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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『上位個体』

 突如として現れた白い大きな二足歩行の狼――〈ジェイナウルフ〉を前に固まるリュウヤ。


「どうする、リュウヤ」


 恐らく初めて見るであろう巨駆に戸惑いを隠せない。


 〈魔獣バルログナ〉の後だからか、俺は感動も驚愕も感じなかった。


「ヴオオオオ!!!」

「ウオォォォォン!」


 〈ジェイナウルフ〉の咆哮に共鳴して〈ヴァイウルフ〉も声を上げる。


「……なるほど」


 状況を分析して俺は唸った。


 本来は10や20匹程度の群れのはずが〈ジェイナウルフ〉が長として〈ヴァイウルフ〉を率いることで、個体の数が桁違いに増えていた。


 これは……100を優に越えている。

 後方からは増援の魔力も感じる。


 何者かの思惑の可能性が出てきた。


 現在のリュウヤとカグラの実力では、数で押し切られる未来は予想するまでもない。


「――だがな、お前たちは忘れている」


 俺とシグマは、リュウヤとカグラが窮地に陥らない限り加勢しない。


 そして、この戦闘においてシグマは訝しげな顔をちらつかせているが、少なくとも俺は加勢する気などないのだ。


「――」


 ふたりではない、彼らと共に戦うもう一人の少女の足下に魔法陣が描かれる。


 〈魔獣バルログナ〉の襲撃の時に、俺が一度だけ発動した魔法。


 直接教えた訳でも、誰かに指南をされたはずもない。何故ならあの魔法は俺が既存の魔法を改造した、いわばオリジナルの魔法だからだ。


 天賦の才、あるいは知らぬ間の努力の結晶。


 答えがどちらにせよ、俺が戦闘に参加しない一番の理由。


 それは――


「――マジかよ」

「――ハッ。リュウヤ、油断しないでっ! 〈ジェイナウルフ〉はまだ生きてる」


 アカネの存在である。


 無数に群れを成していた〈ヴァイウルフ〉どもが、光の十字架に変わる様を目の当たりにし、勇者のふたりは驚きを隠せない。


 何とかカグラが我に返り、声をかけることでリュウヤも自分を取り戻した。


 アカネによる〈十字葬天(ジャッジメント)〉によって散らばっていた〈ヴァイウルフ〉は一網打尽。残すは群れの長だった〈ジェイナウルフ〉を残すのみ。


「……んんっ……」


 群れを倒した功労者(アカネ)はその場に膝をつく。


 まったく無茶をしやがる。ただでさえ〈十字葬天(ジャッジメント)〉の反動が大きい上に、自分が〈吸血種(ヴァンパイア)〉の血を継いでいるのを忘れたわけではあるまいな……。


 自ら十字架に囲まれる環境を作るなど……まぁ、これでリュウヤとカグラが〈ジェイナウルフ〉に集中できるようになった。


 ここまでの無茶は想定外だったがな。


「よっしゃーっ、気合い入れていくぞ!!」

「うるさい、ニンゲン、だ。まず、オマエ、コロス!」


 鋭い爪の先端をリュウヤに向けながら宣言する。


 途切れ途切れだった。


 やはり知能があると言っても、人間の子ども程度だな。


「ヴオオオオ!!!」

「ハアァァァア!!!」


 一匹と一人の咆哮が耳に届いた頃には、両者の戦いは始まっていた。


 リュウヤの倍の身長から繰り出される攻撃は、一撃でもくらえば致命傷になりかねない。


 そこはリュウヤも理解しているようで、鋭い爪の連撃を剣で見事に捌いている。


「フッ、ハァッ!」

「リュウヤ!」

「おうよ!」


 カグラの掛け声にリュウヤが即座に反応して、サッと後ろへと飛び退く。


「〈ファイアーストーム〉」


 距離を取った獲物を追いかける二足歩行の狼(ジェイナウルフ)は、足下から大地を掻き分けて天空へと立ち上る炎の柱に包まれた。


「フハハハハッ。オレサマ、こんなホノオ、キカナイ!」


 言葉通り剛腕の一振りで炎を掻き消した。

 節々の体毛が焼け焦げている。ダメージは受けているのに、見栄を張って無傷だと胸を張る。


 しかし、そこで狼は彼らの真の目的を、猛禽じみた瞳に映した。


「そんなことは百も承知だぜっ。受けやがれ――〈光覇流刃剣〉!」


 輝く光を纏った剣が振り下ろされる瞬間だったのだ。


「――ニンゲン、に、まけ、タ……?」


 最期の言葉を残して、群れの長である〈ジェイナウルフ〉は光の剣に両断された。


「お前たちの敗因は、相手を甘く見たことに他ならない。油断すれば、強者とて弱者に敗北する世の中で、お前は一番やってはならないことをしたのだよ」


 真っ二つに両断されても、未だに意識があるしぶとい〈ジェイナウルフ〉に苦言を呈した。


「こいつらの中には時折、驚異的な生命力と再生能力を持った個体が現れると言う」

「ええっ、まだ生きてんの!?」

「さすがに勇者の光の魔力には、再生能力は効かないらしいがな」


 予想していた驚きの声を上げながらリュウヤが近寄ってきた。


 ちゃんと警戒しているようで、隙は……まぁ、なくなった方だ。


「教えておいただろうが。倒しても死んだか確認するまで気を抜くなと」

「あははは、そうだった。バッサリいったから、てっきり終わったかと……いてっ」


 軽く笑って済まそうとする少年の頭を軽く小突く。


「で、どうしてノルンが出てきたのさ」


 頭を擦りながら見守っていた俺が突然現れた理由を訊いてきた。


「こいつが〈竜人姫〉からの刺客だからだ」

「へー、なるほど、シカクねぇ――刺客!?」


 お前は街や都で芸をする旅芸人か、と尋ねたくなるようなリュウヤの反応は放っておこう。


「どうしてこの狼さんが〈竜人姫〉からの刺客なんですか?」


 リュウヤを筆頭にぞろぞろと旅のお供が寄ってきた。


「わかった。説明するから馬車に戻ろう。っと、その前に、癒せ――〈セラフィー〉」


 ふたつに分かれた〈ジェイナウルフ〉を一つに戻すべく回復魔法をかけてやる。


「お前は帰って主に事の顛末を報告するが良い」

「オマエ、イイヤツ。オレサマ、オマエ、カンシャする」

「礼ならお前の主に伝える際にこう付け加えろ。――俺のものに手を出す時は、死する覚悟を持て……とな」

「オレ、モノ、テダス……ワカッタ。シッカリ、ツタエル」


 いやいや、言えてないぞ。


 不安しか感じない二足歩行の狼の背中を、ため息まじりに見送った。


 プライドの塊である〈ジェイナウルフ〉がこうも素直に従うとは、どんな調教を施したのやら。


「ノルーン、お腹へったー」


 思案するのも束の間、気の抜けたリュウヤの声が浮かんでいた考えを吹き飛ばす。


「ご飯は説明が終わってからだ! 気を抜き過ぎだ馬鹿者!」


 今度は盛大に拳骨(げんこつ)をお見舞いした。


「いってえー!」


 少年の苦痛の叫びがこだまするのだった。

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