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魔女様は攻略しない  作者: mom
第6章 不定形の光条

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91 騎士団歓迎会



「久しいな…俺の悪魔…………」


応接室を出て訓練所の方へ歩いていると、通路の右、最初の角の影で、壁に背を預けてガイナスが立っていた。

騎士団の制服ではないが、私を狙撃した時と同じような格好……背の高い筋肉質な身体を八割方覆うようにマントを纏っており、これはこれでそれっぽい。エージェント感が出ているわ。


「息災のようね。」


前より顔色も良くまともに生活していそうだが、私を悪魔呼ばわりする厨二は健在である。


「俺は騎士団でそれなりにやっている。なにか用件はあるか?」


こんな死角で潜んでいる辺り、厨二もなかなかサマになっている。実力のある奴がやる影ごっこは学生がやるのとまたレベルが違うわ。

声がするまで全く気付かなかった。

というかこいつが刺客なら私やられてない?


「いえ。そのまま役職にでも就いて安定した生活を送ってくれて結構よ。」


「フン、まぁせいぜい溶け込んでおく。」


もう既に溶け込んでいる気もするが。

おじさまからの手紙にも弓兵育成に貢献しているとお褒めの言葉が書いてあったし。


絶賛影ごっこ中のガイナスを通り過ぎ、歩を進める。すると、驚いたように二度見された。


「────どうした、その格好は?」


まるでダンスパーティーに普段着で来た奴を見るように、お前そんな非常識な奴だったか?とでも言いたげに、壁に背を預け腕を組んだ体勢のまま目を見開いている。

もしくは乙女ゲーム風に言うなら、 パーティー会場に泥だらけにされたドレスで登場したヒロインを見る目か。

しかし私は非常識な格好も、苛められましたと全身で語るような格好もしていない。


「今回の依頼で教会に行くのよ。」


コスプレではないので、その辺も悪しからず。


「教会で何を……魔歌でも歌うのか?」


「魔歌って何よ。」


デスメタル的な何かか?

アニスさんといい、何故教会と私は相性が悪いのが騎士団共通認識みたいになっているのかしら。


「まさか聖歌じゃないだろう?」


「聖歌隊なんだから聖歌を歌うわよ。」


私の返答に、ガイナスは額を押さえて天を仰いだ。


「やはり神はいないのか………。」


哲学者みたいなことを言うんじゃないわ。


「あ、魔女ちゃん終わった?」


一人アーメンしているガイナスを放置するべきか悩んでいると、廊下の先からふにゃふにゃした男が歩いてきた。


「なに? リューちんと話してたの?」


「別に、挨拶していただけだ。」


チャラ騎士の登場に、ガイナスも変なポーズをやめて腕を組み直す。

こんな孤高を気取った感じにも関わらず、めちゃくちゃ気安く呼ばれている。本当に騎士団に馴染んでいるようだ。


「久しぶり~、俺のこと覚えてる?」


「えぇ、瘴気山脈ではお世話になりました。」


忘れるはずもない。

私のサンドイッチを奪った極悪騎士だ。

食の恨みは長いモノ。気をつけることね。


「あ、めっちゃ覚えてるね?! ごめんってば、ほら、キャラメルだよ~!」


こいつも私が怒っていたことは覚えていたらしい。サンドイッチのお返しとばかりに王都キャラメルの箱をチラつかせてきた。

遊園地のピエロを思わせる動作が微妙にイラッとさせるわね。

ムカつくがキャラメルは受け取っておく。

受け取って、後ろでジルが広げている鞄の中に放り込み、前を向き直すと、極悪騎士はいつの間にか数メートル先へ行っており、また新しいキャラメルの箱を取り出して見せつけるように振っていた。


「まだあるよ、おいで~。」


今度はしゃがんで、ニコニコ笑いながらキャラメルを持っていない方の手を誘き寄せるように小刻みに動かしている。

私は動物か。


「ほ~ら……お~よしよし、いい子いい子。」


仕方なく取りに行くと、撫でてこようとしたので飛び退る。

行き場のなくなった手を引っ込めた騎士は、まだか………と呟きながら再び数メートル先へ走り、新たなキャラメルを掲げた。


「ほ~らおいでー。」


無性にイラつきつつジルに目線を送る。

直後、ジルの投擲した聖歌隊小道具の楽譜ファイルが悪辣騎士のスカスカそうなオツムにヒットした。


「………最初から全部出しなさいよ。」


地面に転がって額を押さえる男のもとまで行き懐を棒で探れば、キャラメルの箱が出てくる出てくる。

種類豊富なキャラメルたち。そして最後に「猫に懐かれるための10の法則」と題された本が転がり落ちた。

さっきのアホみたいな態度はまさかこれを参考に………? 恐ろしい、アホさにゾッとしたのは初めてだわ。


「猫扱いで私が懐くと思う? 頭に藁でも詰まってるのかしら。」


床に倒れたままの騎士の胸部を棒でぐりぐりつつく。ごめんって~と、間の抜けた返事が返ってきて手を離すと、周囲から感嘆の声が漏れた。

………周囲?


「あの、何か失礼を……?」


声の方……この場合360度全方位なのだが、そちらを見回せば私は騎士に囲まれていた。


「………………いえ、何も?」


しまった。

騎士団の本拠地で騎士に暴行と暴言を浴びせているところを見られてしまった。いつからいたのだろうか……よく見ればここは訓練所の前で、アニスさんに寄るように言われた目的地である。悪辣騎士にキャラメルで誘き出された感が否めない。

恐らく、騎士が集まる場所まで自分でのこのこ来て、誘き出したこの騎士にイラついて行なった一部始終を全て見られている。

思い返すと、言動が完全にカツアゲの現行犯だわ。

どうしよう。目撃者が多過ぎて口を塞ぐのも無理がある………。


「大丈夫です、教育的指導ですよね!」


「えっ…」


上手い言い訳を考える間も無く、輪の中から飛び出した数名の騎士の一人がキラキラした目を向けてきた。


「なにかしら、この既視感。」


「……騎士だけに?……いてっ。」


しょうもない事を言うジルの脇腹を肘で突きつつ再度確認する。

この目は……あれだわ、エリル村の。


「えっと、あなたたちは………」


騎士団にエリル村出身者はいなかったはず。

信者作成マシンのエリックとも接触していないはずだけど、なぜこのような遠隔地で感染が……?


「瘴気山脈でお世話になりました、雑草にも劣る役立たずの下っ端騎士です!」


「同じく、しがない豚です。」


「不手際がありましたら、遠慮なくぶってください! 丈夫さだけが取り柄ですから!」


3人組に圧倒され、後ろに退きつつ他の騎士を見る。ちゃんと変なものを見る目で見ている騎士がいることに安心する。

と同時に、それが少数派であることに戦慄した。


「ハァ、ハァ………先輩羨ましいぜ……」


倒れ伏すチャラ騎士を抱き起す際にも、不穏なセリフが聞こえてくる。

こういう対処に困るものは見ないフリが一番である。


視界に入らないよう逆方向の景色を眺めていると、比較的まともそうな年配の騎士が歩み出た。

よく見ると落ち着いているのはベテラン騎士と言えそうな年齢の人ばかりで、マゾっ気のありそうな若い騎士はいずれも瘴気山脈でお世話したことがある気がする。

まさか魔物退治を教える時に少しキツめに当たってしまったのが悪かったとか……………まさかね。はは。


「お疲れでしょう、ひとまず座ってください。」


「え、えぇ、どうも。」


あれよあれよという間に訓練所の中へ誘導され椅子に座らされテーブルがセットされ、淹れたてのお茶が出てきた。

訓練所でこういうお茶会セットを広げてもいいものなのだろうか。立派な旗が掲げられた壁面も、少し目線をスライドさせれば「来訪歓迎」と書かれた垂れ幕がまるで外国人に人気の観光地かのようにでかでかと飾られている。

騎士団は基本優しい人と変な人ばかりなのか、邪竜討伐での私の蛮行を目にしたにも関わらず、本当に歓迎パーティーを開催する手筈だったらしい。


「付き添いの方もどうぞ。」


「どうも~。」


ジルの前にもお茶が出される。

出したのは今日私たちと馬車に同乗してきた使者役の人で、こちらはカタカタと小刻みに震えていた。こぼれる、こぼれる。


「す、すみません! お茶もあいにく高級茶葉の備蓄がなく、すみません!」


さっきは怯え過ぎていてちょっと腹が立ったので高級タルトを要求して困らせようとか思って意地悪を言ったけれど、お茶がジルの淹れたものと比べて天と地の差だからって私は怒ったりしない。

悪いことをしたわ。


「気にしないでください、美味しいです。」


気を遣ってお世辞をかましていると、先ほどチャラ騎士を回収していった3バカが嬉しそうに寄って来るのが視界に入る。

何しに来たのか知らないが、犬っぽい。


「あの、良ければこちらもどうぞ!」


3バカの一人から、目の前にタルトの乗った皿が差し出される。これは間違いなくフレールのタルト。

道中で無理を言ったものが、到着したら既に準備されている。

騎士団には発達した連絡手段でもあるのかと驚愕して、隣で震えている同乗していた騎士を見ると、これまた小刻みに首を横に振っていた。偶然か。


「お好みではありませんでしたか……?」


3バカのうち、一番体がごつくてガキ大将のような見た目の騎士が上目遣いに見てくる。


「……ハッ! デーニッツ、お茶を飲まれている最中に我々のような劣等人種が視界に入ったから気分を悪くしたんじゃないか………?」


「……! 無作法な肉塊ですみません!」


でかい図体が俊敏に頭を下げる。

こいつらは何を言っているのだろうか。


「あ、いえ。行列ができるお店のもの、ですよね。」


「はい! フレールという、貴族の間でも評判の店のものです!」


「魔女殿がおいでになると聞いて、朝から並んで参りました!」


魔女のためにケーキ屋に並ぶ時間があるなら早朝訓練でもしなさいよ。


「ひぇっ……すみません!」


「明日倍やります!」


おっと心の声が漏れていた。

しかし私は上司でもないからその反応はおかしい。そして嬉しそうにするのはやめろ。


「おい、少しは褒めてやれ。お前に褒められたいと昨日騒いでいたぞ。」


いつの間にか隣に立っていたガイナスがいらぬ情報を流してくる。


「もう喜んでいるけど。」


「お前のせいだ………悪魔め。」


「は?」


心外だわ。

まぁでも、タルトのお礼はしておくべきよね。


「……タルトは好きよ。よくやったわ。」


エリル村理論でいくと、褒めると変な方向に行ってしまって次会った時にはこの3バカがタルト職人になっている可能性もある。

騎士団の手前、タルト職人を量産しない方向に誘導しておかなければ。


「歓迎してくれるのは嬉しいけれど、騎士の鍛錬も怠らないようにね。」


「精進します!」


「騎士団長のような、立派な騎士になります!」


やる気がすごい。

今はおかしくなっているから良いけど、正気に戻ったらまともに屈強な騎士が残るってことよね。

………これ万が一騎士団が敵になった場合、自分の首を絞めてるわね。

私も自在に洗脳を施せる術を身につけておいたほうが良いかもしれない……無理か。



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