第2話 チートスキルがもらえなかったら、努力で何とかするしかない
「・・・ふぅ、やっぱりおせんべいには緑茶ですねぇ~」
女の子は、俺の目の前で幸せそうにせんべいを食べ、お茶をすすっている。
「あなたも、食べますか?」
「いや、遠慮します」
「そうですか。ではいただきまーす」
女の子は、またせんべいを食べ始めた。
本当にせんべい好きな子だなぁ。
「なぁ、俺の方からも質問したいことがあるんだけどいいか?」
「ふぅ?ふぁんふぇすふぁ?(ん?なんですか?)」
俺が聞くと、女の子はせんべいを食べながら答えた。
「名前、何て言うの?」
「ごっくん・・・ふぅ、私の名前ですか?」
「そう、名前分からないと不便でしょ?」
「それもそうですね。
うーん・・・では、“紅”と呼んでください。」
「紅さん、何で俺の名前を知っているんだ?」
「紅、と呼び捨てでいいですよ?」
紅はまた、面白そうに笑っている。
ただ、この子と俺は初対面のはずだ。
仮に、何かしらこの子と面識を持っていたなら忘れるはずがないからな。こんな可愛い子を。
「紅、俺とお前は初対面でいいんだよな?」
「はい、会ったのは今回が初めてですね」
「じゃあ、何で俺の名前を知ってたんだ?」
「まぁ、こんなですが仮にも神様ですからね。」
「・・・は?」
神様?て、あの神様か?ゴッドか?この子が?
「神様って、あの神様か?」
「はい、その神様です」
「お前が?」
「私が」
紅は、笑顔のまま俺の質問に答えている。
「やっぱり、信じられないですよね?」
紅は、困ったような苦笑いで俺に聞いてきた。
「まぁ、いきなり言われてもな」
「そうですよね。うーん、では英行さんは死んだときの事を覚えていますか?」
ん?死んだとき?
死んだときなんて・・・いや、待てよ。
俺はたしかあのとき、家を出てファミレスに向かっていて、青信号になるのを待っていて、そして歩き出したらトラックに・・・
「!?!?」
そこまで思い出した時だった。急に体を寒気が襲った。
体が震えて止まらない。
俺は冷や汗をかきながら、震えを止めようと両手で肩を抑えた。
やばい、なんだこれ。止まらない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息も荒くなってきた。呼吸するのが苦しい。
「ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまって。」
いつの間にか、俺の横に回っていた紅が包みこむように俺を抱きしめていた。
優しい手つきで俺の頭を撫でてくれている。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸してください」
「すぅー・・はぁー・・すぅー・・はぁー」
紅に言われて、俺は深呼吸をした。
すると、体の震えは徐々に引いていった。
「・・・紅、ありがとう。もう、大丈夫。」
俺がそう言うと、紅はゆっくりと俺から離れてさっきまでいた場所に戻った。
「良かった。
死んだときの事を思い出すと、英行さんみたいに体が震える人が多いんですよ。ただ、みなさん自力で直すのですが英行さんの場合は人よりも衝動が強かったみたいですね。」
「そうなんだ・・・」
「あ、1つ言っておきますけど、英行さんみたいに誰かを抱き締めたのは初めてでしたよ?」
紅が名前通り、頬を少し赤くしながら言った。
「うぅ・・・」
何か、情けなくなってきた。
神様って言っても、見た目は俺よりも年下の子にそんなことしてもらったなんて・・・
何だろう、涙が出てきた。
「って、うわぁ!何で泣いてるんですか!?」
本当に泣いていたいたらしい。
俺は、服の袖で涙を拭いた。
「私に抱き締めてもらえたのが、そんなに嬉しかったんですか?」
紅が、笑いながら冗談混じりに聞いてくる。
「はい、こんな美人に抱き締めてもらえるとは思ってなかったんで。」
俺がそう言うと、紅は顔を真っ赤にして驚いた顔をした。
「へへっ、ありがとうございます」
だが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
顔は、少し赤いままだが。
「なぁ、紅。ちょっと確認したいことがあるんだけどいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
いつの間にか、紅は真剣な顔をしていた。
「俺は、死んだんだよな?」
「はい、間違いなく」
「ここはあの世か?」
「あの世とこの世の中間、みたいな場所ですね。」
「元いた世界と異世界、どっちに転生したいか。
あれは、ただの質問ではないな?」
「はい、あの質問の答えであなたの転生先が決まりました。」
「・・・分かった。少し時間もらえるか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
俺は、紅にそう言って少しの間目を閉じた。
とりあえず、整理しよう。
まず、俺はあの時トラックに轢かれて死んだ。
そして、今はあの世とこの世の中間にいる。
で、紅のあの質問・・・
なるほどね、そういうことか。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
「ふぅ、理解できたよ」
「ずいぶん早いですね。」
紅は、笑顔のまま言った。
「俺を異世界に転生させるんだろ?理由はよく分からないけど」
「はい、その通りです。
理由、説明しましょうか?」
「うーん、・・・いいや」
俺は、笑いながら断った。
「いいんですか?」
紅は、キョトンとした顔をしている。
「あぁ、そういうのは聞かない時のほうが楽な事もあるだろうから」
「分かりました。では、転生させますね。」
紅は、笑顔に戻ってそう言った。
すると、俺の体が白く発光し始めた。
「あ、そうだ。何かこうしてほしいって希望はありますか?
さすがに、チートスキルみたいなのは渡せませんが、多少融通は利かせれますよ?」
紅が、思い出したかのように聞いてくる。
「うーん、他の人よりもちょっとだけでいいから健康で丈夫な体にしてもらえるか?」
俺がそう言うと、紅は頷いた。
「はい、他にはありますか?」
「うーん、他はいいや。あとは紅が適当に必要そうなの付けといてくれ。」
「分かりました。」
紅は了承し、最後にこう言った。
「では、目を閉じてください。次に目を開けたときは転生先ですよ。」
「はい。」
俺は、静かに目を閉じた。