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元暗殺者が護る国  作者: 鳥居華音
第1章 最高の暗殺者誕生編
4/13

【閑話】アサシンマスターと女帝、時々ドクター

多少エログロ入ります。

女王謁見の間。

女王護衛騎士がずらりと並び、豪華絢爛な装飾か飾られている大広間。

女王と謁見するためにはそこの場に行く必要がある。


権威を示すため、上限関係をはっきりさせるため、色々な意味合いがあるのだが、その大部分は女王の性質と暗殺防止の意味合いが強い。


女王は女帝とも呼ばれていた。

彼女はとにかく暴君なのだ。

男をかしづかせ、下にし、膝を付け、暴力を振るう。

その圧倒的な力で、彼女は8代目の王となっていた。

王になる経緯も、彼女の血に濡れた歴史そのものなのだが今は割愛する。


入り口から女王の近くまでずらりと並んだ騎士たちは全て男だが、全て女帝の暴力のはけ口となった、所謂ドのつく被虐主義者達なのだが、彼女からの暴力に屈しないだけの屈強な身体を持ち、その身体能力を用いた戦闘技術により、並大抵の騎士よりも遥かに力を持っている。


開けた場所のため、接近するためにはその騎士たちを倒す必要があるため難易度が上がり、遠くから暗殺するにしても広間には窓が無く、壁も分厚いので遠距離狙撃は基本的に不可能で、借用技術対策もしてあるため頂上の力を用いない限り逃げ出すための時間を稼ぐ程度の防御力はある。


唯一可能性のある毒殺だが、彼女が口にするものは。


「ほーらお前、先に飲みなさい」


女帝は側近のものに黒とも思えるぶどう酒を口に含ませる。

数度嚥下したのを見届けると、蕩けたような表情で、側近のネクタイを引っ張り、相手の唇を自分の唇に寄せる。

そのまま、側近の口に含んでいるものを飲み込んでいく。

恍惚な表情で。


「ふーむ、いまいちよな」


そのまま彼女は軽く手を振る。

すると、側近の首が赤く染まり、その頭は上に吹き飛び噴水のように血が湧き出る。

そのまま倒れ込むが誰も見向きもしない。


「それで? 要件は何?」


女帝は目の前の女に尋ねる。

真っ赤な絨毯に膝をついていたのはアサシンマスター。

服装はグローリーと会っていた時と同様。ただしコートは持っていなかった。


「そんなことより、またそういう格好をして、風邪をひきますよ、アイラ」


女帝の名前はアイラ・ライザック。

このライザック城、暴虐帝国ライザックの女王。

髪は真紅のように赤く、着ているドレスは胸元がほぼ丸見えで、かろうじて大事な所を隠す程度。

しかし、彼女が恥だと感じなければならない相手がこの世には居ないため、彼女は彼女の思うようにやる。

思うように着る。思うように貪る。

彼女の金色の目アサシンマスターを楽しそうに見つめる。

何か言葉を発しようとしたが、その言葉よりも先に、入り口付近の近衛兵が声を挙げる。


「女王様になんて!」

「黙れ」


女帝が再度手を軽く振る。

すると近衛兵は吹き飛ばされ壁にぶつかる。

壁にぶつかった近衛兵の鎧は、何かに切りつけられたように一本縦に割れていた。

絶命はしていない。

入り口に近いほど、近衛兵としての実力は低く新兵なのだが、近衛兵に選ばれるほどの人材、耐久力だけは並外れている。


「妾が許可するまで声を発するでない愚か者。それに、この者はお前達の誰より殺しに長けとる。この場に居るという時点で、その気になったらここの誰もが殺されるわい」


女帝はカラカラと笑う。


「妾が風邪をひかぬよう、お主に温めてもらいたいのじゃがのぉ」


女帝はバイセクシャルだった。

女性もいける。


「冗談、私にそんな趣味は無いよ。それとそろそろいいかな、こうするのも疲れるんだけど、周りのおっさん達に遠慮して一応、毎回こうしてるんだけど、やっぱり性に合わないなぁ」

「ん? あぁ、良い良い。というか前にも言ったじゃろ、別にここで会う必要も、面会の許可もいらんと」

「そうはいかないさ、というか、私はいいんだけど、他の奴が苦労するからね、一応ルールには従うさ。最低限だけどね」


そう言いながら、彼女はパタパタと膝を払い立ち上がる。

そのまま腕を組みながら話を続ける。


「それで、話は妾の服装のことだけかの?」

「いやいや、最初のはただの雑談。単刀直入に言おう。グローリー・ハウンズは貰う。決定事項だ」


その言葉にぴくっと反応する。

表情を変えないまま尋ねる。


「グローリー? どやつのことかの?」

「あぁ、すまんすまん、GHと言えばいいかな? 君とドクターのお気に入り」


そこで明らかな嫌悪感を示す女帝。

それは、おもちゃを盗られた子供のようだった。


「えぇ? あの餓鬼かのぉ。あの玩具は面白くなりそうなんじゃがの。いくら殺しても殺せない人間なんて、面白くてしかたないじゃろぉて」

「駄目。あの子は私の物。反論は許さない。あなたへの貸しがいくつかあったでしょ、それを全部無しにしてもらってもいい。全ての権限を使って、あの子は貰う」

「駄目でぅよ!!!!! ダメダメ!! あれは駄目ぇ!!!! 駄目です女王!!!!」


入り口がドンと開き、白衣の女性が入ってきた。

身長はそこまで高くないが、髪はボサボサの茶色でメガネをかけている。

スタイルもそこまで良くないし、白衣も汚れており女性としての魅力は一切無いのだが、男は全員目を逸し、口で呼吸した。

匂いと目線を合わせると『大変なことになる』のを知っているのだ。

ズカズカと大広間を渡ってくる女性。

青と真っ赤のオッドアイの目が怒りにつり上がっている。


「女王! あれは私の最高傑作です! その肉はいくら切っても再生するから10分に一度、10kgの肉を得ることが出来るので食糧事情が完全に解消します、その血と油はいくら採取しても無くならないから燃料問題が完全解消されます、その肉体はどのようなダメージにも耐性があるので医学と治験が飛躍的に進歩します!その有用性は限りなく、女王の手元に置いて玩具として貸し出すならまだしも、外に出すなんてありえません!今すぐ断ってください!」


女帝は首をすくめて言う。


「だ、そうよ。私はそのあたりどうでもいいんだけど、どう?」


アサシンマスターは手を顎の下に当てて少し悩む。


「食糧事情も燃料問題も医学も、いつもどおり奪えばいいでしょ、諦めなさいドクター。あれは私のものよ。あと、フェロモンがうざい。女の私にそれを向けないで、いちいち下着を変えるのも面倒」

「あんら~? ごめんなさいねー、私の魅力が勝手に溢れちゃって! って、そもそもあなた、そんな機能まだついてるの? 既にもう使い物にならなくなってるんじゃないかしら~!?」


口調は軽いがその言葉には激しい怒りを滲ませている。

発言内容は軽くスルーしてアサシンマスターは続ける。


「殺すぞ雌豚」

「やってみろや老害」


訂正、スルー出来るほどアサシンマスターは大人ではなかった。

一触即発になる二人。

だが、二人の間に亀裂が入る。

女帝が手を振るっていた。


「やめんかバカ共、妾の前だぞ、奪うぞ」


二人が不承不承に手を下げる。


「そもそもぉ、GHは秘中の秘、私と女王と、ここに居る兵の者達しか知らないはずなのになんであなたが知っているのかしらぁ? それと、GH関連資料が閲覧された履歴があるのだけどぉ、それは誰がやったのかしらぁ? そもそも、定期的に私の研究資料が勝手に閲覧されるんだけどぉ、そのあたりはぁ?」

「さぁ? 私は落ちてた資料を拾って読んで知っただけさ。不幸な事故はあったかもしれないけどね」


大げさに肩をすくめるアサシンマスター。

その言動に、更に怒りを増すドクター。

呆れ果てる女帝。


「アサシンマスター、お前にGHをくれてやるのは許可しよう。ただし、対価がいるわ。奪う妾から更に奪うのだもの、その対価を払いなさい」

「だから、あなたにある貸しを」

「足りないわぁ」


女帝は言う。


「足りない足りない、ぜーんぜん足りない。妾の物を奪うのよ、そもそも妾に貸し? あるわけないでしょ。お前の物は全て妾のもの、お前の成果も私の成果、そもそも貸しという概念が成立しないわ。あるのは純然たる結果だーけ。あなたが妾から奪うの、その対価を示しなさいと言っているのよ」


アサシンマスターは冷や汗を垂らす。

彼女に出来るのは人を殺すことだけだ。

化物を殺すことは彼女にすら出来ない。


「何が欲しい」

「そうねー、GHの人生をお前にあげる分、お前の人生をよこしなさい。次に繋げる機能と、お前の人生3時間」


アサシンマスターは表情を曇らせる。

ドクターは笑みを深める。邪悪な笑みを。


「あなたは子宮を提供しなさい。そして3時間、奴隷たちの慰み者になりなさい。最初の時間は1時間はドクターにあげるから子宮を摘出。あ、ドクター、あなたに彼女の子宮を預けるわ。後は好きにしなさい。どうせGHの色々を保存しているのでしょう。次の1時間はGHに与えていた苦痛と同様のものを、その後1時間は傷口を抉るように、そうしたら取引成立よ。」

「はい! はい女王! 流石女王!」


アサシンマスターは全てを諦める。

諦めてでも、手に入れる価値はあると信じる。


だが、女帝は知っている。


「あぁ、もちろん、ここに来る間に処置しているのは知ってるわよ。だからこそ『再生技術』の確認をするのよ。GHの血を使ってね。ここに来るまでにこうなることを知って、あえて色々対応してきたんでしょうけど、残念、全て元に戻るわ。あなたが読んだレポートね、古いのよぉ。今はもう、特定の条件満たせばどのような傷でもある時間まで『戻す』ことが出来るのよ、知らなかったでしょぉ?」


女帝が玉座からアサシンマスターに歩み寄る。

ドレスのスリットから艶めかしい足がのぞく。


「あなたに色々と権限を与えたのは、あなたの力を尊重したため、あなたに気安く接することを許したのはあなたの成果を尊重したため。でも妾は奪うもの。妾から奪うものは容赦しない」


女帝がアサシンマスターの顔を掴む。

ほんの数時間前、アサシンマスターが拷問監に行ったのと同じように、女帝がアサシンマスターを床に叩きつける。

その衝撃は、アサシンマスターが行ったものよりも遥かに強く、床の亀裂は部屋の端まで及んだ。

だが特異的なのはその力ではなく、その力がアサシンマスター自体には一切向かわず、周りに逃げ切っていること。

アサシンマスターの身体に、一切の傷は無かった。


「妾は、魔物、龍、神、全てから奪って全ての力を得ている。借りるのではなく、奪うことで。まだまだ増やすぞ、その妾から奪うのじゃ、その身でもって、その愚かさを知るが良いわ」


アサシンマスターの身体を弄るように、先程の暴力的な手つきではなく、優しげな手つきでなぞっていく。


「お主、独房で妾を殺すとか言ったらしいのぉ。この世で妾を殺すことが出来るのは、現時点ではお主だけじゃろうて。でも、の、それが『可能』かどうか、思い違いをすべきでは無かったのぉ、GHはくれてやろう、じゃが、お主の人生は貰うぞ」


女王は立ち上がり、玉座に戻る。

その横に、ドクターが付き従う。


その目は怪しく煌めいている。


「妾は暴虐女帝アイラ・ライザック。妾の名前を呼び、妾から奪ったこと、高くついたのぉ」


その言葉を寝転びながら聞き、アサシンマスターは口を結ぶ。

もう、自らの身に起こることは諦めた。

辱めならいくらでも耐えよう。

だが、言質は得た。

女王から彼を奪い取った。

その成果だけで、今は満足しよう。


自分の最終目的は、必ず弟子達が果たしてくれる。


そう信じて、彼女は瞳を閉じた。

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