第4話 好奇心の固まり
「うん!やっぱりこのシリーズは面白いなぁ」
椅子に座っているフィーネが、読んでいた本を閉じて伸びをしていた。
豊満な胸の膨らみが強調される。
・・・年齢を考えると、けしからん胸ですなまったく。
「あら、ガルファット様。今日も、探検ですか?」
フィーネが俺の方を見て尋ねてきた。
「はい!行ってきます!」
俺は、笑顔でフィーネに返事をした。
俺が生まれてから、早2年が経過した。
今では、一人で歩いて家の中を探索する毎日だ。
本当は、ハイハイができるようになってからしていたのだが、2階建てのこの家だと階段が怖くて自由にとは言えなかった。
それに、ハイハイって何か立って歩くより疲れるんだよね。
この家、そこそこ広いから端から端まで行くと結構体力使うんだよなぁ。
さて、俺が赤ちゃんのハイハイ事情について考えながら歩いていると、1階にある部屋の中で俺が一番好きな部屋の前に到着した。
その部屋の中には、大量の本がきちんと整列した本棚の中に収納されている。
そう、俺が一番好きな部屋というのは、書庫だ。
魔法関係の本、剣術関係の本、歴史に、勇者や魔王を題材にした物語の本など様々な物が置いてある。
前世でも、本を読むのは好きだったし色々な知識が本から学べるから読書は大切だ。
少し前から、字の読みを教えてもらっているからスラスラ読めるし。
さて、今日は何の本にしようかなぁ。
俺は、そんなことを考えながらドアノブに手をかけようとした。
すると、ドアが少し開いているのが分かった。
俺は、そのままドアを開けた。
すると、中には窓からの日の光に照らされながら、椅子に腰かけて読書をしている先客がいた。
手には、”光神流剣術基本編“と書かれている本が持たれていた。
「おう、ガル。お前も読書しに来たのか?」
ジークである。
俺に気づくと、ジークは椅子に座ったまま話しかけてきた。
俺は、ジークのほうに歩いて近づいた。
「はい、父さんもですか?」
俺が聞くと、ジークは笑顔のまま答えた。
「あぁ、昔から剣術に関する本は暇があったら読むようにしているんだ。」
「ん?たしか父さんは剣王の称号を持ってましたよね?
なんで、基本の本を読んでるんですか?」
前にジークから聞いたことがあった。
この世界では、3つの剣術が存在していると。
手数や速さでとにかく先手必勝を狙う光神流、カウンターなどから、一撃必殺を狙う流神流、そして、特定の型などがなく我流のスタイルになる無神流である。
そして、剣士にも称号がある。
順番としては、剣士→剣王→剣帝→剣聖の順に高くなっていく。
称号自体は、ちゃんとした試験を受けて合格した者だけがもらえるって言っていたはずだ。
ジークは、剣王の称号すでに持っている。
なら、読むなら基本編じゃなくて応用編なんじゃないか?
「俺の師匠が言ってたんだよ。“どんなに強くなっても基礎を振り返る事を忘れるな”ってな」
ジークは、笑いながら答えた。
確かに、基礎を理解していないと誰かに教えるときに苦労するし、原理が分からなければ応用はできないと聞いたことがある。
人間慣れるとその慣れのままやってしまって、なぜそうなるのか、なぜそうしなければいけないのか忘れてしまうこともあると言うしな。
「その先生の称号って、何だったんですか?」
基礎を大事にする人は強い。
特に根拠があるわけではないが、なぜかそんな気がする。
「たしか、剣聖だったな。一度も勝てたことがなかったよ」
「・・・え?」
ジークが苦笑いしながら答えた。
剣聖は1番上の称号だ。
いくらジークが剣王だからと言っても、実力はなかなかの物だろう。
・・・教わりたい。
ジークから剣術を学びたい。それが俺の素直な感想だった。
せっかく転生して剣と魔法の世界に来たんだ。
たとえ自分に合っていなくても、一度位は剣も魔法も学びたいと思う。
「父さん、お願いがあります。」
俺が真剣な顔で言うと、ジークも真剣な顔で聞いてきた。
「なんだ?」
「僕に剣術を教えてください!」
「・・・剣の修行は厳しいぞ?」
「覚悟の上です。それくらいしなきゃ強くなれない。」
「・・・俺も手加減しないからな。」
「はい。」
最後の言葉は問いかけというよりは、実行するという意味だろう。
ジークは静かに目を閉じた。
そして、数秒何かを考えて目を開いた。
「分かった。お前に剣術を教える。」
「ありがとうございます!」
俺は、立ったまま頭を下げた。
「ただし、今のお前の体だと修行に耐えきれない。4歳になってから、修行は始める。」
「はい!お願いします!」
俺は、ジークに頭を下げると近くにあった歴史書を手にして書庫を出た。
俺は笑顔で本を片手に歩きながら、フィーネの部屋に向かった。
あそこの部屋、何か読書するのに合ってるんだよね。
私は、書庫の扉を軽くノックした。
すると中から、どうぞ、と言う声が聞こえた。
私はドアを開けて、書庫の中に入った。
「シルビアか。どうしたんだ?」
そこには、笑顔で椅子に座っているジークの姿があった。
「廊下でガルがここから出るのが見えたから、寄ってみたの。」
私が言うと、ジークは探るような笑顔で聞いてきた。
「本当にそれだけか?」
「・・・廊下ですれ違ったのに気づいてくれなくて少し拗ねてます。」
「そういうことか。で、その原因を探しに来たと」
「そうしたら、あなたもニヤニヤしているんですもん。妬いちゃいます。」
私は、そっとジークから目を逸らした。
「大したことじゃないよ、ガルに剣術を教える約束をしたんだよ」
ジークはあっさりと答えた。
「今からですか?」
「いや、今のあいつじゃ体が持たないだろうから4歳になってからって言ってある。」
「いいですね、私もあの子に魔法教えようかなぁ。」
魔法なら、今のガルの歳から教えても問題ないから教えられるし。
「お前、ガルの事になるとすごい負けず嫌いだよな」
「仕方ないじゃないですか、好きなんだもん」
私が照れながら言うと、ガルが嫉妬深い目で見てきた。
「それ、俺が妬くんだが」
そう言うと、ジークは私を抱き寄せて頭を優しく撫でた。
私も、少しの間それに身を任せた。