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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『小手調べ』

 結局、駄々をこねるのでご飯と説明を同時に行うことにした。


「もぐもぐ……ほへひはへ(小手調べ)?」


 もぐもぐと俺の料理を美味しそうに食べながら、リュウヤは疑問を口にする。


「食べるか話すかのどちらかにしろ、行儀が悪い」

「リュウヤってば昔からこうなの」

「ち、違えーし」


 幼い頃の醜態だったとカグラが暴露し、リュウヤが取り乱す。

 言い返す時には口の中のものは飲み込んでいた。そうでなければ拳骨ものだ。


「散々影から我々の動向を探っていたのだろう? 今更試す必要は感じられないのだが……」


 もっともな意見をシグマが述べながら訝しげな表情をする。


 はっきり言って同じ疑問を俺も抱いていた。


 連中が〈魔獣バルログナ〉騒動の辺り、俺に付きまとっているのは知っている。

 俺たちはあの一件以降も何度か戦闘を行っているが故、相手の思惑に辿り着けないでいた。


「かくいう俺も図りかねている。まぁ、あれほどの()を行使可能な奴がいるのなら、敵に回れば面倒なのは確かだ」


 うぅむと唸りながら自分の料理を頬張る。我ながら今日も上出来だ。


 長である〈ジェイナウルフ〉だけが本物で、それ以外の〈ヴァイウルフ〉らは全て実体のある幻だったのだ。


 俺ですら気付くのに時間を要したのだから、リュウヤらが見抜けないのも当然だ。


 どうやらアカネは〈十字葬天(ジャッジメント)〉の手応えで薄々勘づいていたらしい。


「連合国の情報は王国も掴めないでいた。私たちも含めてな」


 そう告げて料理を口に運んで満足そうに頷く。美味しいようで何よりだ。


「そう言えば、お前の部下たちはニステア村に置いたままで良いのか?」


 俺は、ふと思い出したように頭に浮かんだ疑問を尋ねた。


「…………」


 シグマは食べる手を止めて思案する。


 訊かない方が良かったか……?


「俺が気にすることでもなかったか。余計な問いだったな、忘れてくれ」


 話を終わらせようとすると、シグマはゆっくりと首を横に振った。


「いや、構わない。遅かれ早かれ考えなければならなかったことだ。むしろ思い出させてくれて感謝したいくらいだ」


 言うが先か手元の料理を平らげた。


「あの者たちにはいい休息になると思っている」

「んー、それはどうかな?」

「どういう意味だ?」


 俺が口を挟むとシグマは即座に訊き返した。


「俺が勝手に感じたことだが、部下たち(あいつら)はシグマと一緒にいたい、と思っているような気がするぞ」


 先日、〈魔界〉に戻るついで、様子見程度に軽く立ち寄っておいたのだ。


 コジュウロウタと近況報告をし合ったくらいの短い時間だった。

 そこで部下たちが、シグマの現状を知りたがっている、と聞かされていたのだ。


「しかし……私は王国を裏切った身だ。仲間たちにまで重荷を背負わせるわけにはいかない」


 シグマなりの優しさだった。


「お前の考えを否定はしないさ。だからこれは、一つの意見として留めるも聞き流すも自由だ」


 そこで一旦言葉を切って一呼吸。


「とある文献に残されていた一文だ。――人は独り(一人)では生きてはいけない。人と言う生き物は、孤ではなく郡でこそ真なる力を見出だせる……らしいぞ。他人にどうこう言えた義理ではないが、ようするに一人で勝手に決めない方が良いってことだ」


 シグマの目を真っ直ぐ見据えながら告げる。


「へぇ……、ノルンってばいいこと言うじゃんか」

「ばかっ、黙ってて」

「いてっ、叩くことないじゃないかー」


 張り詰めた空気をいとも簡単に打ち破る〈勇者〉ふたりを視線を向けてから、俺とシグマはお互いに顔を見合わせる。


「ぷっ――あははははっ」

「ハハハハハっ」


 そしてお互いに笑い合った。


 つられるようにリュウヤやカグラまでもが笑顔になる。


 俺は笑いながら思う――賑やかなのも悪くない、と。


「――とにかくだ。狼野郎の事もある。油断していたら寝首をかかれるかもしれないからな。全員、程よい緊張感を忘れないように」


 ひとしきり笑い合ってから、俺は全員の顔を見渡してからそう言った。


「連合国に到着するまでにまだあると思うか?」


 シグマがいつもの無駄に凛々しい表情で尋ねてきた。


 襲撃があるのかどうか、だ。


「正直に言うと……わからない。ただの人間なら予想は容易い――が、相手は竜と人との間に生まれた〈混血種(ハーフ)〉だ。こちらの常識が通用するとは考えにくい」

「同感だ。人間と魔族の戦争に介入していないことから、無駄な争いはしないのだと推察していた……」


 そこまで言ってシグマは口をつぐんだ。


 ――まさに同感だ。


「決めつけるのは早計だ。俺たちにとっては些細なことでも、とても重要な意味が込められていた可能性は否めないだろう?」


 言葉にしてから即座に自らの発言を否定したくなる。


 そんなことを言い出したらきりがない。


「なぁ、そんなに深く考えなきゃいけないのか?」


 能天気な問いかけをしてくる無垢な瞳を前にすると、考える自分が馬鹿げているとさえ思えてくるのだから不思議なものだ。


「この世界には人の形をしてはいるが〈人間族〉とは決して異なる“別の種族”が存在するのは知っているな?」

「うん」

「争っている訳でも、歪み合っている訳でもないが、決して仲が良いとは言い難い」

「どうしてさ?」


 変わらず純粋な眼差しを向けてくる少年。


 ――こいつを殴っても良いだろうか、と握りしめた拳を上げてシグマに目配せすると首を横に振られた。


「簡潔に説明するなら我々が〈人間族〉だからだ。これが一番の理由で差し支えない」


 もちろんこの一言で片付けて理解できる程、目の前のこの〈勇者(リュウヤ)〉が賢いとは思っていない。


 同時に丁寧に説明する気が失せたのは言うまでもないだろう。


 俺は教師には向いていないなと自己分析。


「細かい話はまた今度してやるよ。食べ終わった食器はそこに置いてくれ。俺が洗い物をするから、その間に出発の準備だ。さぁ、動いた動いた」


 急かされてリュウヤが器に残った料理を口に突っ込んだ。


 何処ぞの小動物を連想させる、両の頬を膨らませてもぐもぐとする仕草は、再び俺たちを笑わせてくれた。

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