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元暗殺者が護る国  作者: 鳥居華音
第1章 最高の暗殺者誕生編
12/13

仲間

痛みの本質を知ったグローリーは、常に震え続け、感情の起伏が少なかった彼が常に他人を寄せ付けないようになった。

訓練や食事をサボるということは無かったが、常に全力を出すことは無くなった。

そのことで訓練の成果が落ちるということは無く、設定した課題をクリアはしているのだが、彼は、自らの身体が自己再生を起こすような負傷を一切しないようになった。

課題を出した方からすれば、効率的に行動できるようになったと判断出来なくも無いが、負傷を恐れていると取れるその行動には頭を抱えた。


炎の龍や先生は、その状況をアサシンマスターへ報告した。

その報告を聞いたアサシンマスターは眉間にシワを寄せたものの、日付を確認した後に『まだ早い』と一言だけ告げ、暫く放って置くよう命じた。


普段は訓練後はまったく身体を動かすことが出来なかったグローリーだが、今はスタスタと自分の足で歩いて帰っている。

だが、その表情は暗く、戻ってきても膝を抱え、じっとしているだけだった。


「凄いじゃない、グローリー、もう一人で帰ってくることが出来るなんて!」


誰とも接することを拒絶していたグローリーに話しかけたのは彼を世話し続けているアイン。

その横に、憮然とした表情のノインも居た。


「まだ一月もたってないのに、それだけ動けるなんて凄い凄い!! グローリーは死ぬようなことは無いと思ってたけど、やっぱり天才なのねー」


笑いながらグローリーに話しかけるアイン。

だが、グローリーは答えない。

ここ数日、グローリーはこのような調子で、アインとノインを無視し続けた。

だが、アインはまったく気にしてない。


「再生能力ってやっぱり凄いのねー。怪我しても動けるなんて無敵じゃない! 暗殺者よりも、騎士とか、前線に出る方が向いているのに、アサシンマスターはグローリーをどう育てていくんだろうねー」


グローリーは答えない。

ため息を付きながらノインは答える。


「おそらく、俺らの能力とこいつの能力はまったく別物だし、そもそも暗殺向きの能力じゃない。だから囮とか、それこそ、アサシンマスターと行動するようになるんじゃないか? あの人、名前だけ暗殺者で、実際にはでかい化物殺したり、俺達じゃ理解出来ないことばかりやってるからな」


「そっかー。でも、そうすると独り立ちすると私達とは別々になっちゃうのかもねー。とは言え、暗殺者なんて組んで行動することも稀だし仕方ないんだけどね」


そのアインの言葉のどこに反応したのか、グローリーの身体がぶるっと震える。


「独り立ち。。。?」


グローリーが反応したのが嬉しかったのか、アインはテンションを一つ上げて答える。


「そうよ! 私達は4年間訓練を受けて独り立ちするの! その時にアサシンマスターから番号が付与されて、1の位の数字と同じ数字の先輩達の部隊に配属されるの。1の位の番号はそれぞれ役目が振ってあって、一桁の番号の先輩がその部隊のリーダー、二桁の番号の先輩が小隊の部隊長で、三桁以上は10の位と同じ先輩の下につく。年に一度査定試験があって、部隊ごとに試験内容は違うんだけど、適正次第では他の部隊に異動したり、リーダー交代したりするみたい。結果は秘匿されてるから私達は知らないんだけど、噂ではリーダーはここ五年一切変わってないみたい」


アインは自らの事のように誇らしく語る。

だが、グローリーが聞きたかったのはそこでは無いようだ。


「独り立ちしたら、誰かを殺さなきゃいけない、んだよね、、、」


かすれるような声で呟くグローリー。

きょとんとした表情で、何を言ってるんだということを呟くアイン。

ノインは再びため息をつきながら言う。


「当たり前だろ、俺達はそのために存在しているんだから。まぁ、部隊によっては殺すというよりは籠絡させたり、破壊工作専門っていうのもあるみたいだけど、最終的にはターゲットを殺すことを目的としてるから意味合いは同じだな」


その言葉に、抱えている膝を強く抱きしめ直すグローリー。


「あんな痛みを、あんな恐怖を他人に与えるなんて。。。」


膝の間に顔を埋め、再び震えだすグローリー。

その言葉で二人は察した。

グローリーは、自らに与えられる痛みに怯えているのではない。

同じ痛みを、同じ恐怖を、他人に与えることに怯えている。

訓練や生き残るための術を学ばせるために与える痛み、恐怖ならば理由がわかるので恐れは無い。

更に言うと、自分に限っては『絶対に死なない』という保証から、相手に対しての嫌悪感もない。

だが、あの穴蔵で、自分に対して拷問し続けたあの男達は?

好き放題自分に実験し続けたあの学者達は?

その者たちと同類のことをしなければならないこと、そして、今自分が抱いている恐れを、同じように他人に与えることに、グローリーはどうしても耐えられそうに無かった。

だからこそ、震える。

どうしようもないから。

心が壊れそうになるから、代理行動として、身体を動かすしか無い。

だから震えるのだ。

誰かに助けて欲しくて。


そんなグローリーに呆れ、離れても良さそうなものだが、二人は離れなかった。

ただ一言。

「バカね」

「馬鹿だな」

それだけ言った。


その言葉に、再び顔を挙げるグローリー。

そこには笑顔の二人が居た。

何故か震えは軽減していた。


「誰だって殺すのなんて嫌よ。あのマッドサイエンティストでもあるまいし。そんな殺人鬼みたいな性格じゃ、任務なんてこなせないし、そもそもそんな奴は前線に出るわ。私達とは役割が違う。私達は、より多くの人を守るために殺すのよ」


グローリーの顔を両手で包むアイン。


「私達の国は女帝が圧倒的権力、圧倒的力を持っているから、本当は何かする必要が無い。でもね、それだと、女帝の気まぐれで良い人間が悪い人間に蹂躙されてしまう。だから私達が影で処分するの。女帝にも悟られず、女帝の側近に気付かれないように。でないと私達も殺されちゃう。仲間も殺されちゃう」


「グローリー、お前にはまだ知らされていないようだが、俺らは女帝の命に従って用心を暗殺するのが本来の仕事だ。だが、真の目的は違う。アサシンマスターが本当に殺したいのは『女帝』だけだ。上の奴らには上手いことごまかして貰っているが、俺達が牙を研ぎ続けているのはそのためだ。その過程で発生する暗殺は、耐えるしかない。それがどんなに汚い仕事でも、女帝さえ殺せれば、最後に幸せになる人間は増える。まぁ、俺達も最後は地獄に落ちるだろうが、そんなのは別にいい。最も恐れるのは」


そう言ってグローリーの横にしゃがみ込む。


「家族が女帝に殺されるのだけは我慢ならねぇ」


普通の人間に殺されることと、女帝に殺されるのは意味が若干異なる。

女帝に殺される場合、普通の死が望めない。

まず、身体は側近達に蹂躙される。

これは過去多数の実績があり、城の外に飾られている悪趣味な遺体のオブジェを見てもわかる。

それを側近達は芸術だとこぞって数を増やしており、女帝はにこやかに黙認している。


そして、女帝の能力なのか、側近の能力なのか、女帝に殺されたものは簡単に死ぬことが出来ない。

どういう理屈なのか、女帝に殺されたものは、常に女帝の側に侍ることになる。

魂だけの存在なのか、それともまったく別の存在なのか。

女帝は、今まで殺してきた人間達を、自由に出し入れ出来るらしく、それを攻撃の手段としても使えるようだ。

そして、その攻撃を見たものは理性を保てなくなるようだが、途切れ途切れの情報を繋ぎ合わせると、殺された人間達は、その半透明な姿で血の涙を流しながら敵に突進し、取り付き、吸い続け、攻撃を受け続けても再び死ぬことが無く、傷ついたまま相手を蹂躙するまで止まらないとのこと。

そこに意思があるのかは不明だが、女帝に殺された時点で、永遠に女帝に痛みを与えられ続けることは確定する。


「全部終わった後に、今まで殺してきた奴らの報いを受けて全員死ぬなら本望だ。だけど、女帝の尖兵になってこき使われ続けるのを見ることだけは耐えられねぇ。自分勝手な事を言ってるのは重々承知している。でも、それが俺らの本位だ」


「家族。。。?」


グローリーは理解出来なかった。

家族とは誰のことだろうと。


「バカね」


再び罵倒するような言葉、だが、どこか温かみを感じる言葉を言いながらアインはその胸にアインの頭を抱く。

「私達は全員問題を抱えた孤児よ。それがこうして一緒に暮らして、常に死の危険にさらされている。助け合いながら暮らしているのだから、当然情も移るし、それはもう家族でしょ。あんたはもう、私達の弟よ」


薄い胸だったため、膨らみを感じることは無い。

だが、熱を感じた。

鼓動を感じた。

それはとても優しく、今まで感じたどの熱よりも優しかった。


「私は、家族で特別扱いは嫌だった。だからあんたに突っかかったけど、あなたは特別なだけで、他の特別と一緒ってことがわかった。ちょっと手がかかるだけ。だから一緒。あんたは私達の弟。独り立ちするまでちゃんと面倒見るし、出来る範囲で、私達はあんたを助けるわ。だからあんたも、もうちょっと時間がたって、私達を家族と思えるようになったらそれを大事にするために任務をこなしなさい。私達を守るために任務をこなすの。その罪悪感は、私達全員のもの。全員で共有して、全員で背負って、全員で泣くの。最終的にみんなが幸せに死ぬために」


「俺達は決して善人じゃない。家族を護るために必死なだけだ。みんなお前と同じだよ。持ってる能力が違うだけで、抱えてる恐怖や嫌悪感、何もかも一緒。そこでもう動けない奴らも、今までで死んじまった奴も、全員家族だ。死ぬまで見捨てねぇ。死んでも見捨てねぇ。喧嘩もするし泣きもする。笑うこともあれば、心が耐えきれなくて一切感情が表に出なくなることもある。だけど、俺達は絶対に家族を切り捨てない。切り捨てなきゃいけない時も出てくるが、それは全員納得の上で前に進む時だけだ。ちゃんと最後に地獄で土下座するが、きっと許してくれるって知ってる。だからこそ俺達は、護るために誰かを殺すんだ」


二人の言葉に、グローリーの心は少し軽くなる。

決して人道的では無い。

当たり前だ。

そういう国ではない。

そういう世界ではない。

そういう環境ではない。

彼らに与えられた全てが、彼らに人間的な生活を拒絶させる。

その中で見つけた家族という仲間。

それを絶対護るということ、唯一の心の支えにしている。

だからこそ、彼らは生きることが出来るのだ。


「あんたがその想いに目覚めるのはもう少し先かもしれない。だけど忘れないで。あなたの今抱えている想いはきっと正しい。正しいからこそ、今悩んでいるってことを」


グローリーはその言葉を完全に理解することは出来なかった。

だが、不思議と耳に残った。

この言葉は、グローリーを救いもし、縛ることにもなる。

その事に気づくこともなく、グローリーは久しぶりに、眉間にシワを寄せることもなく、眠りについた。

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