雪女に恋した雪男
僕の彼女は雪女だ。
俺がキジを取りに行って雪山で遭難したとき、雪の中で埋もれている俺を助けてくれたのが彼女だった。
「何見てるの?」
「ん? 昔の写真。あの頃が懐かしくて」
後々話を聞いてみると、雪の中に倒れている俺を雪男だと勘違いしたのだという。
この平凡な体のどこを雪男と間違えたのかは不思議でならないが、俺を雪男だと思っていた彼女はあまりの寒さで凍死しかけている俺を自分の家にまで連れ帰った。
俺を布団に寝かせようとしたときにしてやっと俺が人間だということに気づいたが、1度助けようとした命。人間に両親を殺されて深い怨念を持ってるはずなのに、吹雪が収まって安全に人里まで下りられるようになるまで俺をその家に泊めてくれた。
「あぁ、この写真ね。あなたが私の家まで遊びに来てくれた時の」
あれから丸3日も経ってしまっただろうか。体がしっかりと温まり、すっかり元気を取り戻したころにはすでに彼女のことが好きになっていた。
雪女は暑いところが苦手なはずなのに、体が冷え切って凍傷になりかけていた俺のために部屋の温度を20度近くまで上げてくれた。
体力が回復して自分の足で立ち上がれるようになった後も雪女流の手料理を食べさせてくれ、なれない人間料理を作ってくれたりもした。
もしそこで誰かに見つかっていたら自分の身も危なかっただろうに、俺を村へと送り届けるために人里まで降りてきてくれた。
そんな彼女のどこを好きになったのだと聞かれても1つではまとめきれない。気づいたら俺は彼女に会うためだけに雪山を登るようになっていた。
最初は俺がいきなり訪れてきたので腰が抜けるほど驚いていたが、そんな生活が続いていくにつれ、気がついたら俺は毎日のように彼女の家へと通うようになっていた。
彼女が雪女だからなんてそんなことは関係ない。妖怪だろうが人間だろうが、彼女に対する気持ちは何一つ変わることはなかった。
「……後悔してる?」
だから俺は人間であることを辞めた。
確かに人間と雪女という関係でも一緒に生活することはできただろう。だが、それでもその先に進むことはどうしてもできなかった。
人間の体温に触れることができない雪女とは手もつなぐことができないし、キスもできない。子作りなんてもっての他だった。
俺は望んでしまったのだ。その先に見える、二人だけの未来を。
「まさか。むしろこの決断をした昔の俺を褒めてやりたいぐらいだ」
それがもう2年も前のことだろうか。
今ではすっかり雪男としての生活にも慣れており、二人だけの子供ができた。その子は男の子として産まれてきたので将来は立派な雪男になるのだろうが、お腹の中で今か今かと誕生を待ち構えているもう一人の子供はどっちになりたいのだろうか。
雪女として生きていくのか、雪男として生きていくのか。二人の将来を考えるだけでも楽しみで仕方がなかった。
「人間やめて雪男になってよかったよ。そうでもしないと君に触れることすらできなかったからね」
「もう、あなたったら」
そう言って、二人は熱い熱いキスを交わした。