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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『歓迎』

「「「ようこそお越しくださいました!」」」


 城の扉を潜ると、途端に歓迎の声がかけられた。


 通路の両横に並んだ、執事とメイドたちを見てリュウヤが気圧されておおっ、とやや後退る。


 ものの見事に全員に耳と尻尾がついていた。


「……盛大だな」

「うん……」


 てっきりすぐに〈竜人姫〉のところへ案内されると思っていた予想を容易く裏切り、シュヴァルツは城の一室へと俺たちを案内した。


 そこにはパーティーでも開くのかと訊きたくなるほど豪華な料理が待ち構えていた。


「どんな企みだ?」


 料理に飛び付こうとするイーニャの肩をがっしりと掴んで止め、微笑を浮かべるシュヴァルツに尋ねる。


 招待はされたが、歓迎されるとは怪しさを抱かない方がおかしいだろう。


「企みなどございません。王からの歓迎の宴を行うように命じられたのです」


 張り付いた微笑のせいで腹の内がまるでわからない。


 面倒な奴を案内役に選んでくれた、と肩を落としてゆっくりと息を吐いた。


 イーニャを始め、リュウヤも眼前に並べられた料理しかその瞳には映っていないようだ。よだれを垂らしかけてすぐにずずずと音を立ててすする。


「かの魔獣バルログナを倒され、進行してきた法儀国カイゼルボードの軍勢を退けた手腕を、王は大変お気に召されたご様子」


 やや困った顔を見せてから、微笑に戻ってから嬉しそうに語るシュヴァルツ。


 自分の娘の成長を喜ぶ父親のようだ。


 俺は率直な感想を抱いた。


「滅多にありませんよ。王が誰かを国に招待するなど……」


 だからもてなしを受けろと言いたげにチラチラと視線を向けてきやがる。


 出会ってから一時間と経っていないが、俺はこいつが苦手だ。


 仕方ない。料理を無駄にするわけにはいかないと自分に言い聞かせた。


「構わないぞ。本物だし、毒の類いも入っていないようだ」


 シュヴァルツが楽しげに語っている間に、魔法で調べておいたのだ。


 どうせ、俺たちの様子を何かしらの方法で観察しているのだろうし、今から緊迫していても疲れるだけだ。


 ならばお言葉に甘えて、ここで寛いで肩の力を抜くのも良い気分転換になる。

 俺はともかく、リュウヤとカグラがその主だった理由だ。


 人の悩みなど露知らず、料理を皿に盛り付けて遠慮など皆無だと言わんばかりに食べまくっていた。


「どうやら勇者様は気に入られたご様子で、シェフも喜びます。皆様もぜひ、旅の疲れを少しでも癒してください」


 なかなかに食えない奴だ。


 掴み所ない人物は、こいつのためにある言葉なのでは疑いたくなるほどだ。


 口にしている言葉の真意も判断がしずらい。


 こうして、手近な机を選らんで椅子に腰掛け、他の連中が来るまで待つことにした。


 満足そうな顔でまさかの俺たちの分まで料理を盛り付けるまでに成長したリュウヤに驚く。


「持ってきたぜ。ちょーうまいから食べてみろって」

「感謝する」


 城に入る直前までの緊張感は何処へやら、リュウヤとイーニャは楽しんでいた。


 もぐもぐと味見するかの如く口に含む。


「――美味しいな」


 さすがは城の料理人だ。程よい香辛料が料理の旨味をより良く引き出している。


「…………」


 アカネが自分の前に差し出された料理を前に、それをじっと見つめるだけで食べようとはしなかった。


「どうした?」

「……」


 じっと俺の目を見つめ返してくる。


「今日はこっちの気分か?」


 さすがに血を吸いたいのだなとは言えないので、首に指をとんとんと当てながら訊いた。


「……ん……」


 予想通りアカネはゆっくりとこくんと首を縦に振って肯定した。


 〈竜人姫〉との謁見が終わり、安全が確保できるような場所で吸血させるとしよう。予定にそう付け加える。


 食べている内に、色々と参考になるなと思い至ると、次なる味を求めて右往左往するリュウヤとイーニャに連れ添った。


 腹八分で済ませ、シュヴァルツの方を見やった。

 相変わらず微笑を張り付けていた。ここまで来ると不気味さすら感じる。


 たらふく食事を堪能したリュウヤはカグラに、イーニャはアカネに介抱されていた。

 食べ過ぎて項垂れる彼らの背中をそれぞれの相方が擦る。


 落ち着いた頃を見計らってシュヴァルツが声をかけてきた。


「堪能していただけましたか?」

「もうそりゃさいこーに」


 問いに一番に答えたのはやはりリュウヤだった。


 それから口々に美味しかった、また食べたいなどと感想を述べる。


 最後に俺の番が回ってきて、何故か視線が集中する。


「機会があれば、作り方を教わりたいと思えるほど、美味しかったよ」


 皆に習って見栄を張らずに素直な感想を伝えた。


 実際、美味しかったのだから文句を言えない。


「では、玉座の間へとご案内いたします」


 一礼してから満足感に浸る俺たちを導いた。


 そして、城の他のものと比べると質素と言うか地味な見た目の大きさだけが取り柄の扉の前で足を止めた。


「この先に我が国の国王陛下、そして獣王様がいらっしゃいます。これより先は私は入れないので、最後に忠告を一つだけお伝えします――」


 そこで言葉を切り、張り付いた微笑を崩してから続けた。


「決して粗相や無礼のないようにお気をつけください。あなた方のお命と、この城のために」


 ふたつめは明らかに俺たちには被害がないよなと確認する前に重苦しい音を上げながら扉が開いた。


「ご武運を」


 シュヴァルツは戦場に赴く背中にかけるであろう言葉を投げ掛けた。


 扉の先には、外からの城の見た目に反する広さの部屋だった。


 たしか空間魔法にこんなやつがあったな、と部屋の構造を思案する。


 その最奥には文字通りの玉座があり、鎮座する〈竜人姫〉の姿と、〈獣王〉と呼ばれる人物とおぼしき姿があった。


 玉座にしては不自然な広さの部屋に違和感を抱きながら、俺が先頭で待ち構えるふたりのもとへと歩いて進んだ。

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