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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる

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プロローグ



前世の記憶が蘇って目を開けると、そこは燃え盛る自室のベッドの上だった。


「……あっっつ!!」


カーテンから本棚から火だるまになっている。

普段から寝たらなかなか起きないとは言え、自分が悠長に寝ていたのが嘘のようだわ…

普通だったら慌てて外へ飛び出してるレベルだけど…今は逃げるよりも別のことが気になる。


「…なんだっけ、見覚えが……」


自分の部屋が盛大に燃える経験なんて一生に二度もあってもらっちゃ困るし、今生ではない…

多分前世の方の記憶だわ。

そもそも記憶が戻ったというけど、前世と今世の今までの記憶が今しがた同時にインストールされたみたいな感じなのよね。なんだこりゃ。


「インストール……あ。」


これ前世でやってたゲームのシチュエーションだわ。

友達に勧められて戯れにやってみた乙女ゲーム「シンデレラ・ロマンス」…幼馴染のお兄ちゃんがめちゃくちゃ強烈すぎたので覚えてる。


確かヒロインの幼少期、欲に目が眩んだ親戚の企みで屋敷に火をつけられ両親が他界、一人生き残ったヒロインはその親戚に渋々引き取られ、そこで叔母や従姉妹に虐められまくるのだ。

で、貴族は全員入学の王都の学園に入学してゲームが始まる……という流れなのだが、ゲームを進めるとその親戚を唆したのが幼馴染のお兄ちゃん、アルフレッドだったと判明する。


前世の私はアルフレッドのことを親しみを込めてサイコクレイジー兄貴と呼んでいたが、マジでおかしかった。

詳しい時期は知らないが子供の頃からヒロインが好きで、ヒロインがシンデレラよろしく不遇なところに王子様のように現れて手を差し伸べ自分を妄信させたいという困った性癖の持ち主であった。

ところがヒロインがへこたれず学園で恋愛しだしたので攻略対象を殺したり陥れたりして当初の予定通り不幸にしてやろうと画策してくる。

バッドエンドで何回こいつの顔を見たかわからない。ヒロインが絶望したところや殺されかけたところに現れたこいつに縋ってひっついてしまうエンドまみれだった。なんで攻略してない奴とひっつくのか。おかしいだろ。

そんな兄貴だが、一番おかしいのは2巡目以降は攻略対象となっていることだ。バッドエンドで散々くっついたし、もう結構という感じだ。

現実だったらこんな歪んだ奴絶対攻略したくない。


さて、サイコな兄貴に思いを馳せている間に火の手がますますマズいことになってきた。

こんな状況だけど私が比較的落ち着いているのはバカだからではない。ゲームでは例の兄貴は火事でヒロインが死なないという自信があったからこの計画を立てた。


私の体内には、昔事故に遭い生死の淵をさまよい手術した際にサイコ兄貴によって実験がてら埋め込まれた古代の魔石があるはずだ。

サイコ兄貴は古代の魔法に興味があり魔石が適合したら助かりそうだと手術中にコッソリやらかしたのだ。恐ろしいことに奴は他人の思考を誘導する能力に長けており、大人に気づかれることなくそんな大胆なことをやってのけた。

当時奴は6歳であり、それだけでもサイコの海の深淵が垣間見えるものである。


その魔石は、ゲームでは火事でヒロインが死にかけている時に守りの力みたいなのを発動してヒロインを救った。その後学園でのイベントの時に正式にヒロインが魔力に目覚め守りの聖女的な扱いを受ける。

この世界では魔法は古代のもので伝承扱いで、誰も使えないのでヒロインが神聖視されたのだ。

と、いうことでこの火事で私が死ぬことはない。


「金品でも持ち出そうかしら。」


死なないとわかっているのなら我ながらいい案だわ。


半開きの扉を開けて母の部屋に入ると、宝石類をあるだけ腕に引っ掛ける。

ゲーム通りに両親は寝室で死んでいた。今世の記憶もたった今頭に入ったようなものなので、冷たいようだけどあまり両親の実感がない。まさにゲームの中の話みたいな感覚なのだ。

それでも悲しいものは悲しいのだけど。


両親に最後の別れをしてまだ火の手が回っていない部屋から抜け出す。

ピンチ以外に力が働くかわからない以上、死ななくても金具とかで火傷したら困るからね。


「ハァ…………」


とにかく無事に外に出て、燃え盛る屋敷を眺め思案する。


さて、現実では関わりたくもないサイコ兄貴だが…今世ではここが現実でしかも私は何故かヒロインなので絶対に関わり合いになってしまう。

そこで妙案を思いついた。

この火事で死んでしまおう。

というか、死んだことにして隠居しよう。


そもそもこの後ストーリー通りに生き残っても待っているのは従姉妹たちのイジメだし、何より現代っ子で偏食の気質を受け継ぐ私にはゲーム通りの食生活は地獄だ。そしてそれを我慢して得るご褒美がイケメン攻略対象とのめくるめくラブストーリー…。

前世ではプレイヤー名を「妖怪人間」にしてイケメンに妖怪人間を口説かせるという捻くれた遊び方をしていた私。イケメンの愛の囁きなぞ全然ご褒美じゃないどころか苦行に近いものがあるのだ。

サイコ兄貴もいる以上、一人でもストーリーから外れて生きていくのが良さそうだわ。


そう決めて屋敷を背にしたとき、自分の体から漏れる光がドス黒い事に気がついた。


「あれ……何これ。」


確かヒロインは聖なる守りの力で助かったとき白く輝いてなかったっけ?


「………………。」


まさか私の心が汚いから黒く輝いてるとでもいうわけ?

ていうか見た目的にこれ守りの力なの?逆っぽくない?


そう思って試しにこの謎のエネルギーを目の前の木に向けて念じてみると、何もない空間から黒い雷が落ちてきた。


ドンッ


大きな音を立てて裂けた木が倒れる。

私は木の枝のミシミシいう音を聞きながら目を泳がせた。


…どうやらゲームとは根本的に違う方向に目覚めたみたいね……





アルフレッド・マグワイアは、窓の外遠くで今頃明るく燃えているだろう屋敷を想像して、温厚そうな顔をさらに柔らかくした。


「あぁ、ミスティア……ごめんね。」


現実にするつもりの未来のことを考えて、窓に指を滑らせる。


「待っていて、必ず迎えに行くから。僕が君を幸せにするから…」


いかにも優等生の良家の子息といった容貌に相応しい優しい笑みを深めると、窓からそっと手を離した。


彼の思惑に反して、ミスティア・グレンヴィルが死んだという報せが届くのは明朝のことだった。





死体がないとアルフレッドの野郎にすぐバレてしまうなと思い至り、この闇のパワー(仮)の練習も兼ねて黒い稲妻でいくらか家を破壊してみた。


破壊しながら、ゲームで見た時は考えもしなかった使用人が巻き添えを食っている可能性にも気づいて慌てて確認してみたけど既に屋敷は炎に包まれて時間も経っていたので無駄だった。

記憶はあるけど長い間一緒にいたという感覚はないので両親以上に思い入れがないんだけど、良い使用人たちだったので残念ではある。

私が金品とかゲスな事を考えず動いていれば助けられたかも…とも考えたけど、過ぎた事だしこの9歳の体では大人を助けるのは無理だったろうから考えるのはやめた。


「はぁ………どうしよう。」


家を一部瓦礫にして死体を探しにくくするのには成功したけど……さっきから体が全然動かない。

だから無駄にいろいろ考え事をして使用人の身などを案じて暗い気分になるのよね。

この闇パワーは使用者の体力を奪うタイプらしく、5発くらい雷を落とすとこうやって行動不能になった。

初めてなのに調子に乗って連発したのがまずかったわね。


「あー、あー…発声練習~。マイクテスッ。」


喋ることは出来るけど、助けを呼ぼうにも誰もいないし…まぁ来ても困るんだけどね。

この辺りは森に囲まれていて、うちの屋敷以外に人気はないので誰も来ない。だから幸いにも誰にも見つからず身を隠せるんだけど………いや、これが一因で放火を決行されたから幸いではないわね。

とにかく何としてでもここを動かないとヤバい。夜も明けてきたしそろそろ人が来る。

このままだと見つかって救助されてしまってシナリオ通りになる…

でも体力が戻らない……眠い…


《おかしな娘だな。》


謎の渋い声が聞こえたのを最後に、私は眠りに落ちていた。



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