にわめ 神楽 雪華
「せつかー!起きなさい!」
母の声に反応し、階段を降りリビングへと向かう。
「せつか、何かいいことあったの?」
母の声に私は驚いた表情を向ける。
(なぜ。)
私は母へメールを打ち見せた。
「いつもよりも念入りに髪を梳かしているもの。
なのにハイソックスはマークが左右違うのね」
母はくつくつと肩を震わせ笑っている。
(笑わないで。いいことなんてない。)
ふてくされた顔で母へ携帯の画面を突き出す。
それを手でゆっくりと避け、顔を近づけ母は言った。
「男ね。」
ニヤリと憎らしい顔で私を見つめる母。
恥ずかしさのあまり振り下ろした手をすっと交わしながら母は 春が来た を歌う。
だから言いたくなかったのに!
声の代わりに私は心で大きく叫んだ。
「せつか。行ってらっしゃい。
良かったわね。きっとこれから毎日が楽しくなるわ。あなた、顔に出やすいのだから気をつけるのよ。」
また先程の憎らしい笑顔を私に向けるが、母の瞳は潤んでいた。
私の過去。
だから私は笑わない。話さない。
それが常に心配だったのであろう。
そして、母は安心したのであろう。
安堵の涙を見て、私も鼻の奥がツンとした。
母に小さくファイティングポーズをして、私は家を出た。
教室の一番後ろの列の真ん中が私の席。
そして、隣が私の彼氏。
昨日の放課後豊岡という男の子が私へ告白してきた。
彼は面白くみんなのムードメーカーの様な人で、私は心から憧れていた。
そんな彼に私は告白をされた。
少し食い気味に頷いてしまっただろうか。
少し不安になる。
あれは、ただのイタズラだったろうか。
心の中がざわつき始めた頃、彼が教室へ入ってきた。
「おはよう。神楽さん。」
私は頷いた。
また食い気味で頷いてしまっただろうか。
彼はずっと私を見つめる。
私は照れて火照ってしまっていた。
するとそこに、彼の友人がやってきた。
「おはよう。豊岡」
何度も彼の友人は彼を呼ぶが、豊岡くんはずっと私を見てる。
耳まで火照ってきてしまう。
彼は友人と話し始めた。
彼の友人が、大きな声で言った。
「俺なら無理だわ。」
聞かないようにしていたのに、私の事を言っているのだと気付いてしまった。
火照った体が、極限まで冷める。
いてもたっても居られずに、教室を後にした。
(やっぱり、私は だめ なんだ。)