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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『到着』

 〈エルファムル連合国〉に近付くにつれ、どんどん自然が豊かになっていった。


「富士の樹海もこんな感じなのかな」

「どうだろ……行ったことがないからわからないけど、たぶん似ていると思う」


 聞き慣れない名称染みた言葉を耳にして、俺は好奇心に従って尋ねてみた。が、頭痛がそれの邪魔をする。


「ぅっ……ふじのじゅかい、とは何なのだ?」


 頭痛のせいで抑えていたロロり度が上がる。


 何とか持ちこたえて今度こそ尋ねた。


「富士山って日本一高い山があってな。その山の麓に樹海があるんだ。富士山の麓の樹海だから、そのまんま富士の樹海って呼んでる」

「にほん、とはお前たちがいた場所のことか?」

「場所、と言うか国だな」

「争いのない平和な国――日本か」


 何処か懐かしい響きを噛み締めながら、俺は口元を両手で押さえた。


 アカネが俺の状態を察して、シグマに状況報告。馬車が一旦停止。俺、物陰に駆け込む。ロロ……れない。


 ごくん。


「森を汚すな、ね」


 草影に身を潜める動物たちの視線が鋭く刺さってきた。


「近いな」


 俺の予想通り、数分程度で目的地に到着した。


「――え? えええええええええ!!!」

「うるせえ!」

「だだだ、だってよぉ」


 霧が晴れたように突如として姿を現した〈エルファムル連合国〉に、驚きの声を周囲に響かせる少年の頭を小突く。


 かくいう俺も声を上げはしないが感嘆はしていた。


「凄え凄え凄え! 人に耳が付いてる、尻尾もあるじゃん。くぅーっ、テンション上がってきたー!」


 国の入り口で盛大に騒ぐ少年を、槍を携えた門番らしき奴らが訝しげな顔で見据える。


 リュウヤの気持ちはわからないでもない。


 耳や尻尾のついた〈獣人族〉が大半を占めているが、明らかに獣人とは言い難い容姿の者たちも見つけた。


 ニステア村の規模を拡大したような感じだな。


「貴様ら、なにも――」

「お待ちしておりました、ノルン様、とそのお供の方々」


 はしゃぐのを見かねて門番がずかずかと迫る前に、間に降りてきたのは銀髪の細目が印象的な青年だった。もちろん、人間ではなく〈獣人族〉のだがな。


「国王陛下より、あなた方を城まで案内するように仰せつかった、執事長のシュヴァルツと申します。以後、お見知りおきを」


 男ながら美しいとさえ思える所作で、自己紹介する執事服姿のシュヴァルツ。


 本当に見たまんまだな。


 所作だけではない。身のこなしも相当なものだと、足運びで判断できた。


「よろしく頼む」


 シュヴァルツの案内のもと、馬車を引いて通りを横断する俺たちは注目を浴びた。


「肩の力を抜け、カグラ」

「で、でも……」


 高揚して恥も知らずに周囲をキョロキョロと見渡す少年に相反して、少女は丸く縮こまっていた。


 酔いを回復魔法で誤魔化してから話しかけた。


「心配するな。いきなり襲ってはこないさ。万が一にも彼らが敵対行為を見せれば、容赦するつもりはないから安心しろ」

「ははは……」


 俺の半分冗談に苦笑を浮かべた。


 未知との遭遇だ。戸惑いや困惑が先んじてしまうのは無理ないだろう。


 リュウヤ(あいつ)がおかしいだけだ。無神経とでも言うべきだろうか。


「フフフ。気に入ってもらえたようで恐縮です」


 街並みは豪勢でもなければ貧乏などの極端ではない。まさしくその中間だった。


 中央に位置する城以外は目立たないようにしてある。


 これもこの国が掲げる“平等”の恩恵なのだろう。


「シェン、新しいお客人かい?」

「ええ。陛下が直々にお招きした方々です。粗相のないように気を付けてくださいよ」


 シュヴァルツをシェンの愛称で呼ぶのは片目に傷を刻んだ見るからに豪快そうな性格の男だった。


 それからも有名人の如し、シュヴァルツは行く先々で話しかけられて笑顔で対応していた。


 仮面をつける(・・・・・・・)のがお上手なようで。俺からすれば抑え込んでいる感情など手に取るようにわかる。

 どれだけ所作や立ち振舞いが美しくとも、相手に憎しみを抱いているのがだだ漏れだ。


 〈竜人姫〉の命令だから従っているが、それも渋々承知したに過ぎないのだろう。

 過去に人間との因縁があったと見える。


 まぁ、俺の知ったところではないがな。


「……ふむ」


 この短い時間で話しかけてきた連中の何人が、こいつの本性を知っているのだろうな。

 平等とやらの真相を垣間見た気がした。


 だからといって全てが偽りでないのも事実だ。


 心の底からの幸福を感じている者もいるし、何ならその数の方が圧倒的多数だ。


 あえて混ざらせることで、中和ないし程よいバランスを保っているのかもしれないな。


「馬車はこちらに」


 城に到着する直前にシュヴァルツは馬用の宿へと案内し、そこへ馬車を置くように指示した。


 逆らう要素もないので、俺たちは素直に従った。


「ご安心ください。確かに我々獣人の中には肉食の者もおりますが、客人の、ましてや陛下が招かれた方々の大切な馬を食べたりしませんよ」


 むぅと頬を膨らませるアカネに、シュヴァルツは子どもをあやすような態度で接した。


 慣れているな。


 俺は素直な感想を心の中で呟いた。


「やべえ……緊張してきた」

「やめてよ、私まで緊張しちゃうでしょ」


 〈勇者〉ふたりは相変わらず以心伝心で感情までも共有しているかのように仲良くガチガチに緊張していた。


 先程の元気は何処へやら……。


「堂々とすれば良い。俺たちは招かれた側だ。それこそ下手な粗相さえしなければ問題ない」

「だ、だよなー、あははー」


 問題しかないようだ。


「俺は妹と娘の世話をするから、勇者(ふたり)はお前に任せる」

「薄々察していた……仕方ない」


 嫌々ながらにため息と共に了承する。


 シグマにふたりに寄り添うように頼んだ。万が一が粗相をしでかしても、貴族に任せておけば安心だ。


 仮面のことを話題にされた時は、火傷で一貫するのを忘れないでいてくれよ。


 そんなことを考えながら俺たちは城の扉を潜った。

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