第3話 赤ちゃんやるのも楽じゃない
「これが俺たちの息子か~」
目を開けた初めて見たもの、それは10代後半くらいの男性の顔だった。
柔らかい笑顔で、俺を見ている。
髪は茶髪にオールバック、目は水色をしている。
少し童顔なのが、特徴的だ。
「ほら、シルビア。俺たちの息子だよ」
そう言うと男性は、俺を女性の寝ているベッドの上に置いた。
男性は、よく頑張ったね、と女性の頭を撫でている。
女性は、大量の汗をかいている。
男と違い、大人の色気のある顔だ。
髪は黒髪、目は茶色だ。
笑顔で優しく俺を見る顔は、母性たっぷりのお母さんという感じがたっぷりの顔だ。
「男の子だったら、名前はガルファットだったわね。」
「あぁ、ガルファット・ファーリン。この子の名前だ。」
ここまで来れば、俺でも分かった。
俺が転生して、最初に目にした男性が父親で女性が母親なのだと。
そして、自分の名前がガルファット・ファーリンなのだと。
俺の2度目の人生は、ここから始まった。
産まれてから1ヶ月が経った。
俺は、元気に赤ちゃんをやっている。
紅が、要望通りに健康な体にしてくれたらしく、病気などにもかかっていない。
それに、1ヶ月の間色々な事を知った。
まずは、両親のことだ。
父親の名前は、ジーク・ファーリン。
童顔のせいで、まだ10代だと思っていたがどうやら20代半ばの年だったらしい。
仕事は、定期的にやっているわけではなく時々している感じだ。
仕事の内容は不明だが、軽装備ながらも鎧を着て剣をもって出掛けている事から、何かしら警備の仕事なのだと思う。
次は母親だ。
名前は、シルビア・ファーリン
色っぽい顔をしているので、年はジークよりも上かと思っていたが実はまだ18らしい。
・・・なんだこの年齢逆転夫婦。
専業主婦をしていて、ジークが仕事でいないときは俺を抱いて外や家の中を散歩している。
両親の事は、そんなところだろう。
ちなみにこの家には、メイドさんがいるらしい。
名前は、フィーネ・バンセント。
年は10歳らしい。
可愛らしい女の子で、いつも笑顔でテキパキと働いている。
料理や洗濯、掃除その他諸々を一人でこなすスーパーメイドだ。
・・・この家、2階建てでなかなか広いのに、仕事を終わらせて昼過ぎくらいに趣味の読書をしたりシルビアと俺と一緒に散歩するくらいだからなぁ。
さすが、スーパーメイドだ。
ちなみに、シルビアと一緒に料理を作っている姿は歳の離れた姉妹のようで微笑ましいものだ。
俺の事も、とても可愛がってくれていて、いい子だねぇ、と言いながら笑顔で俺を抱っこしてくれる。
その時に当たる豊満な胸の柔らかい感触、俺は好きだぜ?
家族の紹介はこれくらいだな。
次は、この土地についてだ。
シルビアとフィーネと一緒に散歩した時に、色々見たけど、どうやらここは異世界でも田舎のほうになるらしい。
周りには、草原、山、森、畑が広がっていて住居はそこまで多くはないみたいだ。
それでも、10分くらい歩けば隣の民家に行けるしド田舎というわけではない。
子どもは少ないのかなぁと思っていたけれど、そうでもないらしく散歩の時にはいつも外で遊んでいる子ども達を見る。
そういえば、この世界は剣と魔法の異世界らしい。
剣はジークが持っていたし、魔法は一度、散歩中にフィーネが転んで足を擦りむいた時にシルビアが治癒魔法をかけていた。
と、まぁ分かったことはこれくらいかな。
まだ自分で動けない分情報は少ないけど、それでもこの頭は記憶力がいいらしく、一度覚えたものはそうそう忘れないからありがたい。
「そういえばこの子、全然泣かないわねぇ」
俺がベビーベットの上でここ最近の事を振り返っていると、シルビアの声が聞こえた。
「言われてみればそうですね、ガルファット様が泣くと言ったらおしめを変えてほしい時くらいですね。」
続いてフィーネもそんなことを言っている。
今日も、メイド服に身を包みせっせかお仕事をしているスーパーメイドだ。
「分かりやすくていいんだけど、なんか心配になるわよねぇ」
「赤ちゃんといえば、お腹が空いた時や夜泣き、甘えたい時も泣くと言いますもんね。」
「手間のかからない子なんだけど、うーん・・・」
と、椅子に座っているシルビアが唸っていた。
ちなみにフィーネは、テーブルに乗った洗濯物を畳ながらシルビアと話している。
それにしても、泣くねぇ。
言われるまで気にしてなかったなぁ。
まぁ、自分の息子が泣きやすい時期に泣かないってのは親としては不安だよなぁ。
どうしたものかなぁ。
「でも、怪我して泣かないとかではないんですし、そんなに心配しなくても良いのではないですか?」
俺がシルビアと共に悩んでいると、フィーネが笑いながらシルビアに言った。
「・・ふふっ、それもそうね」
すると、フィーネの笑顔につられてかシルビアも笑いながら答えていた。
「無事に子どもが育ってくれる事が、一番大切よね」
そう言うとシルビアは、俺に近づいてきた。
そして、優しく俺を抱き上げた。
「ガル、無事に育ってね。」
シルビアは言い終わると、俺のおでこにキスをした。
とても幸せそうな顔だ。
何故だろうか、すごく嬉しい。
俺は、全力の笑顔をシルビアに向けた。
シルビアもまた、俺に満面の笑みを浮かべている。
そして、俺は静かに目を閉じて眠りについた。