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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『成長』

 〈エルファムル連合国〉へと馬車を進めながら、俺はとある事実を実感していた。


「……増えたな」


 最初は俺とイーニャのふたりから始まったこの旅だったが、いつの間にやら6人にまで増えた。


 たった2ヶ月で何があったのやら……。


「ほんとに乗り物酔いするんだな……」


 顔面蒼白の俺に苦笑しながら呟くリュウヤ。


 いきなりロロると引かれると思ったため、事前に「俺はロロる」と宣言しておいた。


「俺とて、うぷっ……ごくん。自分にこんな弱点があるとは思っていなかったさ」

「リュウヤも小さい頃は苦手だったでしょ?」

「うっ、今それを言うかよ」


 カグラが幼馴染み特有の幼い頃の話を持ち出したことで、リュウヤは苦い顔を見せる。


「どうやって克服したのか、教えてやったらどうだ?」


 馬の手綱を握るシグマが、薄ら笑いを浮かべながら提案する。


 こいつ、俺のこのざまを笑っていやがる。


「うーん、教えるって言ってもなぁ。気付いたら平気になってからよくわかんないだよなぁ……」


 頭をぽりぽりと掻きながら、再び苦笑しながら答えた。


 やはり、慣れか、慣れなのか。


「――ん?」


 何やらこちらに近付いてくる気配がある。

 一つやふたつではないな。


「魔物が近付いている。リュウヤは左側面で敵を引き付けろ」

「おうよ」


 一足遅れて気配を感じたシグマは馬車を止めた。


「カグラは屋根の上で補助」

「はい」

「アカネは後方を頼む」

「ん」

「イーニャはノルンの傍で待機しろ」

「……」


 皆がシグマの的確な指示に返事する中、一人だけ無言で何も返さない奴がいた。


 のそのそと俺が振り返ると、気持ち良さそうに寝息を立てるイーニャの姿が。


「イーニャ、どうした――寝てるし!」


 うお、シグマのこんな顔は始めてみるな。

 驚きとか怒りとか他のもろもろを組み合わせた複雑な表情だ。


 イーニャが起きていたら、絵に残してもらいたいくらいの代物だぞこれは。


「コホン。各自、落ち着いて対応すれば大丈夫だ。無理だと思ったら下がっていい。死ぬより遥かにいい。だが、気合いは入れろ!」

「「おう(はい)!」」

「ん」


 咳払いで気を取り直し、リュウヤたちを鼓舞する。


 声の大きさを上げたのは、恐らくそれでイーニャが起きるかもしれないと思ったのもあるだろう。


 残念ながら、無駄に終わったようだがな。


 さすがはシグマ。見事にロロりそうな俺を外しやがった。

 方針はあくまでリュウヤとカグラに経験を積ませることだろうから、判断は間違ってはいない。


 逆を言えば、自由にやれの表れだ。


「ウオォォォォン!」

「さぁて、拝見はいけ――オロロロロロロ」


 黒い狼のような魔物――〈ヴァイウルフ〉だ。


 一個体の能力は大したことないが、こいつらは群れをなして行動する。つまりは、自然と対多数の戦闘を強いられる訳だ。


「ハァッ!」

「キャウン!」


 おやおやリュウヤの奴、魔物相手だからと言うのもあるかもしれないが、なかなか良い動きをするようになったな。


 次々と〈ヴァイウルフ〉を叩き斬る勇ましい少年を心の中で称賛する。


「うぅむ……」


 なるほど。


 俺は唸った。


 俺が顔を出す馬車の後部に、アカネを配置した理由が判明したからだ。

 俺がロロっても戦闘に集中できるようにとの、シグマなりの配慮だった。


「〈ファイアーボール〉〈アーススピア〉」


 横目で戦況を捉えながら俺は思案する。


 確かにアカネは、俺のロロる様など見慣れているだろうから当然の選択だ。もしシグマの立場なら、同じようにする可能性は高い。


 しかし、しかしだ。これはこれで何か悔しいぞ。


「ぬぬぬ……」


 この鬱憤をあの狼共で晴らしてやりたいが、それではリュウヤたちに申し訳が立たない。


 手助けならまだしも、自分の癇癪によって邪魔するなど愚かに等しいからだ。


「……うむ」


 俺がロロりそうになりながらも一人で葛藤している間にも、見事な立ち回りで〈ヴァイウルフ〉の数を減らしていった。


 グリム先生に教わった魔物の性質を、今度は俺が教える側になるとは思わなかった。


「気付いているか?」

「もちろんだ。……だが、アカネはともかく、リュウヤとカグラはまだだ」


 シグマに語りかけると、予想通りの返答だった。


 一応教えておいたはずなのだが、その場その場に集中しすぎて”先“が見据えられていないのは欠点だな。


 〈ヴァイウルフ〉は基本馬鹿だ。数を射てば当たるの精神で向かってくる。


 戦略などお構いなしの連中だ。


 しかし、今の戦っている〈ヴァイウルフ〉の動きはどうか?


 明らかに策がある動きではないか。そこに気付けないようでは――


「リュウヤ!」

「ああ、わかってる。なんかこいつらの動きがおかしいってことだろ?」


 思わず笑みがこぼれる。


 及第点と言ったところだな。


 馬鹿なはずの奴らが、作戦を立てて動いているように見える。それ即ち――率いる“長”がいる。


「ヴオオオオオオオオ!!!」


 少年たちが真実に気付くのを見計らっていたように、一際大きな遠吠えが周囲に響き渡った。


「本命の登場だな」


 狼型の魔物の上位個体――〈ジェイナウルフ〉だ。

 毛並みは黒とは反転して白くなり、上位だからなのか二足歩行が可能で、個体によっては会話も行える程の知能が備わっている。


 かといって、警戒する程の脅威ではない。


 中級の冒険者が10人もいれば倒せるくらいの弱さだ。


 ここからがリュウヤたちの正念場だな。


 俺はニヤリと口角を上げた。

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