第1話 二択は迷わず直感で
「・・・うぅ」
何があったんだ。
状況がわからなかった。
ただ、自分がうつ伏せになっていた事は分かった。
「まったく、なんなんだよ。」
そう言いながら俺はゆっくりと、体を起こして立ち上がる。
なんだ、ここ。
そこは、見覚えのない場所だった。
俺は、辺りを見回した。
そんなに広くない部屋だ。
引き戸式の障子、床は畳、正面の壁の前には台の上に乗ったテレビと、その前にこたつがあった。
そしてこたつを挟んだ向こう側、俺に背中を向けた人が座ってテレビを見ていた。
こたつで全身は見えないが、赤い着物と黒く長い髪が見える。
「バリッ、バリッ、バリバリ」
目の前の着物姿の奴から、何かを噛み砕く音が聞こえる。
何だろう、状況が分からないからかとてつもなく怖い。
すると、目の前の奴はパッと俺の方を振り向いた。
「ん?・・・あ、目覚めたんだね。」
それは、高校生くらいの女の子だった。
口から、今まさに中に連れていかれるであろうせんべいが少し見えている。
「バリッ、バリッ、バリッ・・・ごっくん」
その子は、俺を見ながらせんべいを食べ終わると、体を俺の方に正対させて正座した。
「・・・とりあえず、座ったら?」
女の子は、面白そうに笑いながら言った。
「では、失礼します。」
俺は、そう言って女の子の正面に座った。
よく見ると、かわいい子だ。
目はぱっちりしていて、唇も薄すぎず厚すぎずきれいなピンク色。
鼻もスッとしていて、小顔だ。
「そんなにかしこまることはないよ」
女の子はフフッと笑いながら言った。
笑顔も可愛い子だ。
ふと、俺は違和感に気づいた。
女の子の目だ。さっきは目の形に気がいっていたが、よく見ると目の色が左右で違うのだ。
俺から見て向かって左は茶色だが、右側はキレイな黄緑色だ。
「あの、私の顔に何かついています?」
女の子は、不思議なものを見るような目をして聞いてきた。
「いえ、キレイな目だなぁと思いまして。」
「ありがとう。あと、敬語じゃなくていいよ」
俺が言うと、女の子は嬉しそうに言った。
うーん、敬語じゃなくてもいいって言ってるし、ここからはため口で話すか。
見た感じは、俺より年下みたいだし。
「でも、あなたから見たら変なんじゃない?周りにオッドアイの人なんていなかったでしょ?」
女の子は、確かめるかのように聞いてきた。
「たしかにいなかったけど、ゲームやラノベじゃよくあることだしね。それに、俺は嫌いじゃないよオッドアイ。」
実際オッドアイの人に対して、嫌悪感とかは全然抱いてないしな。
目自体もキレイだし。
「ふふっ、ありがとう」
女の子は、嬉しそうに笑っている。
「さてと、じゃあ本題に入ります」
そう言うと、女の子の表情が変わった。
真剣な顔をしており、さっきよりも大分大人っぽく見える。
「まず、あなたのお名前は成田英行さんで間違いないですか?」
「・・・はい」
「では、あなたに今から質問をします。二択なのでどちらかの選択肢を答えてください。」
「・・・分かりました。」
俺が答えると、女の子は俺と話していた時の笑顔になり優しく聞いてきた。
「あなたは、転生するなら元いた世界と異世界どちらが良いですか?」
「異世界です」
俺は即答した。
頭で考えて出した答えではない。
聞かれた瞬間に、答えが口から出ていた。
女の子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって優しく問いかけてきた。
「異世界で、いいんですね?」
「はい」
「一度決めたら、もう変えることはできませんよ?」
「はい」
俺は、女の子の目を見て真剣に答えた。
「・・・分かりました。」
女の子はそう言うと、目を閉じた。
そして数秒後、ゆっくりと目を開けた。
「・・・では、時間が来るまでもう少し話しましょうか」
彼女の顔は、さきほどよりも可愛い満面の笑みを浮かべていた。