裁縫に興味が湧いたらしく、覚えて仕立てると張り切っていた。今までは服が必要無かったので趣味としてノーマークだったらしい。

女子力高すぎないかしら、コイツ。


「あら、この柄この娘に似合いそうね!」


「こっちも捨て難い。」


マネキンのように突っ立っている私を置いて、二人が女子高生のように盛り上がっている。

なんだこいつらと思いながら見ていると、二人は明らかに町人が着ないようなフリフリしたデザイン画なんかを描いて見せ合い始めた。


「アンタいいセンスしてるわね!この丈のデザイン初めてだから楽しいわ!」


「こういうマントはどうかな?」


「それならここに刺繍を入れたいわね。」


「なるほど。刺繍か……やった事ないな。」


「今度教えてあげるわよ!」


意気投合しているところ悪いが私はその服を今日仕立てる予定はない。可愛いけども。そんな無駄遣いは出来ない。


「二人とも、今日はシンプルなやつ一着だけよ。」


「え~。」


オネエさんはブーブー言いながらこんなに可愛いのに?と言わんばかりにデザイン画をこちらに見せつけて来る。


「あの、可愛いんですけどそんなお金ないので。」


今日は安いのとは言え既にジルの分と私の残りは買ったしね。


「そう? 残念ね……。ジルちゃん、今度私のところでお手伝いしながら作らない?」


「いいの? やろう!」


なんだかそのうち上手いこと服が手に入りそうだわ。


「じゃっ、今日のところはどの布にする?」


「そうね………」


せっかくだから染めてる方が良いかな、と思いながら布を眺めているとジルが微笑み…というか、悪魔的なニヤリとした顔でこちらを見ていた。


「黒が似合うよ。」


黒、ね…

ジルはさっき自分の服を選ぶ時も黒にしていたし、黒が好きなんだろうか。


「うーん。」


夏っぽくはないけど、無いことも無い…な。


「全体的に白いから、黒がいいと思うな。」


私が揺れているとセールスマン張りに笑顔で圧力をかけてくる。

ただ心からそう思っているのか、そう言われると私もそんな気がしてくる。流されやすいのかしら、私。


「あー、良いわね!そうしましょ!ねっ、どう?!」


「え、ええ…」


考えている間にオネエさんが嵐のようにノッてきたので勢いに押されて了承してしまった。

まぁそのつもりになってたから良いんだけど。


そうしてジルとオネエさんが盛り上がりながら仕立てをしている間に結構な時間が経ってしまったので、食関係の買い物は後日にする羽目になった。



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