第7話 スーパーメイドと歴史と調整
シルビアとの混合魔法の授業から、3日が経過した。
今日は、魔法の授業は休みだ。
ということで、俺は日課にありつつあるフィーネの部屋で読書をさせてもらいに行った。
「フィーネさーん、いますか?」
俺は、ノックをしてフィーネさんを呼んだ。
「はーい」
ドアの向こうから声が聞こえ、少ししてガチャリとドアが開いた。
「あらガルファット様、どうされたのですか?」
フィーネさんが顔を出して尋ねてきた。
「これです」
俺は、笑顔で自分の持っていた本をフィーネに見せた。
「フフッ、かしこまりました」
フィーネも俺が読書しに来たのが分かったのだろう、俺を部屋の中に入れてくれた。
いつ見ても、この人の部屋はキレイだ。
白色の壁、シワ1つないシーツの敷かれたベッド、きちんと本棚に整頓された本。
そこまでせまい部屋というわけではないが、それでも掃除が行き渡っているのかごみ1つない。
そして、大きめの窓からはカーテンがかけられていながらも、日の光が射し込んできてテーブルと椅子、その上に置かれたお茶の入ったティーカップを照らしている。
「ガルファット様、こちらへどうぞ」
フィーネは椅子を引き、俺が座るのを待っていた。
やはりメイドさんは、こういうところも相手が子どもでも徹底してるんだなぁ。
「ありがとうございます」
俺は笑顔で、フィーネにお礼を言いながら椅子に腰を掛けた。
そして、持ってきたかなり厚めの本を開いた。
ちなみに文字は、シルビアやジークが本を読み聞かせしてくれた時や、俺が本を読んでいて分からない文字があるとフィーネが教えてくれたので覚えることができた。
そして今読んでいるのは、この世界の歴史の書かれていた本だ。
何でも、この世界は4つの国に別れているらしい。
剣術の発達した剣の国“バルファンク”、魔法の発達した魔法の国”ローリン“、特殊な力を持った者たちの能力の国“アビリル”、最後に人間以外の種族がいる魔の国”バデル“。
俺が住んでいるのは、能力の国アビリルだ。
今から400年前、4つの国は均衡を保っていた。
特に当時の魔の国の王、バーデン・アリソンは自国からも他国からも信仰の厚い者だった。
その高いカリスマ性と戦闘能力は、当時頭1つ抜けてトップだったという。
だが、平和主義者の彼は決して争いを起こすことはなかった。
それどころか、他国であろうと必要とあらば助ける英雄のような存在だったという。
そして、皆がその存在を喜び永遠の平和を望んでいる頃事件は起こった。
バーデン・アリソンが突如戦争を起こしたのだ。
理由は明らかになってはいないが、その時のバーデンは手のつけようがなかったらしい。
自分を止めようとした妻ですら、殺したという。
バーデンは自分の配下である軍隊を使い、一夜で他の3つの国を壊滅状態にした。
もはや誰もが死を覚悟した時、一人の長い赤髪の女性が現れたという。
その女性は己の力を使いバーデンと配下の幹部達を封印し、魔の国の奥深くに存在するという洞窟に閉じ込めたという。
そして残った魔族の軍隊を三国は撃退し、魔の国は王を失ったまま今も国として存在しているらしい。
ちなみに、バーデン達を封印した神様は今も各地でとても信仰されているという。
「ふぅ・・・」
俺は、本を読むのを一時中断した。
かなりの量を読んだから、少し疲れが出たのだ。
ふと俺は、斜め左で椅子に座って読書をしているフィーネを見た。
彼女も完全に読書モードに入っている。
余計な動き1つせず、楽しそうに本を読んでいる。
俺は彼女との、この時間が好きだ。
お互いに本を読んで、時には本の感想を言いあったりする。
そして、落ち着いて二人で読書をしている時のあの心地いい感覚が大好きだ。
フィーネもこの時ばかりは、メイドとしてではなく1人の読書仲間として接してくれる。
俺としては、それが結構嬉しいのだ。
「あら、ガルファット様もう読んでしまわれたのですか?」
俺の視線に気づいたのか、フィーネが視線を上げて俺に話しかけてきた。
「いえ、まだ全部読んだわけではないのですが一気に読んだせいか少し疲れてしまって」
俺は、苦笑いしながら答えた。
「確か、その本は世界の歴史書でしたっけ?」
「はい、面白そうなので書庫から引っ張り出してきました」
「実は、私その本読んだことがあるんですよ」
フィーネが自分の読んでいた本をテーブルに置き、笑顔で言ってきた。
「え?フィーネさん恋愛物以外の本読むんですか?」
フィーネさんの部屋にある本棚って、恋愛を題材にした本ばっかり置いてあったからてっきりその手のジャンルしか読まないのかと思っていた。
「今は読むジャンルは偏っていますが、昔は色々な本を読んでいたんですよ」
フィーネは笑いながら答えた。
「ただ、歴史書だけはどうしても納得いかない事があって読むのをやめてしまいましたが」
フィーネの顔が、少し残念そうに見えた。
「納得いかないことですか?」
「はい、ガルファット様はバーデン・アリソンをどう思われましたか?」
どう思ったか?うーん・・・
「カリスマ性もあって戦闘能力も高い。リーダーに向いている人だと感じました。」
俺が言うと、フィーネは真剣な顔で頷いた。
「そうです。バーデンは周りからとても信頼されていました。
では、そんな人がなぜ戦争など起こしたのでしょうか?しかも、何の前触れもなく」
確かに言われてみればそうだ。
「そんな人でも戦争を起こすほどの出来事があった、ということでしょうか?」
「私もそう考えました。しかし、どこにもその出来事に関する事は書かれていないのです。」
どういうことだ。
「どこにも、ですか?」
「はい、どの本のどこにもです」
それはたしかに腑に落ちないな。
歴史書は、本当にあった歴史を多少オーバーでもほぼほぼ忠実に書いてある。
それが書かれていないということは・・・
「その出来事は隠しておきたい、ということでしょうか?」
「さぁ、私もそこまでは分かりませんね」
俺が尋ねると、フィーネは、苦笑いしながら答えた。
でも、やはり気になるな。
そんな大きな影響を及ぼした出来事だ。
多少書きにくい事でも普通は書くと思うが。
まぁ、今は調べようがないけど。
「あ、そうだ!」
フィーネが突然何かを思い出したかのように言った。
「ん?どうしたんですか?」
「ガルファット様、今日も”あれ“お願いできますか?」
フィーネは両手を合わせて、お願いポーズをして笑顔で言ってきた。とても可愛い。
・・・喜んでやりましょうじゃないですか!!!
「はい!喜んで!」
俺は、物凄い勢いで庭に向かって走り出した。
「あ!ちょっと!ガルファット様!」
フィーネも慌てて俺を追った。
「はぁ、はぁ、ガルファット様。早すぎますよ」
中庭まで俺を追ってきたフィーネが、息を切らせて家の壁に手をつきながら言った。
「いやぁ、すみません」
俺は苦笑いしながら、フィーネに謝った。
「まったくもう。
ではお詫びとして、今日は前以上に頑張ってくださいね」
フィーネさんは、しょうがないという感じで笑いながら言った。
「はい!」
「それでは、準備をしますね」
そう言うと、フィーネは家の中に入り洗濯物の入ったかごと直径40センチくらいの少し底の深い桶を持って出てきた。
「では、ガルファット様お願いします」
フィーネはそう言うと、桶を地面に置いて洗濯物の一部を入れた。
俺は、右手の手のひらを桶に向けた。
注入する魔力は、水属性。
イメージは、溢れ出る水。
・・・よし、必要な分を注入できた。
「湧水!」
俺が叫ぶと、桶の中から水が発生した。
それを、八分目のところで止める。
俺がイメージして魔力を送ると、水は桶の八分目でピタリと止まった。
「回転!」
俺が叫ぶと、水は洗濯物を巻き込んで回転し始めた。
「でも、よろしいのですか?
私もとても助かりますし嬉しいですが、毎回洗濯の度にこのようなことを・・・」
「いいんですよ。
僕が自分からやっている事なんですから。」
少し困り顔をして言うフィーネに、俺は笑顔で返した。
あの混合魔法の授業の後、俺はどうしたら混合魔法を使えるようになるか考えた。
そして、魔法の調整の練習をすることにした。
もちろん、シルビアとの授業の時も心がけてやってはいるが、失敗できない状況でやるとより集中できるからな。
フィーネにお願いして、初めて洗濯の手伝いをした時は回転の調整を失敗して、フィーネのお気に入りのハンカチをボロボロにしてしまった。
その場ではフィーネは俺を気遣って「気にしないでください」と言っていたが、その日の夜そのハンカチを見て悲しそうな顔をしていたのを俺は忘れない。
さすがに、もうあんな顔はさせられないからな。
「ガルファット様、水洗いはこれで終わりです」
フィーネは俺にそう言うと、最後の洗濯物をかごに入れた。
「じゃあ、次は干しですね!」
俺が言うと、フィーネは、笑顔で頷いた。
「ふぅ、これでよしっと」
木を加工した2本の物干し竿に、俺とフィーネはさきほどの洗濯物を干していった。
「では、やりますね」
俺が言うと、フィーネは「はいっ」と言って物干し竿から少し離れた。
そして俺も、物干し竿の中心から後ろに3歩ほど離れて右手の手のひらを前に向けた。
イメージは、広範囲への心地よい風。
注入する魔力は、風の属性。
・・・よし、必要注入できた。
「そよ風!」
俺が叫ぶと、洗濯物全体に行き渡る範囲を心地よい風が覆った。
・・・ここからが本番だ
「温度上昇!」
俺は、風の温度を上げた。
そして、洗濯物を傷めずに乾きやすい温度になった瞬間、それを維持した。
これも、最初にやった頃は失敗した。
風量を失敗して洗濯物を飛ばしてしまったり、温度調節を間違えてダメにしてしまったり。
その度に、フィーネにフォローしてもらったな。
まったく、本当にフィーネには頭が上がらないな。
「ガルファット様、もう大丈夫ですよ」
フィーネに言われて、俺は魔法を出し続けるのをやめた。
「今日も、ありがとうございます」
洗濯物を取り込み終えたフィーネが、俺にお辞儀をして言った。
「いえ、僕も魔法の練習になるのでお礼なんていらないですよ」
それに、迷惑もかけちゃってるからなぁ。
これでお礼なんて言われちゃったら、俺の立場なくなっちゃうよ。
・・・まだまだ混合魔法をできるレベルにはなってないだろうけど、少しずつでも魔法の技術が向上しているのは自分でわかる。
まぁ、今の俺はこれを続けていくしか思い浮かばないし頑張るか。
俺はそう思いながら、フィーネの後を追って家に入った。




