第0話 居眠り運転、ダメ、絶対
「終わったー!」
俺は椅子に座ったまま、伸びをするように両手の拳を上に向かって伸ばした。
目の前のパソコンには、ここ3ヶ月分の努力の結晶が映し出されている。
俺は、目を閉じてデビューする前の事を思い出していた。
高校2年の時に、親は交通事故で他界。
そこからは、残されたお金をやりくりしながら高校に通い続けた。
仕事に関しては、趣味でサイトに投稿していた小説が出版社の人の目に留まり、ラノベの小説家としてデビュー。
高校を卒業したあとは、小説家の仕事に専念してきた。
そして今日、約10年の小説家人生でのある節目を迎えた。
俺が何本か出した小説の中で、一番ヒット作。
その最終巻を今日、書き終えたのだ。
発売から、シリーズ合計15巻もの長編作品で売り上げは累計1500万部を突破。
アニメ化も映画化もされて、人気は高いものだ。
そんな作品を最後まで書き通して、自らの手で終わらせることができた。
作家として、これほど幸福なことはないだろう。
「ふぅ、さてと」
俺は、目を開いて椅子から立ち上がった。
執筆に没頭してて感じなかったけど、今になって腹が減ってることに気づいた。
ここ最近、まともに食っていなかったからなぁ。
久しぶりに外に出て、飯食い行くか。
一応、両親が死んでから家事全般できるようになったし、料理も一般的なものは大体作れる。
だけど、今日で徹夜3日目に突入していた俺には、このあと料理を作る気力は残っていない。
俺は残っている体力を振り絞って着替え、家を出た。
「・・・あっつ」
一歩家の外に出ると、太陽の全力投球の光線が地面を灼熱のフィールドに変化させていた。
やべぇよ、いくら8月に入ったからってこの暑さは人類を殺しに来てるよ。
ファミレスは、ここから歩いて10分くらいの所にある。
とりあえず、俺はファミレスに向かって歩き出した。
俺の住んでるこの地区は、住宅街になっている。
マンションやら、アパートやら、一軒家が軒並み並んでいる。
住んで27年になる土地なので見慣れた光景のはずだが、なぜか周りを見渡しながら歩く。
そして、目の前に十字の交差点が見えてきた。
ここを右に曲がってすぐの所に、ファミレスはある。
交差点には、8月で夏休みに入ってるというのに信号待ちをしている車は1台もない。
まぁ、都内でも田舎のほうだし珍しくもないか。
そんなことを考えながら、俺は信号が青になるのを待っていた。
そして歩行者信号が青になり、歩き出した2歩目だった。
「うっ・・・」
急に立ちくらみが襲ってきて、片膝をついた。
まともに水分補給してなかったからな、これは早く水分取らなきゃまずいな。
立ち上がって、急いでファミレスに行こうとするが足が動かない。
くそっ、そんなすぐには回復しないか。
俺が熱中症の怖さを実感したときだった、
左に視線を向ける。
こちらに突っ込んでくるトラックがいた。
しかも、明らかにブレーキをかけている様子はない。
なんで!?
いくらもたもたしてたからって、まだ歩行者信号は青のはずだ!
だが、俺は運転手を見た瞬間すべてを悟った。
運転手は、こちらを見ていなかった。
いや、正確には、運転手は寝ていたのだ。
「まじかよ・・・」
トラックは、止まることなく俺に当たったはずだ。
確実に言えないのは、そこで俺の意識はなくなったからである。