第6話 神様の話しと何か違う
あの授業の次の日、俺は最後に魔法が使えた事をシルビアに伝えた。
「うーん、通常魔力枯渇状態だと魔法は使えなくなるのだけどねぇ」
シルビアが必死に考えている。
確かにあの時、魔力が枯渇した感覚はあった。
いくら集中しても、魔力が注入していない感覚だ。
でも、その後すぐに魔法が使えるようになった。
ということは、枯渇状態からの回復が早かったってことか?
「母さんの知り合いで、魔力枯渇状態からの回復が早かった人とかはいなかったのですか?」
「たしかにそういう人は何人か知っているけれど、そこまで回復速度の早い人は、さすがにいなかった気がするわ」
俺が聞くと、シルビアは苦笑いをしながら、記憶を探りながらという感じで答えた。
でも、確か紅はあの時チートスキルはあげられないけど、少し融通はきかせれるって言ってたよな。
え?まさか、これこの世界じゃチートスキルレベルじゃないの?
少しの融通がこのレベルなの?
マジですか?
俺は、頭を抱えた。
くそー、紅に会って確かめたいな。
あの神様、今頃どこで何やってるんだろう。
「別にそんなに悩むものでもないと思うわよ?」
俺が悩んでいると、シルビアが不思議そうに言った。
「え?どうしてですか?」
「じゃあ逆に、ガルは何をそんなに悩んでいるの?」
何を悩んでいるって・・・何を悩んでいるのだろう。
俺自身わからなかった。
「他の人と違って、魔力の回復速度が早いだけなのよ?」
シルビアは、しゃがみこんで俺の頭を優しく撫でながら言った。
確かにそのとおりだ、ただそれだけなのだ。
俺は焦っていたんだ。
自分の予想の範疇を超えた事を。
そんなのよくある話しじゃないか。
というか、前世ではよくやっていたじゃないか。
小説を書いている時は、いつも読者の期待や想像を良い意味で裏切ってきたじゃないか。
「あそこで、ああ出るとは思いませんでした!」、「予想通りにならない展開にワクワクします!」って感想もらった時嬉しかっただろ。
読者の人も楽しんでくれてるんだ!って、喜んでただろ。
予想通りで終わる人生なんてつまらないじゃないか。
そうだ、予想外を楽しめ。
俺は、スッキリした笑顔をシルビアに向けた。
「何を悩んでいたんでしょうね」
俺が言うと、シルビアも笑い返した。
「良い顔をしていますよ、ガル」
シルビアは、嬉しそうに言った。
「あなたがマイナスに考える事はないですよ」
そう言うって、シルビアは続けた。
「だからガル。もし、他と違う子がいたらあなただけでもマイナスで見ないであげてください。それはその子の個性なのだから。」
シルビアの目は、とても優しそうだ。
「約束してもらえますか?」
「はい!約束します!」
俺は元気よく返事をした。
「ふふっ、では今日も魔法の授業を始めましょうか」
笑いながら、シルビアが言った。
「はい!先生、今日は何をしますか?」
「そうですねぇ、今日も色々な魔法を試してみますか」
こうして今日も、俺とシルビアの魔法の授業が始まった。
「そういえば先生、1つ質問をしてもいいですか?」
俺は、休憩時間にシルビアに尋ねた。
「はい、何ですか?」
「2つ以上の属性の魔法を合わせて使う場合は、どうすれば良いのですか?」
シルビアは、苦笑いしながら答えた。
「ガルにはまだ早いかもしれませんが、使ってみたいですか?」
「はい!使ってみたいです!」
「分かりました、ではお手本を見せますね。」
そう言うと、シルビアはいつもと同じく俺に背を向けて右手の手のひらを前に向けた。
「我が力は嵐のごとき突風を巻き起こし、その突風は全てを焼き尽くす天災となる」
シルビアの手のひらの前に、小さな竜巻ができていく。
その竜巻は赤く、炎が渦巻いている。
そして、竜巻は直径10センチほどになった。
「炎の竜巻!」
シルビアが叫ぶと、竜巻は空に向かって放たれた。
そして、少しして空で消えた。
「これが2つ以上の属性を合わせて使う、“混合魔法”です。」
シルビアは、俺に振り向き言った。
「複数の魔法を均等に混ぜ合わせて使うのは、かなり難しいです。
難易度は、上から3番目と言ったところですね。
ちなみに今までガルに教えてきた魔法は、せいぜい上から5番目くらいでした」
上から5番目が、一気に3番目か。
それは確かに難しそうだな。
「ではガル、さっそくですが使ってみましょうか」
俺は、頷きシルビアに背を向けた。
そして、手のひらを空に向けた。
「はぁぁぁぁ」
俺は、手のひらに魔力を注入し始めた。
竜巻を作り、その風を炎にする。
イメージしろ、炎の竜巻を。
そして、竜巻は直径20センチほどになった。
「炎の竜巻!」
俺が叫ぶと、竜巻はそのまま空に向かって飛んでいった。
「・・・くそっ、失敗だ」
俺は、呟いていた。
そう、確かに”竜巻“は撃てた。
「風の属性が強くなってしまったのね。
混合魔法は、均等に属性を混ぜないとどちらか片方の属性になってしまうのよ」
シルビアが、俺に苦笑いしながら言った。
シルビアの言う通りだった。
俺の放った魔法は、ただの竜巻だ。
魔力を均等に、か。
そういえば、色々な魔法を使ってきたけどそれを調整するっていうのはしてこなかったな。
撃つ魔法をイメージして、魔力を注入して、撃てるようになったら撃つ。
それだけだった。
それじゃ、ダメなんだな・・・。
・・・それでも、使えるようになりたい。
「先生、俺にも使えるようになりますか?」
俺は、シルビアのほうを向いていった。
俺の言葉に、シルビアは真剣な眼差しで答えた。
「ガル、それはあなたの努力次第です。
この魔法は決して簡単ではありません。努力をしてもできるようになるとは限らないでしょう」
シルビアは、そのまま続けた。
「できるようになるには努力をするしかないのです。
人一倍努力をして、それでも本当に出来なかった時にさっきの疑問を考えるのです」
「・・・はい!」
「ただ・・・」
シルビアは、俺の頭を優しく撫でながら笑って言った。
「私は、あなたならできると信じています。
どうか、焦らず自分を信じてください。」
俺はシルビアの言葉に、はい!、と元気よく返事をした。
「さて、今日の授業はここまでにしましょうか」
「ありがとうございました!」
俺は、シルビアに頭を下げた。
これにて、その日の魔法の授業は終了した。
今日の授業で、何個か分かったことがある。
1つは、この世界でもやはり努力は必要なのだということ。
そしてもう1つは、シルビアはとても先生に向いているということだ。