No.8 無心な意思
今回のお話の後半はかなり性急な話の運びになっています。
私の実力不足が主な原因ですが、読みにくかったら申し訳ありません。
夕焼けの茜色が作戦室を染め上げる頃。部屋にはほとんどの隊員が帰ってきている。
訓練後のシャワーを終え、帰ってきたフールが既に部屋にいたハーベと夕食を作り始める。部屋の中の隊員たちはチェスやポーカーに興じている。そんな中で唯一静かにフィラルは本を読む。
「できたぞ!自分で好きなの取って食え!」
各々暇つぶしのゲームをやめ、部屋の隅のキッチンまで歩く。料理の量が多いか少ないかで喧嘩を始める隊員をフールは怒鳴りつける。不貞腐れた顔に部屋は笑い声に満ちる。
たった8人とは思えないほど騒々しい食事の中、そこだけ静かなテーブルの一角。
「フィラル、今日の朝の話なんだが。」
「どうかしたか?」
フールの声は喧騒に掻き消され、隣や正面など一部の人間にしか届かない。
「もし、俺たちが狙われているとしたら、これからの哨戒任務などの危険度が高まる。そのことを考えるとこの情報は隊員に公表した方がいいんじゃないか?」
あの情報は基本的に隊長のみが使えるネットワークのものである。特例でない場合、その内容が一般隊員に広まることはほぼありえない。
「え、なに話してるの?」
厄介なのがきたとばかりの舌打ちが一つ。
「お前は飯食ってろ。」
ぞんざいにハーベを話から外そうとする。
「聞かせなさいよ。あんたたちいっつも難しいこと話してるじゃない?隊長の職務も大事だけど息抜きもしなきゃ。」
しかし、ハーベにフールの言葉が通じるはずもなく。黙々と食事するフィラルの代わりにフールが一部始終を解説する。
「あんまり関係ないじゃない。レシオさんたちが捕まえたってことはしばらく指揮官がいなくなるんでしょ?代わりの機体が来るまでに体制整えればいいんだから。」
ハーベの読みは決して外れていない。しかし、最悪を考えるべきなのが戦場だ。
「指揮官機は調査結果によると機動性に特化しているらしい。調査が外れていなければ、予備があれば1日前後で補充するのも不可能ではなくなるわけだ。」
食事の早いフールはゆったりとくつろぎながら答える。相も変わらず隣では他の隊員たちが騒いでいるが、注意する気はないようだ。
と、やっと食べ終わったフィラルが口を開く。
「隊員には伝えない。答えのわからない問いを投げたって混乱するだけだ。その隙を突かれてしまったら元も子もないしな。」
床に散乱するチェスの駒を器用に避けて、流しに食器を持っていく。その姿に苦笑したフールは席を立ち、
「お前ら黙って食べろ!これから哨戒なのにゆっくりしてる場合か!」
堂に入った怒鳴り声に部屋は水を打ったように静まりかえる。
叱られた子供のようにまともに食事し始める隊員にハーベは笑い、更衣室に入っていった。
秋ももう終わりに近く、首元から侵入する空気は十分に冷たかった。
「18:00!第768部隊は第769部隊に哨戒任務を引き継ぐ!」
「引き継ぎ確認。——しっかり休んでくれ。」
「言われずともそのつもりだ。」
任務を引き継いだ第768部隊は急いで基地の中に走っていく。すぐに汗を流したいのだろう。
澄み渡った漆黒の夜空と赤茶けた荒野。大自然の中に潜む機械の冷徹は、冷えた空気に変わり隊員たちの目をこじ開ける。いくら死に近い環境でも、慣れてしまえば敵は睡魔である。
「通常通り二組に分かれ基地周辺の哨戒に当たる。基本的にはルートから外れないように。会敵の際は無線にてその旨を伝えること。以上。」
フィラルが注意事項を告げ、2つの小隊は満天の星空の下、逆の方向へ進み始める。
この時ばかりは私語は始まらない。五感の全てを研ぎ澄まし近付く敵を探す。襲い来る睡魔は冷気で遠のけ、単独で索敵に来る斥候型を撃破して、彼らは進む。
幸いにも近距離型には遭遇せず、平穏に基地前で再集合した部隊。すでに時刻は24:00近い。
「——っ!」
刺すような敵意を感じたフィラルがカービンを持ち上げ、射撃。
数少ない草の中に潜んでいたのは斥候型。
ただの斥候型だったことに安堵した隊員は交代に来た第770部隊の方へ走っていく。しかし、機械にあるまじき鋭利な敵意はフィラルの胸に刺さる棘となった。隊員たちを追いかけて歩くフィラルは夜の冷気とは違う冷たさに身を震わせた。
ゆっくりと執筆できるのは本当にいいことですね。
自分の想像の世界がしっかりとした基盤に結ばれていく感じです。
新作の方はもう少し書き溜めてから出そうと思います。
読者さんの趣向に合うかはわかりませんが、少し待っていただけたらと思います。