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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『手紙』

 部屋を出て城の外に顔を出すと、相変わらず暗雲に満ちた空が俺を迎えた。


「そんなに時間は経っていないはずなんだがな……」


 太陽の光が届かないこの暗い空が、とても懐かしく思えた。


 ふと、脳裏にリルの死が過る。

 

「――ひゃっ!」

「驚かせたか、すまぬ」


 気付いたら〈転移法(テイル)〉でリルが死んだ場所に来ていた。


 突然現れた俺に、偶然近くを通りかかっていたメイドが軽く悲鳴を上げて倒れかけるも、その前に何とか支えた。


「怪我は……ないようだな」


 無事なのを確認してから、俺はとある場所へと足を進めた。


 ――壁の隅にちょこんと花が備えてあった。


 あの花には見覚えがある。


「――最初、グリムが俺をここに連れて来た時、謎の場所でしかなかったよな」


 結界が張り巡らされた扉を前に、目を閉じて2ヶ月前の光景を思い出す。


 深呼吸で気分を切り替えて扉を開けた。


「――ようっ、久しぶりだな!」


 時間が停止したように子どもたちは動きを止め、俺に視線を集中させた。


「…………」


 自然が溢れる部屋を、川のせせらぎと鳥の囀りが支配する。


 おや?

 想像していた反応と随分と違うな。


 それは、俺が苦笑を浮かべた瞬間だった。


「レグユス!」

「おかえりー、レグルス!」

「レグ兄。おかえり」

「ただいま」


 はしゃぎながら駆け寄ってくる子どもたちの相手をしながら、微笑むネイレンに言葉を返す。


「帰ってくるのってまだ先じゃなかったっけ?」

「ネイレンまでそれを言うか……」


 出会った皆に言われてしまうと、さすがの俺でも落ち込むぞ。


「ぼやきはさておき、皆元気そうで何よりだ。稽古はちゃんとしているか?」


 リルの一件が起きたこともあり、グリムに頼んで子どもたちに稽古するようにしていたのだ。


「うーん、好調とは言えないかな」


 気まずそうに視線を逸らすネイレン。


「構わんさ。強制ではなく、あくまでお願いだ。お前たちには平和な世界で過ごしてほしいからな」

「レグユスー、あそぼー」

「おお、良いぞ。何して遊ぼうか?」

「レグ兄、まさか体力落ちてないよね?」


 疑いを込めた視線を俺に向け、ネイレンは確かめるように尋ねてきた。


「当たり前だ。なんと言ったって俺は〈魔獣バルログナ〉を倒した男だからな」


 口角を上げてしたり顔を見せてやる。


「まずうばゆろぐな?」

「とても強い奴だったが、俺にかかれば余裕さ」


 結局遊ぶより、旅での出来事を話すことに時間を費やし、子どもたちは寝る時間となった。


 やはり、通常より桁違いの広さを持つこの部屋でも、子どもたちにとっては狭いのだろう。故に外の世界のことが気になる訳だ。


 何だかんだで〈魔界〉に帰って来てから一番長く過ごしたことになる。


「――レグ兄、もう行くの?」

「旅のお供を待たせているからな」


 悲しげな表情を見せ、顔を伏せる少年の頭に手を乗せる。


「心配するな。俺が帰る場所(・・・・)はここだ。必ず帰ってくるから安心しろ」

「言うと思った。……うん、みんなで待ってるよ。約束」

「約束だ」


 彼らが部屋の外でも暮らせるような、生きていけるような世界にしなければならない。

 俺は黒い空を仰ぎながら誓うのだった。




 ◆◆◆




 俺は自室に転移した途端、何者かに押し倒された。


「……アカネかと思ったらお前か、イーニャ」


 俺に乗っかる人影に話しかける。


「いつからこんな野性動物みたいな習性を手に入れたんだ?」

「…………遅い」


 人の胸に顔を埋めながら呟く。


「ん」


 同意するぞと言わんばかりの顔でアカネも頷いた。


「色々あってな……その、悪かったよ」


 今日の俺は謝罪ばかりだな。


 世界征服したら〈謝罪の日〉として記念日にしてやろうか。


 ――コンコン。


 冗談で気を紛らわす俺の頭上で扉がノックされた。


「イーニャ、人が来たから降りてくれないか?」

「や」

「や、ではない。これでは扉が開けられない」

「開けなくていい」


 子どもか、と言いたくなるがぐっと飲み込む。


「今日は一緒に寝るから勘弁してくれ」

「わかった」


 早っ。


 あまりにもあっさりしすぎて拍子抜けする俺を尻目に、さっさと立ち上がるイーニャ。


 俺も立ち上がり、身だしなみを整えてから扉を開けた。

 誰かは魔力でわかっていたからだ。


「待たせたな」

「おジャマだった?」

「シェナを邪険にはしないさ――たぶん」


 ニヤニヤと俺の後ろにいるイーニャとアカネに視線を向けながら訊いてくる。


 こいつはこういう性格なのだ。


「たぶんってどういうことー」


 先程とはうってかわってムッとした顔になる。


 前から思っていたが、やはりこいつは顔が賑やかな奴だ。


「そんなことより用があってわざわざ来たのだろ」

「そんなこととはヒドイなー。傷ついちゃうかもー」


 いつもより面倒な奴になっていやがるぞ。


 こうなった理由はだいたい予想はついている。


「用件を言え」

「いやだー」


 何故俺の周りはこうも精神的に幼い連中ばかりなのか疑問を抱いてしまう。


「言わないのなら、じゃ、またな」


 別れの言葉を投げてから扉を閉めようとすると、両手で阻んできた。


 女の子とは思えないほど強い力だったのに俺は素直に驚いた。


 俺より細い手足の何処からこんな力が出てくるのやら。


何処だ(・・・)?」

「……やっぱり凄いな。アナタに隠し事はできなそうね」


 スッと一通の封筒を差し出した。


「シェナから俺への恋文か?」

「違う。断じて違う。ラブレターは嬉しいけど、アタシは直接派だから」


 頬を赤く染めるシェナに安堵の息をつく。


 イーニャもそうだが、相変わらず面白い奴だ。


 俺は手紙の中身を読んで、思わず頭をかいた。


『――これを読んでいると言うことはノルン、いや、レグルス(・・・・)。是非とも話がしたいと考えている。エルファムル連合国の我が城まで来られよ、歓迎する』


「エルファムル連合国国王、メルリツィア・エンデュミオン・エルファムルより……はぁ」


 予想より早いお誘いにため息をこぼす。


 俺の偽名ではない方の名前が記されている。

 シェナが情報を明かしていないとなると、やはりなかなかの強者がいるようだ。


「届けてくれて感謝する」

「あれ、てっきりホンモノかどうか疑うかと思ってたのに信じるんだ」


 シェナよ、拍子抜けだと顔に書いてあるぞ。


「お前が無意味な行いはしないと信じているからな」

「照れるなー」

「それに――」


 読み終えた手紙を透明な魔力の球体の中に入れる。


 何をしているのかと訊いたげにキョトンとした表情をする少女3人組。


「わっ」


 彼女たちが油断しきったその時、ボンッと球体の中の手紙が爆発して数秒だけその場に文字が残った。


「――逆らわないことをおすすめするよ、か」


 面白そうだ。

 噂の〈竜人姫〉からの直々のお誘い。


 せっかくだから乗ってやろうではないか。


 俺は返事の手紙を用意してシェナに渡した。


「情報屋ついでに配達もするようになったらしいからな」

「ヒドイ皮肉だー」


 文句を言いながらも手紙をちゃんとしまうのだから撫でたくなる。


「ではな、頼んだ」

「任せて」


 そう言ってシェナは笑顔で立ち去った。

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