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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『連合国へ』

 〈エルファムル連合国〉の国王から国へ招待すると言う手紙が届いた。


 配下や(しもべ)を使わずに、情報屋のシェナに手紙を手渡すように指示するとはどういう了見なのだろうか。


 警戒、はまたま試すつもりなのか。どちらにせよ、行ってみればわかると言うもの。


 俺自身もいずれは行かねばと思っていたから丁度良いお誘いだ。


「とまぁ、事情は説明した通りだ」


 シグマ、リュウヤ、カグラを部屋に招き、事の経緯(いきさつ)を説明した。


 何やら複雑な表情をしている。


「貴様、いつの間に〈竜人姫〉と知り合ったんだ?」


 シグマが怪しむように訝しげな眼差しを俺に向けてきた。


「待て待て、誤解だ。俺は〈竜人姫〉とは話したこともなければ、会ったことすらない。影で俺たちの様子を探っているのは知ってはいたがな」

「ええっ、そうなの!?」


 リュウヤが騒がしく驚く。


 完全とは言い難いが、どうやら迷いは晴れていっているようだ。

 暗かった顔つきが幾分かましになった。


 バッカスに感謝しなくてはならないな。


「……で、その〈竜人姫〉ってのは誰なんだ?」


 リュウヤ以外の全員が“ズッコケ”た。


 な、なるほど……。これがズッコケか。


 感心している場合ではないな、仕方ないからこの俺が直々に説明してやろう。


「国がいくつもあるのは知っているな?」

「うん」


 ふんと鼻を鳴らし、いざ開始される俺の講座タイムは、見事にシグマに取られてしまった。口を開こうとしたら先に始められた。


「数多く存在する国の中でも“平等主義”で有名なのが話に出てきた〈エルファムル連合国〉だ」

「平等?」


 リュウヤが首を傾げて言葉を繰り返す。


「〈人間族〉が他種族を見下すように、他種族間でも偏見や差別がある。それを毛嫌いする者たちが集まって出来た国とされているんだ」

「それじゃあさ、なんで王様(・・)なんかがいるんだよ。平等ならいらないだろ」

「…………」


 あのリュウヤのまともで理に適った意見に、シグマにつられて俺までも呆けた顔をしてしまう。


「たしか、集まったみんなが平等なのはいいけど、代表は必要だからって理由だったはず……」


 イーニャが不安を抱きつつ説明した。


 自分に熱があって、幻でも見ているのではないかと疑いたくなる。


「代表として選ばれたのが後に〈竜人姫〉と呼ばれる人物だった訳だ」


 心の安寧を保つためにイーニャの説明に率先して付け加えた。


「本人は拒んだらしいが、どうしてもと押しきられてしまったらしい」

「〈竜人姫〉って人はすげえ慕われてるんだな」


 リュウヤの何気ない称賛を聞いて、俺は自然と視線を逸らした。


 以前に聞いたグリムの話を思い出したのだ。


 ――〈エルファムル連合国〉は種族の隔たりがない珍しい国。

 だからこそ他のどの国に比べても団結力が違う。

 団結力があるのは良いことだ。


 絆主義とは言わないが、仲間との連携が戦況を左右する場合もある。


 しかしわからないのは、そんな団結力の国に俺が招待された理由だ。

 受け入れはするが、勧誘はしないはず……。


 何故なら俺は、魔王なのだから。


「何せ、竜と人の〈混血種(ハーフ)〉だからな」

「竜!? ここは竜もいるのかよ!」


 驚きと言うか嬉しそうに興奮するリュウヤ。


 この様子だと、こいつがいた世界には竜はいなかった……いや、名前を知っているから過去の遺物のようなものになっているのだろう。


「滅多に姿は現さないが、間違いなく存在している」

「よっしゃー! なんかやる気出てきたー!!」

「はしゃぎすぎ……。でも私も見てみたいかも」


 おやおや、カグラまでもが興味津々とは、余程貴重な存在らしいな。


 かくいう俺も会ってみたいと思っているのは内緒だ。


「けどよ、竜と人のハーフって、どんな姿をしてるんだ?」


 明日、天変地異でも起きるのではないかと心配になる。


 何故なら普段は馬鹿でしかない、馬鹿の具現化のリュウヤが鋭い指摘ばかりするのだ。不安を抱くのは当然だろう。


「そう焦らなくてもすぐにわかる。と言いつつ急ぎ足になるが、明後日の朝に出発する。各自、旅の準備をしておけ」


 なんだかんだ言って俺はこの水の都の景色が気に入っていた。


 名残惜しいと言う気持ちが本音だ。


 また一つ目的ができた。

 この景色を再び見るのだと。


 そのために俺は――。


「……うぅむ」

「どうしたの兄様」


 懸念すべきことがあった。


「いやなに。王国の連中は〈勇者〉ふたりを監視している。今回のエルファムルへの訪問でどう動くかと思ってな」


 リュウヤとカグラと出会ってから騒がしい日常ではあったが、それらはあくまで〈アインノドゥス王国〉領内で起きた出来事だ。


 しかし、俺たちがこれから向かうのは〈エルファムル連合国〉だ。


 つまりは王国領内を出る。


 それをこの国は許すのか――。


「変に手出ししてきた場合の対処を、今の内に考えておくべきだと思ってな」

「ふたりを守るんでしょ?」


 直球の問いだった。


「もちろんだ。〈魔王〉と戦う使命を果たすまで、彼らを死なせる訳がない。それに――」

「俺はふたりを気に入っているから、だね」


 イーニャが俺の言葉を奪った。


 ほんと、不吉の前触れでなければ良いのだが……。


 ――備えあれば憂いなし。


 俺の記憶にある言葉に倣うなら、あらかじめ準備をしておくのは無駄にはならないだろう。


 種族の隔たりがない国。

 コジュウロウタのニステア村を大きくしたような国だと俺は想像している。


「ふっ」


 俺は自分の気持ちに気付いて口角を上げた。


「リュウヤやカグラではないが、どんな国なのか楽しみだ」

「兄様……少し変わった?」


 突然変な問いを投げ掛けてきたイーニャに、呆気に取られる俺である。


「変わった……どんな風に?」


 予想外だったから、ありきたりな内容で訊き返した。


「明るくなった、ような気がする」

「おいおい、もとの俺は根暗だったと?」

「うーん、そうかも」

「……なるほど」


 直球の返答に、心が斬られたような気分になる。


 別に落ち込んでいる訳ではない。少々驚いて、意気消沈しているだけだ。


「大丈夫。私はどっちの兄様も好きだから」

「――は?」


 ふたりの間に数秒の沈黙が流れる。


 その間にもイーニャの顔はみるみる赤くなっていった。


「ちちちっ、違うのっ。そうじゃなくて、なんと言うか、その、ああああれだよっ、あれっ」

「どれだよ……」


 ふと口をついて出た言葉(好き)に、慌てふためくイーニャを見るのは面白い。


「明るくなった、か……。そうだとすれば、お前たちのおかげだな」


 助け船を出してやろうと、感謝を伝えながら頭を撫でた。


「ぁぅ……」


 途端に静かになるイーニャに、俺は再び笑ってしまう。


 だが俺は忘れていない。

 イーニャの心臓に埋め込まれた魔法を。


 ――未だに発動条件と発動する魔法効果しか解析できていない。


 まぁ、今ので発動しなかったのは驚きだ。やはり“はっきりした裏切り”でなければならないのだろう。


 こいつの気持ちに応える訳ではないが、放っておくつもりもない。


 案内人を引き受けてくれたのだ、しっかりと恩を返さねば天罰が下ると言うもの。


 ――必ずイーニャ(お前)を自由にしてやる。


 本人の頭を撫でながら、俺は密かに誓うのだった。

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