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元暗殺者が護る国  作者: 鳥居華音
第1章 最高の暗殺者誕生編
13/13

腕試し

グローリーの悩みは完全に解決していない。

だが、心が軽くなったのを感じた。

だからこそ、前よりも動きに精彩が出てきて、痛みによって得た技術と相まって、彼はどんどんと、その実力を増してきた。


別に天狗になっていたわけではないが、

彼の中で一つ、どうしてもやってみたいことがあった。

だから彼は、アサシンマスターの元を尋ねる。


「入れ」


ノック後、部屋から返事があったため中に入る。

気配は無いが、ノックした際に返事があれば入室する。

彼女の部屋に立ち入る場合のルールだった。


「失礼します」


グローリは一言断ってから入る。


「よく来た、まぁ座れ」


アサシンマスターは彼をソファに進める。

アサシンマスターの横には、見慣れない長身長髪の男が一人。

グローリーは進められるまま、ソファに腰掛ける。


「それで、要件は何だ」


アサシンマスターの問に彼は少し沈黙する。

少し前には考えられない成長だった。

そもそも目の前の男の子は、思考すら放棄し、日々与えられる責め苦を甘受するだけの肉達磨だったのだ。

それが、悩み、苦しみ、少しずつ人間らしくなっている。

自分の立場、環境を見ておかしいと感じても、アサシンマスターはそれが少し嬉しかった。


少し悩んだあと、グローリーはアサシンマスターに問う。


「あの、女帝に会うことは出来ないでしょうか」


その言葉に眉をピクリと動かすアサシンマスター。

その横の男が何か行動するまえに、手を横にすっと伸ばし静止させる。


「なぜだ?」


当然の問い。

その問に、グローリーは視線を逸らしながら答える。


「えっと、今までのお礼を言いたくて」


「お礼だと?」


グローリーは手を組み、しかし開き、指をいじりながら答える。


「はい、以前までの生活は、他人から見ればそれは酷いものだったかもしれないけど、それは当たり前で。でも、それが会ったから、今ここに居れるわけで。それでその、一言お礼を、って。。。」


明らかに嘘だ。

嘘だとわかる。

だが、過去の彼からは想像も出来ないほど流暢に、そして考えられた言葉だった。

急速に成長している。

戦闘訓練、その他の訓練の結果からも、一つ空を破ろうとしているのが見て取れた。

彼が、痛みに恐怖し囚われた時も、アサシンマスターは彼ならば『超えられる』と見守ることを決断していた。

その結果、副次的に別の大切なものが出来たようだと報告も受け、それはそれは良いことだと喜んだものだ。

それが今、こうして『おねだり』をしてきている。

その成長がとても嬉しかった。

『おねだり』の内容次第では是が非でも叶えてやりたいところだったが、今回は内容が内容だ。

その本質がどこにあるかを確認する必要がある。


「それで、お前は女帝に謁見し、礼を言うだけで満足なんだな、それ以上を『望まない』のだな?」


その言葉は言外に『余計なことはしないな』と、あからさまに言っているようなものだ。

だが、彼にはそれも伝われない。

成長しても彼は空気を読まない。読めない。

だから、視線を逸らしながら続ける。


「はい、多分。。。」


グローリーは視線を合わせない。

アサシンマスターはじっと彼を見つめるが、彼がいつまでも視線を合わせないことで、逆に『決意が硬い』と判断した。


「わかった。謁見許可が出るか確認してみる。期待はするな」


その言葉に、ようやくグローリーは視線を合わせる。

「ありがとうございます」


お礼を言って席を立ち、そのまま退室する。

退室する際、彼は自分の顎髭をひと撫でして扉を出た。


「良かったのか?」


長身の男は口を開く。

その声は、穴蔵の龍と同一のものだった。


「あぁ。あんなあからさまに『何かやらかします』と宣言されたようなものなら、放置して無茶されるよりも、手綱をある程度握っておいた方が精神的に楽だ。あと、物を考えない少年が、ようやく自分で考えて出した結論だ。引っ張り上げた者の責任として、好きにさせるさ。なーに、もし最悪の自体になった場合、生徒全員で行おうとしていた計画を、私一人で行えばいいだけの話だ。私が死んでも誰かが意思を継いでくれる。それぐらいには皆を信頼しているよ、私は」


楽しそうに笑うアサシンマスター。

だが、長身の男は難しい表情をしていた。


「どうした、何か気になることでもあるのか?」


アサシンマスターは怪訝そうに尋ねる。

ちょっとバツが悪そうに、男は答える。


「あいつのヒゲを撫でる仕草をした後、あいつはたいてい無茶をする。最近、借用技術が使えない奴が、借用技術と言えなくも無いものを何個か自分で開発していてな、ちょっと、やりすぎたかと思っていたんだ」


「なんだそれ?」


「もしかしてだが。。。」


前置きをして、男はアサシンマスターにここ最近の彼の訓練状況の様子を伝える。

その言葉に驚きはしたが、半信半疑のアサシンマスターは答える。


「まさか」

「まさかなぁ」


二人して苦笑して、その話はありえないと断じた。

だが、その認識が誤っていたと、彼女らが認識したのは、1日後、女帝の謁見許可が出て、グローリーが前代未聞の騒動を起こした後だった。





女王謁見の間。

アサシンマスターにとっては暫く近づきたくも無い場所。

そこに再びやってきていた。

隣にはグローリー。

グローリーは正装し、髪も整えそれなりに見えた。

礼儀作法もある程度叩き込んだつもりだったが、その当たりはまだ早いと彼女は諦めていた。

それに女帝はその当たりさほど気にしない。

気にした場合、殺されるだけだ。どうしようもない。

もっとも、グローリーは死なないのだから関係ない、彼女はそう思い、考えるのをやめていた。


「それで?私に礼が言いたいというのはあの餓鬼か。GHだったかの」

「はい女王! あの子が最高傑作! 雌豚なんかの所に置いておいてはもったいない! 今すぐにでも私に返してくださいよぉ!」


女帝の横でくるくると回りながら訴える白衣の女性。

グローリーは初めて見るはずだが動じて居なかった。

一新に女帝を見つめている。


「駄目よぉ、ドクター。あの餓鬼はアサシンマスターの『献身』の末、彼女に与えたものだもの。私が『許可』したの。それとも何、お前はその『許可』を覆すっていうのぉ?」


女帝の目が赤く光る。

その言葉が口から出された瞬間、ドクターは動きを辞め、深々とお辞儀をした後、女帝の後ろに控えた。


「して、そこの餓鬼、私に礼があると言うなら言ってみるがいい。妾は誰かに礼を言われるのが好きじゃ。だからこそほれ、早く妾を称えるがよいぞ」


そう言ってグローリーに発言を許す。

グローリーは畏まった姿勢のまま、言葉を紡ぐ。


「まずはお礼を。そこにおわすドクターによって見出され、女帝の許可、並びにアサシンマスターのご助力の元、私は今、とても有意義な日々を過ごすことが出来ております。それは非常に有り難いことで、切り刻まれていた日々を思うと、今は天国だと存じます。ついては、その日々を与えてくださった方々、並びにその最高位におわす女帝に対して、深く感謝を述べさせて頂きます」


流暢に話すと頭を垂れるグローリー。

その流暢な言葉遣いに、隣に居たアサシンマスターは驚愕していた。

まだ数ヶ月もたっていないのに、これほどまでに流暢に喋れるはずがない。

彼女はそう思っていた。

だが、グローリーは自らの力に十分に目覚めていた。


グローリーはその不死身の特性から、『睡眠』というものを取る必要が無い。

そもそも睡眠というものを知ったのは、暗殺者妖精学園に入り、他人と一緒の部屋になってからだ。

周りの人達が一日の内、一定の時間になったら横になって動かなくなる。

それが何なのか始めのうちはわからなかったが、それが睡眠だとわかってから、彼はその時間を有効に使うことにした。

とにかく本を読んだ。

とにかく過去起きた歴史を学んだ。

とにかく自らに足りないものを吸収しようと、活字であれば何でも読み、声に出し、話せるようになった。

短い期間だったが、通常の人間の倍の時間を生きれる彼は、集中的に学ぶことにより、人の数倍の速度で成長していた。

そして、成長した結果、一つ、どうしても試したいことが出てきた。


「ほうほう、なんじゃなんじゃ、こやつ難しい言葉を使えるようになっておって、良い良い、妾は今とても機嫌が良い。これからも励むが良いぞ」


女帝は機嫌良さそうに笑いながら傍らに居た騎士をバンバン殴る。

みるみる内に鎧がひしゃげ、騎士の顔が苦痛に歪み、紫になっていき、そのまま血反吐を吐き倒れた。

その姿を誰も注視しない。

日常であった。


「そして偉大なる女帝様に感謝と共に不躾な願いが一つあります。述べさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「ほう、良いぞ、気分が良い今なら叶えるかは別として、話だけなら聞いてやるぞ」


にこやかに笑う女帝。

グローリーの言葉に、急激な不安感に駆られ、アサシンマスターは彼を横を見ようとする。

だが、同時に急激なプレッシャーを感じ女帝の方を見る。

すると女帝は、目を赤く光らせ、アサシンマスターを見ている。

その目に言葉が無くてもわかった。

『面白そうだからすっこんでろ」と。


グローリーは口元をニヤリと歪め、言う。


「では、女帝様、私と腕試しをして頂けませんでしょうか?」


その言葉に、謁見の間全体が殺気に覆われる。

そこに居た全員が、グローリーに敵意を向ける。


「ほぅ。。。」


ため息のような一言だけつぶやき、女帝は目を細める。

ドクターはニヤニヤとアサシンマスターへ視線を向ける。

アサシンマスターは、内心、甘く見ていたと自分を叱責しながらも、ここが切所かと、自分が全てのカードを切るべきか判断を迫られていた。


だが、その周りの空気を気にもせず、グローリーは言葉を続ける。


「恐れながら、不死身不死身ともてはやされてきましたが、私は自分が本当に死ねないのかよくわかりません。最近は痛みも知りましたし、今まで出来ない事が出来るようになってきました。だからこそ、一番高い頂に挑んでみて、自分の力がどの程度なのか知りたいのです」


アサシンマスターは頭を抱えた。

そして抜けていたと思い知った。

グローリーは圧倒的な力である龍と訓練させている。

それで十分だと思っていた。

だが、違った。

死なないというのはそれだけでアドバンテージなのだ。

だからこそ増長し、こんな馬鹿な真似を行った。

こんなことなら、事前に自分が一度徹底的に叩き潰しておけば良かったと、龍が懸念していたことが本当になったことを悔やんだ。


昨日、あの男は言っていた。

『あの小僧、もしかしたら既にワシより強いかも』

と。


だが、それが杞憂に終わりそうだ。

女帝が断ったからだ。


「ふん、くだらん。せっかく良い気分だったのに、妾も舐められたものよ。小僧の言っていることは、一見妾を持ち上げているようで、妾を超える壁の一つと、他の有象無象と同列に見ておる。不愉快じゃ」


そのまま退室しようとしている。

怒りは買ったものの、そのまま退室してくれればなんとかなる。

アサシンマスターが胸を撫で下ろそうした瞬間、横のグローリーの口から思いもよらない言葉が出る。


「怖いのか?」


それまでと違った口調。

まるで見下すような不遜な態度。

普段のグローリーとは違い、そこには、邪悪な笑みを浮かべている一人の見たことも無い表情の男が居た。


「女帝女帝等と持て囃されていても、不死身の存在とは戦った事がないからそのまま逃げるか。別に良いぞ。それならそれで。だがお前は、俺から逃げたんだ。俺はそれを十分に喧伝させて貰おう」


そのまま立ち上がり立ち去ろうとする。

グローリーが初めて俺という一人称を使ったり、普段の態度とまるで違うことに、アサシンマスターはまったく動けなくなっていた。


「待て!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


鼓膜が破れるかと思うほどの大声でアサシンマスターは我に返る。

声の主、女帝は、瞳を赤から、赤黒く変色し光り、真紅の髪は逆立っていた。

身体の大事な所を辛うじて隠しているドレスは、彼女の怒りと共に燃え上がり、黒い炎となり、再び彼女の大事な所を隠している。

赤黒かった目は、更に変色し、金に変わっていた。


「お前、何を言った。妾に向かって」


女帝の手からはボキボキと骨が鳴る音が響く。

その爪は鋭く尖り、瞳と同じ金色に輝いている。


「怖いのかって言ったんだよ、裸の王様。殺せない俺を殺せるのかあんたは」


グローリーは構えない。

ただ振り返ったその姿のまま、ニヤリと笑う。

その姿に不快感を強め、女帝は叫ぶ。


「小童が!!!!!!!!!! 塵一つ残さんわぁあああああああああああああああああああああ!!!!」


女帝は両手を広げ、グローリーへ高速で接近する。

以前アサシンマスターに行ったように、グローリーの顔面を掴み、地に叩きつける。

だが、以前のように部屋の破壊は怒らない。

女帝の手は地についている。

その手には多数のグローリーの血液や髄液等がこびり付いていたが、煙を上げ蒸発していく。

グローリーはわざと頭を潰させ、彼女の拘束から抜け出していた。


『これで、頭全部潰されても復活出来るってわかった、でも怖いな、一瞬真っ暗になって何も覚えてないっていうのは、これがみんなの寝てる時と同じ感覚なのかな』


グローリーは拘束から抜けながらそんなことを考えていた。

今まで、頭を全部潰したことは無かったが、ぶっつけ本番で今日やってみた。

結果はそれでも死なないだったが。


「小僧がぁぁぁぁぁ!!!!!」

女帝は手を振り下ろす。

すると、その爪の軌跡と同じように、建物に鋭い5つの線キズが深く刻み込まれる。

当然、その射線上に居るグローリーは、線キズと同じ位置を消し飛ばされる。

だが、彼は意に介さず進むのを止めない。

一瞬だけ、喪失した肉体分重量に従って下がるが、直ぐに煙と共に肉体が修復され、行動に支障が無くなる。


「壊速!!!」


グローリーはそう叫び地面に足を踏み込む。

すると、地面がクレーター上に凹み、グローリーの身体が弾丸のように女帝に向かう。

彼の足は、彼の踏み込みの力に耐えられず自壊しているが、直ぐに修復される。

自らの身体を自壊させても、全力で行動する。

これを彼は『壊速』と名付けていた。

口にすることで自らの身体を破壊するトリガーにする。

不足の事態に備えるため、彼は自らの身体を破壊する行動/技に全て名前をつけ、

回復するまでの時間をきちんと意識することに努めていた。


弾丸のように迫るグローリーを煩わしく思った女帝は再びその手を振るう。

再び訪れた斬撃に、多少の勢いを止められるものの再び地面を蹴り上げることで、再び女帝に迫る。


「くっ!!!」


ついに女帝の間近に迫り、女帝の両腕を捕まえる。

彼は腕を掴むと同時に言う。


「捕まえた!!!」

「があぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


女帝は腕を掴まれたことに激高し、叫ぶ。

叫びと同時に彼女の背に、黒く禍々しい翼が生え、その翼が一度動くと姿が消え、直後に轟音が天井から聞こえる。

翼の羽ばたきと同時に、女帝はグローリー諸共上空へと急上昇する。

城を突き抜け、外に出て、それでも上昇を止めない。

天井をいくつも突き破り、その衝撃で身体が何度も自己再生を繰り返しながら、初めて出た外の景色に、彼は呑気に感動していた。


「ここから落下し、一度全てを無くすと良い」


呼吸が出来なくなるほど上空に上がり、女帝は掴まれた両腕を引きちぎるように振り払い、そのままグローリーの腹を蹴り地面へ叩きつけようとする。

痛みを感じないように神経は予め調整済のため、腕が千切れても彼に痛みは無い。

だが彼は、それだけでは説明出来ないような笑みを浮かべていた。


「壊延!!!!」


千切れ飛んだ腕の切断面を女帝に向けて伸ばす。

すると、彼の手は復活するはずが、肉塊をそのまま延長し、膨らみ、女帝に対して紐のように絡みつく。

自らの身体を壊し、延長し、意図通りに『変形』させる。

それが彼が身につけた新しい能力『壊延』だった。

自らの足を破壊しながら前に進む能力を向上させられることに気づいた彼は、ならばとわざと自分を自壊させる技を試した。

すると、破壊と再生を繰り返し、どこまでも延長し、大きさ、太さ、形状も任意で動かせることに気付いた。

そして、自らを形成する形に戻すことにも成功していた。

延長し、女帝に絡みついた自らの肉塊はそのままに、彼は腕を元の姿に戻すため再生させようとし、その動きは、結果的に女帝との距離を詰める動きとなる。


「また捕まえましたね」


女帝の口さえも自らの肉塊で防ぎ、グローリーは今度は腕だけでなく、足も絡め、完全に女帝と密着する。

身体だけなく、翼にも絡みついているため動かすことが出来ず高度が下がっていく。


「壊卵」


その言葉と共に、彼の胸から血が吹き出す。

背中からも、全身から切り傷のようなものが増えていき、そこから枝葉のように再び肉塊が伸びていく。


『壊延』の延長線上の能力『壊卵』これは、彼が腕や足等だけでなく、身体全身を自壊させ、再び再生する際に球体のようになることにより、相手を完全に拘束する。

自らを犠牲にし、破壊と再生を続ければどこまでも増えることが出来るであろう、最後の技。

奇しくも、ドクターがグローリーにやらせようとしていたことに、彼は独学で辿り着いていた。

最も、ドクターはグローリーを『食料』として見ておらず、グローリーはその状況を『拘束具』としてしか見ていない所に違いはあったが。


完全に人を丸々と飲み込んだ壊卵は、そのまま謁見の間に落下する。

衝撃である程度の肉は潰れるが、球体自体は維持していた。

突如落下してきた物に、誰しも、アサシンマスターでさえも目を見開くだけだったが、ドクターはそれが何なのかを悟り、狂気の目を輝かせていた。


「くだらん」


球体の中からくぐもった声が聞こえてくる。


その瞬間、球体が弾けた。


そこに立っていたのは女帝。

身体には一切傷が無く、身体全体から黒い炎が立ち上がっている。


一方、肉塊と同じように弾き飛ばされたグローリーは、強かに壁に打ち付けられた。

ぐしゃりと色々と潰れる音を立てるが、すぐさま全身から煙を立ち上げ、再生しつつ女帝へと肉薄する。

だが、それをつまらなそうに眺めながら女帝は告げる。


「アホか小僧、死なないだけでお前を戦闘不能にする方法などいくらでもあるわ」


女帝が指を鳴らすと、グローリーの周りに黒い炎で出来た死神が現れる。

その死神はグローリーに絡みグローリーの前進を止めた。


「クッ!?」


グローリーは、足を地面に叩きつけ、再び前進しようとするが、死神はいつの間にかグローリーの足を切断していた。

では逆の足と、再生しつつ別の足を叩きつけようとするが、そこもいつの間にか切断されていた。

グローリーの行動速度と再生速度が、死神の攻撃に追いつかない。


「死ぬか死なないかではない。行動させなければ結果的に負けないし殺されないのだよ」


グローリーの行動しようとする意識に、女帝の行動が割り込む。

右手を出そうとすると、右肩を雷の矢で撃ち抜かれる。

左足で蹴ろうとすると、左の腰から下を石のハサミで潰される。

頭突きをしようとしたら、巨大なギロチンで身体を真ん中で切断される。

グローリーの行動の自由が全て奪われる。


「くそ!」


なんとか打ち出せた右腕の壊延も、女帝に届く前に黒い炎で燃え尽きた。

何故か燃やされた部分からは再生出来ず、慌てて自ら腕を切り捨て復活させる。


「貴様は借用技術を一切使えん。だからこそ自らの身体を色々と活用したんじゃろうが、結局は人の肉よ。どう鍛えても柔い。眼の前に居るのは森羅万象の頂点よ。羽虫が星にに勝てる道理はないじゃろ」


グローリーの身体を黒い死神で拘束しつつ、女帝はグローリーの髪を掴む。


「まぁ、これだけの短い期間で、ここまでおもしろい能力を開花させたのは見事と言っておこう。じゃから、此度はお主の願いを叶えてやろう。お主のつたない策略に乗ってやろう。どうせ先程の妾への挑発も、そうすれば戦えると思っての本心じゃなかろう。じゃから許す、どうじゃ、満足したかの?」


グローリーは意識が朦朧としていた。

そんな中、ぼんやりと、『あぁ、眠いってこっちの方か』と考えていた。

頭を潰されても、何をしても死なない彼だが、『再生』に関しては彼の体力を奪う。

まったく再生しなくなるというのは今まで無いが、あまりにも再生を繰り返すと再生の速度が極端に遅くなり、最悪意識を失う。

寝ているわけではなく、『機動していない』という状態に近い。

だから彼は、それが『寝ている』状態と捉えていた。


「せっかくじゃ、粉微微塵になった経験もデータも無いじゃろ。ここで体験していくが良い」


再びパチンと指を鳴らすと、無数の影から同じように黒い死神が現れ、グローリーの身体にまとわりつき、破壊していく。

時折硬質な音が鳴るが、主に水音のようなものが延々と続く。

その様子を、ドクターは目をランランをさせながら記録に取っていた。


「さて、アサシンマスターよ」


突然声をかけられ、アサシンマスターは身体を震わせた。

どこか期待していた。

彼ならば何か届くのではと。

だが、全く無意味だった。

彼女には一切届かない。

どうしても傷一つつかない。

出来たのは怒らせることだけ。

しかもそれすらも、本当に怒っているのかすらわからなかった。


「色々言いはしたが、此度はまぁまぁ楽しめた。今後はお前の生徒達を定期的に妾に暗殺させにこさせるが良い。実地訓練というやつじゃな。なぁに、生徒達は殺さぬようにするゆえ安心せい。最後はお前かお前の生徒が、妾を殺してくれるのだろう?」


お前の考えは全て見透かしている。

わかっていた、バレていることは。

だが、改めて言葉にされると重みが違う。

自分の計画がほぼ無に帰したことを知り、アサシンマスターは唇を噛み締め、はいと頷いた。


「あぁ楽しみじゃ、いつ、妾は死ねるのじゃろうな、ははははははははは」


その狂気じみた笑い声は、いつまでも響き渡り、アサシンマスターは永遠にも感じるその苦痛を、ひたすら耐えるだけだった。

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