第1話
10年前に母が行方不明になってからというもの、私には自由に遊んでる暇はなかった。
「せっかく女子高生になったのに…これじゃあ歳だけとっていくのと変わらないなぁ」
父は男手一つで私のことをここまで必死に育て上げてくれた。そんな父に遊びたいなどという我儘が言えるはずもなく、私は今までに友達とどこかへ出かけたりだとか、買い物したりだとか…そんな日常を体験することなく生きてきた。
「やっぱり、もっと割りのいいバイト見つけなきゃなー…」
少しでも父の力になれたらと思い、高校の入学式が終わってすぐにバイトを始めた。
レストランでのバイトはそこそこに忙しく、まかないも貰えて時給もかなり好条件なのだが、それでも、入学やら何やらの出費は当分取り戻せそうになかった。
「バイトの掛け持ちでもするかなー」
膨らみのない財布を机に放り出し、現実的な考えを巡らせてみるが、
「…流石にこのスケジュールじゃ無理か。」
カレンダーにびっしりと詰まった学校の行事に加え、明日から夏休みということもありバイトほぼ毎日朝から晩まで入れてある。
「10日間はなんとかして乗り越えなきゃ…」
あと10日で給料日だ。そこまで耐えればなんとかなる。
「よし!今日のタイムセールが勝負だ!頑張れあたし!」
自分に喝を入れて思いっきり伸びをすると、なんだか上手くいきそうな気がしてきた。
「何が何でも、あと10日間生き延びてやろうじゃない!」
薄い財布を机からひったくり、大きめのエコバッグを持ってスーパーへと走る。途中で制服のままだということに気がついたが、戻っている時間も惜しいので無視して走り続ける。
「あら?雪兎ちゃんどうしたのー?」
近所の西口さんの声に背中越しで答える。
「ちょっとスーパーまで買い物でーす!」
気をつけてね〜と言う声が聞こえた気がしたが、今はそれに答えてる暇はない。
右手の腕時計をチラリと見て…
「あと10分⁈やっば‼︎」
思いっきりの叫び声を上げてしまった。
走ってなかったら、とてつもなくいたたまれない気持ちになったことだろう。
足の回転数を上げ、タイムセール終了6分前にスーパーに到着した。
とにかく安い!が売りの商品達を片っ端からカゴに突っ込む。お金が足りるかどうかの計算をしながら何とか無事にレジまで辿り着いた。