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元暗殺者が護る国  作者: 鳥居華音
第1章 最高の暗殺者誕生編
5/13

暗殺者養成学園

光もささない帝国の地下。

そこには空がある。

太陽ではないが光がある。


地下なのに光が溢れるのは、借用魔法にて光の粒を天井に埋め込んでいるためである。


アサシンマスターを統括とする暗殺者部隊、その基地でもあり、養成機関でもある施設がそこにはある。


『今日からお前達と同じ私の弟子となったグローリー・ハウンズだ。皆仲良くするように』


彼女は彼を連れてきた時、皆の前でそう言った。

彼女はそう言った後、ニコッと少し笑ったあと、ふらつきながら何処かへ去っていった。

グローリーは自分の手首を噛み切ろうとしたが、アサシンマスターが制した。

大丈夫だと。

その力はむやみに使っちゃいけないよと。


グローリーは連れ出された後、初めてずくしだった。

初めて身体を洗われた。

初めて料理を食べた。

初めて暴力を振るわれない時間を過ごした。

初めて、初めて、初めて。。。


その環境についていけず、目をぐるぐると回していたが、声をかけられて意識を取り戻す。


「初めましてグローリー! 私はアイン! あなたの先輩よ!」


身長はグローリーよりも少し高い程度のまだ幼い女の子。

銀髪を肩までで揃えていて、貫頭衣を着ている。

グローリーはそこでようやく周りに居るもの達に意識を向けた。


周りの皆は、同じような貫頭衣をまとい、身長性別も千差万別だった。

其の中でもアインは、前に出るような積極的な女の子のようだ。

ただし、グローリーは男女の違い等を認識出来ず、ただ単にいつもの男達よりも背が小さくて身体も小さいとしか認識していなかった。


「あ、あの、えっと。。。」

「はいはい皆さん、グローリーさんはみんなと一緒、話すことに慣れていない特殊な状況に置かれた子です。いつもと同じように接しましょうね」


グローリーが戸惑っていると大人が現れた。

黒髪を腰まで伸ばした出る所がとても出ており、引っ込む所がとても引っ込んでいる扇情的な女性。

なんとなく雰囲気がアサシンマスターに似ている人だとグローリーはぼーっと思っていた。


「初めましてグローリーさん。マスターから聞いています。あなたの初期教育は私が行いますが、それはマスターが設定したものです。その後、基礎教育、基礎訓練の後、適正確認を行い、あなたの特性に従って技能を習得して頂きます。尤も、マスターからはあなたに全技能を植え付けると聞いているので途中から他の方々よりも無茶をすることになりますけどね」


そう言いながら苦笑する。

グローリーは、単語を全く理解出来ていないのでキョトンとしている。

その言葉に反応したのはアイン。


「先生! 何でこの子にマスターの全技能ってなんで!! 何でこの子だけ特別なの!?」


その頬は膨らんでいる。

言葉は支離滅裂。

だが、グローリーは怒っていることだけはわかった。理由はわからなかったが。


「何で!何でよ!!」


アインはどこに隠し持っていたのかナイフを取り出し、グローリーに対して投げつける。

アインの技能なのか、同年齢が投げたものよりも速く、鋭くグローリーにナイフが向かう。

周りの人間達はニヤニヤしながら眺める。

基本的に周りの人間はライバルなのだ。

技能を受け継ぐのは自分だけで良いと、誰しも思っていた。

だからこそ、ここで脱落してくれれば良いと思っていた。

もし何かあっても先生が止めるだろうと楽観視していた。

それはアインと同様で、半分本気で、半分は先生がきちんと止めてくれると思っていた。


「!!」


だからこそ、グローリーの心臓に、そのままナイフが刺さるとは思っていなかった。


「先生なんで!」


投げたのは自分なのに、止めなかった相手を責める。

責められた先生はため息を吐く。


「アインさん、投げたのはあなたですし、あなた方は暗殺者ですよ、この程度でオロオロしないでください。それに。。。」


グローリーは突き刺さったナイフを、頬をポリポリかきながら抜き去る。

胸からは一瞬血が吹き出るがすぐ止まる。


「えっ!? 何で!?」


アインを筆頭にそこに居る子ども達は目を丸くする。

今まで築いていた技術の内、心臓を一突きにするために状況を整えるものがほとんどだ。

だが、その常識を打ち破る存在に、意識が追いつかない。

事情を知っている先生も、実際に見たのは初めてだったので若干引き気味だったが気を取り直す。


「彼が特別扱いなのではなく、特別なんですよ。彼はその分、一般的な知識が不足しています。ですので、まずは常識を教え、その後、各種技能を覚えて頂くのでそういう意味でも特別です。更に言うと、彼は借用技術を一切使えないので、そういう意味でも特別。あなた方の中でも特別とはそういう意味です」


グローリーはナイフを持ったまま横に居る先生を見上げる。

なんとなくだが、アサシンマスターの次に偉い人が『先生』と呼ばれる人だと思ったのだ。


「あ、あの。。。 ごめんなさい。。。 これ、きたなく。。。」


たどたどしく謝る。

初めて着せてもらった服を自分の血で汚してしまったことを謝る。

アサシンマスターからもらったキレイなものを汚してしまった事に罪悪感を覚えたのだ。

そのままトテトテとアインの元へ走りより頭を下げて言う。


「ごめん、なさい」


グローリーがアサシンマスターから最初に教えられたのは、何か悪いことをしたら『ごめんなさい』と謝ることと。


「あり、がとう」


感謝を相手に伝えること。

グローリーは勘違いしている。

アインはナイフをグローリーにプレゼントしたのだと、グローリーは思っていた。

こんなキラキラするものをくれたアインに対して、グローリーはお礼を言う。

だが、アインは色々な面で負けた気分と羞恥の気分で顔を真赤にする。

が、暫くプルプルと震えた後、肩の力を抜き、笑顔を見せる。


「こちらこそ! それと、ごめんなさい!」


笑顔で答え、笑顔で謝る。

周りに居た子供達も、口々に彼を讃え、肩を組んだり背中を叩いたりする。

誰もが笑顔に溢れている。

中心に居るグローリーは、何が起きているのかよくわかっておらずキョトンとしたまま、なすがままにされている。


この日、暗殺養成学園部隊始まって初めての、名実共のリーダーが誕生した。

そして、彼が最初で最後のリーダーとなる。

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