第78話 ユニコーンと変態紳士
「処女の女性しか愛せない・・・」
俺が言うと、イヴァンは頷いた。
「まぁ、それだけだと語弊が出てくるのでもう少し詳しい説明をします。
まず我々一角族は、その生涯で一人の女性しか愛せません。
どういう経緯でその呪いにかかったのかは不明ですが、一角族の者は皆そうです」
「一人の女性しか愛せない。
でも、さっき処女の人だけって言ってませんでしたか?
それだと、自分と肉体関係を持った人もその時点で捨てるって事になると思うんですが・・・」
「いえ、むしろその逆です。
我々は自分と肌を合わせる前に処女だった女性と肌を合わせた後、その女性を妻として迎えいれ生涯その女性だけを愛し続けます。
浮気など言語道断、たとえどんな仕打ちを受けようともその女性だけを愛すのです」
なるほど、つまりかなり紳士な一族なんだな。
男の鏡だな。
「ん?でも、相手が処女だってどうやって分かるんですか?
まさか、直接訊くわけにもいかないですよね?」
「そうですね、私も入学した当初は好みの女性に片っ端から”処女ですか?“と訊いて回っていた時期がありましたがあまりオススメしませんね。
相手の方に物凄く嫌な顔をされますし、場合によっては罵声が飛んできたり顔面を殴られたりしますから」
あれ?おかしいな。
紳士的な一族だなと思ったら、この人は変態だ。
「なので、今はそういうことはキッパリやめました。
しかし、それでもあの時声をかけた事のあった人の中には今でも私を見ると、嫌な顔をしたり避けたりする人がいますがね」
そう言うとイヴァンは少し苦笑いをした。
そりゃそうだ。
思春期の女の子が歩いてたらある日突然初対面の男に声をかけられて、第一声に「あなた処女ですか?」なんて訊かれたら怒るわな。
逆になって考えてみよう。
俺がいつもと同じように外を歩いていたら、急に絶世の美女に声をかけられて「あなた童貞?」と尋ねられたとしよう。
・・・ダメだ、状況がカオスすぎてよく分からん。
「あれ?でも、それだと相手が処女かどうかどうやって調べるんですか?」
俺が尋ねると、イヴァンは自分の角を指差した。
「簡単です。
我々一角族は、自分の角に触れた異性が処女かどうか分かりますから。
うまく誘導して角に触っていただけさえすれば、こっちのものです」
なんか、変な所で便利で卑猥な角だな。
「ちなみにその角、同性が触るとどうなるんですか?」
「触られたほうはとてつもない不快感に襲われて、場合によっては触った方をボコボコにします」
うわっ、同性に容赦ない紳士だな。
「なので、万が一触られても大丈夫なように包帯を巻いているんです。
これなら、たとえ触られても直接ではないので不快感はきませんから」
なるほど、その為の包帯だったのか。
まぁ、剥き出しにしてて誤って触った人まで殴る訳にはいかないもんな。
「あれ?そういえば、さっきロミアとヘレナも触りましたよね?
ということは・・・」
「判別できましたよ」
イヴァンは笑顔でそう言った。
俺は、後ろにいる二人の少女を見た。
ロミアは特に反応はなくキョトンとしている。
あれは話の内容がイマイチ分かっていないって反応だな。
一方のヘレナはというと・・・あ、ロミアの後に顔真っ赤にして隠れてる。
あれはどっちか分からないけど、まぁちょっとそういう知識がある子ならああいう反応はおかしくないか。
ていうことはロミアはその手の知識はほぼ皆無か。
いやあってもビックリだし、どこから入手した知識だってなるよな。
レオナルドあたりが泣きそうだ。
「ねぇ、ガル」
ロミアが俺の制服の裾を引っ張る。
「ん?どうした?」
「処女って何?」
『えっ』
ロミアの質問に、その場の時が一瞬止まった。
いや、俺は別に驚いた訳じゃない。
まぁ、少し驚いたけど。
ただ、俺が止まったのはロミアにどう説明するかで困ったからだ。
ロミアは基本分からない事は人に訊く。
それはすごい良い事なんだけどさ、今回はものすごく困る。
うーん、どう答えようか。
「ガル?」
俺が悩んでいるからか、ロミアが首を傾げる。
自分の子どもにどうやったら赤ちゃんって出来るの?って訊かれた親ってこんな気分なんだろうか。
「あっ、うーん・・・えっとな、俺もそこまで詳しくは知らないんだ。
だから、今度レオナルドさんとカリアさんに手紙書くだろ?
その時に訊いてみたらどうだ?」
「あっ、そういえば合格したって手紙まだ送ってなかったね。
分かった、その時訊いてみる」
ロミアが笑顔で俺に返す。
良かった、とりあえずこの場は乗りきった。
あとは頼んだぞレオナルド、カリア。
「あっ、そうだロミア。
お前今日料理長の人と会うって言ってなかったか?」
俺が尋ねると、ロミアはハッという顔をした。
どうやら思い出したらしい。
「そうだった。
今日、訊きたい事があるから会ってって言われたんだった」
「早く行かないと遅れるかもしれないぞ」
「うん!行ってくる!
じゃあね!」
ロミアはそう言うと、俺たちに手を振りながら走って行った。
「シガラとヘレナも、最近魔法の練習が上手くいってるんだろ?
今日もやってきたらどうだ?」
俺が尋ねると、シガラは少し間を置いて頷いた。
「うん、そうさせてもらうね。
行こうか、ヘレナちゃん」
「はっ、はい!」
そう言って、シガラとヘレナも屋上をあとにした。
二人の姿が見えなくなると、俺はイヴァンの方を見た。
「やっと、二人っきりになれましたね」
俺がそう言うと、イヴァンは笑って返した。
「私の恋愛対象は女性限定ですよ?」
「僕だってそうですよ」
俺は同性愛者になった覚えはない。
「何個か、イヴァン先輩に訊きたい事がありまして」
「それは、人払いをするほどの事なんですか?」
「・・・気付いていましたか」
「えぇ、明らかに最後のほうは不自然だったので。
ですが、シガラ君でしたか?
あの子は何となく気付いてると思いますよ」
それは俺も感じた。
シガラは頷くまでに微妙な間があったからな。
「まぁ、僕の勘がハズレていればいいだけの話ですから」
「それで、その質問というのは?」
「イヴァン先輩のさっきの話をまとめると、一角族は自分と肌を合わせた、まぁ元処女の女性を一生愛するんですよね?」
「えぇ、そうですね」
「で、相手が処女か確認する方法は角を触ってもらうことですよね?」
「そうです」
「じゃあ、もし処女じゃない女性と肌を合わせたらどうなるんですか?」
「・・・」
俺の質問にイヴァンの顔から先程までの笑顔が消えた。
やっぱり、結構重要な事だったか。
「逆に君はどうなると思いますか?」
イヴァン先輩の質問に、俺は冗談混じりに言った。
「さぁ、僕も核心があるわけじゃないので何とも。
ただ、もしかしたらその相手を殺したりするのかなぁと思っただけです」
俺がそう言うと、イヴァンは少し悲しそうに笑った。
「・・・君は随分と物騒な冗談を言うんですね」
「まぁ、冗談だから言えるんですけどね」
「フフッ、なるほど。
ですが、残念な事にその物騒な冗談が正解です」
・・・やっぱりか。
昔、小説のネタとして書くためにユニコーンについて調べた事があった。
ユニコーンは普段は獰猛だが、処女の懐にいる時はとても大人しくなる生き物だ。
だから、よく処女を餌にされて捕まる事があったらしい。
しかし、ユニコーンはその餌が処女じゃないと分かった時怒り狂うという。
イヴァンの話がユニコーンの話と何となく似てるからもしかしたらと思って訊いてみたが、まさか当たりだったとは。
「実際の話、そういう事例は珍しくありません。
確認を怠って、している最中に相手の方が処女じゃないと分かって怒り狂ってそのまま殺してしまうんです」
「その場合、相手を殺してしまった一角族の人はどうなるんですか?」
「・・・心に深い傷を負って、それ以降女性との関わりは一切無くなります。
たった一回確認を怠ったために、その人は一生恋愛を出来なくなります」
「それは、なかなかに恐い呪いですね」
俺がそう言うと、イヴァンは深く頷いた。
「えぇ、他の皆さんは愛に生きる素晴らしい一族だなんて言いますが、私からすればただの愚かで枷を付けられた一族です」
「なるほど。
まぁそれでも、初対面の女性にいきなり処女ですか?と訊くのはただの変態だと思いますよ」
俺がそう言うと、イヴァンは大笑いした。
「ハッハッハ、よく他の一角族の方からも言われます。
姿を見せるな、お前は一族の面汚しだと」
そこまで言われてるのか。
まぁ、変態紳士だから仕方ないのか。
「ですが、私からすればそう言っている人達のほうが愚かだと思います」
またイヴァンは悲しそうに笑った。
「愚か、ですか?
一族の誇りや文化を大事にしているから仕方ない事だと思いますよ?」
「えぇ、たしかにそういう方達は自分が一角族である事に誇りを持ち、文化を大事にしています。
ですが・・・」
イヴァンは静かに呟いた。
「いざ自分が間違えを起こした時、誇りや文化は責任をとることも身代わりになることもないんですよ」
何だろうか、この胸に突き刺さるものは。
「まぁ、こんな事言っているから私は一族の面汚しとか言われるんでしょうね」
そう言って、イヴァンはまた笑顔になった。
「別に、面汚しでも良いと思いますよ」
俺はイヴァンの顔を見て言った。
「だって、一角族である前にイヴァン先輩はイヴァン先輩ですから」
俺の言葉を聞くと、イヴァンは一瞬驚いた顔をしたが次には嬉しそうに笑った。
「・・・ありがとうございます。
そう言ってくれたのは、君が初めてです」
「まぁ、だからって幼い子とかに手出したり変な事言うのはダメですからね」
「安心してください。
私の恋愛対象は、成人した女性限定ですから」
なら、ロミアやヘレナが手出させれる事は今のところは無いのか。
よかったよかった。
「そういえば、食事はいつも皆で食べているんですか?」
「ん?えぇ、まぁ。
一緒に食べれる時は一緒に食べる事が多いですね」
「今度から私もご一緒しても宜しいですか?」
「僕は別に構いませんけど」
俺が答えると、イヴァンは嬉しそうに笑った。
「それは良かった。
私、実は友達がいないもので」
「そういうことですか。
まぁ、みんなには僕のほうから言っておきますよ。
ただ、一人でも嫌だっていうやつがいたら残念ですが断りますよ」
「それで構いませんよ。
私も面汚しの変態だという自覚はありますから」
まぁ、そこまで言うなら三人に相談してみるか。
ただ、変態は変態だけどそこを気にしないでいいなら普通に良い人だからな。
多分大丈夫だろう。
それに、俺も先輩で友達の人とかいないからな。
これを機に友達になるのも悪くはないか。
「ところで、イヴァン先輩ってどんな人が好みなんですか?」
「ん?そうですね、何個かありますが一番は胸の小さい方ですかね」
「大きいではなく、小さいですか?」
「はい、胸の大きさを気にしている姿はそそられますね」
この人、思考が変態チックだな。
「そういう君はどうですか?」
「僕ですか?
そうですねぇ・・・特に大きさは気にしませんが、しいて言うなら形の綺麗な胸は好きですかね」
「ほう、美乳好きですか。
その年でその好み、私と話が合いそうですね」
「勘弁してください、変態になるのは嫌ですよ」
「これは手厳しい」
その後、俺とイヴァンは少しの間好みの女性について話していた。
ちなみに、次の日からイヴァンは俺たちと飯を一緒に食うようになった。




