No.7 夜明け
長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
10月はしばらく大きなイベントもないので、ようやく執筆に集中できそうな気がします。
窓から朝日が覗く。8人が寝ても少しは余裕がある広さの作戦室だが、窓はたった一つしかない。周囲で爆発が起こった際に内部がダメージを受けないためだろう。
少し明るくなった室内でたった一人起き上がる者。そのまま隙間を縫って机に向かう。
静かな部屋に響くタイピングの音。だんだん部屋は明るく変わっていく。
起きるものがもう一人。
「‥相変わらず早いな。しっかり寝ないと死ぬぞ。」
大きなあくびをしながら、無声音で話す。
起き上がった者——フールも机へと移動する。
円形の机は部屋の中央に置かれている。おかげで一部の者は寝ている間に机に転がり込んで、起きた時に思いっきり頭を打つ。
今日はそんなアホはいないようだ。と机の下を確認するフール。
「哨戒が18〜24時で6時にはもう起きてるってことは、寝てて6時間だろ?普通はそれじゃ集中力が持たなかったりするだろ?」
相変わらず無声音で話すフールに、すでに起きていた者——フィラルも無声音で返す。
「俺はあまり寝なくても大丈夫な人間だからな。この部隊はロングスリーパーだらけだから目立つだけだろう。」
パソコンの画面から目も上げずに答えるが、フールの気に障った様子はない。
「——こんな朝から何やってるんだ?娯楽用とでパソコンは使えんし、かといって基地関係でやることもこの早朝にはないだろう。」
確かにフィラルは朝に強いが、普段は本を読んでいるだけでパソコンは滅多に使わない。フールの言う通り軍事関係の情報は朝には少ない。ロボットのエネルギーは太陽光で賄われているため、夜ならまだしも夜明け前あたりは基本的に奴らは動かない。
「第768部隊——レシオのところだな。そこが少し興味深いデータを見つけたらしいんだ。」
その興味深いデータとやらを発見したのか、フィラルはパソコンをフールに向ける。
「これは——。」
「なかなか面白いだろう。」
唖然とするフールにフィラルは説明していく。
「俺たちが入院してからかなり平和だったのは覚えているな?」
その言葉にフールの目が少し遠くを見るような目つきに変わる。
「ああ。退院したのが1週間前だったか。あの衛星に合ったのがその1ヶ月前だから今日までで結構経ってるな。」
その間のロボットの侵攻回数は10回にも満たない。しかもその全てが斥候型と万能型で構成された偵察部隊。
「それに参謀達は疑問を持ったらしくてな。第768部隊を長距離偵察に出した。」
その言葉にフィラルは苦笑する。参謀達とは言うが実質ラキ一人である。
「その時に未確認のロボットに遭遇したらしい。そこまで大きくないが異常に素早いのが特徴だな。そいつを捕縛して基地で精査してみたわけだ。」
フィラルは淡々と話していく。
「そいつの内部データはかなり破損してたらしいが、それを復元していくと行動のログが侵攻日時と完全に一致したらしい。つまり全ての戦闘を把握している。さらに特殊な発信アンテナもついてたらしい。」
その言葉にフールは問う。
「——そいつが指揮官機だと?」
フィラルは我が意を得たりとばかりに少し笑う。
「そうだ。さらに一部の痕跡が『BAI』のコードと合致した。——つまり『BAI』は戦闘時に直接指揮をとっている。ならば、裏さえ取れれば『BAI』の撃破は難しくないわけだ。」
少し面白いどころではない。『BAI』からすればこの情報は多分最高機密クラスである。なぜそんな情報がこうもたやすく手に入ったのだろうか?フールの脳内にはいくつもの疑問符が現れる。
「で、それが俺たちの入院中とどう繋がってくるんだ?」
そのうちの一つを選び、フィラルに投げかける。
「そこが未だに謎なんだ。しかし不可解にも指揮官機がこの間、戦力温存命令を出していたと言うことがわかっている。769部隊は一応全軍トップクラスの精鋭部隊を作る目的で作られてる。ならば、そこがいない内に攻めるのが普通だ。」
その問いは予想していたのだろう。フィラルは落ち着いて答えるが、言葉の端々に疑問が滲み出ている。
「——『BAI』の目的は俺たちってことか?」
「現在予想されうる答えの中で一番有力なのがそれだ。しかし、それにしても原因がわからない。」
フィラルが頬杖をついて返す。そのまま沈黙が部屋に満ちる。
だがそんな話をしている内に時間はかなり経っていたようだ。
「——二人ともおはよう。相変わらず仲良しね。」
起きた途端に二人を揶揄するハーベ。しかし、本人に悪気がないのだから怒れない。
「やっと起きたか。—じゃあ俺とハーベで朝飯作る。お前はここに居ろ。」
自分もとばかりにフィラルは腰を浮かすが、フィラルは料理下手である。手伝わせるわけにはいかない。
「あー、ちょっと野菜が少ないかなー。フール取ってきてよ。」
「自分で取ってくればいいだろうが。配給室は大して遠くない。」
「女の子を歩かせるとかフールはそれだからモテないのよ。」
「モテるもクソもないだろ。心まで女はいないからな。」
「ちょっ、それどう言う意味よ!」
楽しげに会話する二人の声に、他の隊員たちも目覚め始めた。
そんななんでもない時間に幸せを感じるのは、生と死の狭間にいるからだろうか。フィラルはぼんやりとすっかり明るくなった空を眺めた。
この空白の9月の間に息抜きとして違った物語を少しずつ書いておりました。
パソコンで書いて投稿できるような環境じゃなかったので、少しの休みにノートに書いていただけなのですが割といい感じになったので余裕がありそうなら投稿していきたいと思います。
ほうき星の道筋も休んでいる間に定まってきたのでこれからは大丈夫です。