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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『四天』

 相手が槍を浮かすなら、こちらも剣を浮かすとしよう。


 柄から手を離して先端をアルトの方へと向け、黄緑の光の中心に位置するように飛ばした。


 剣は光を掻き分けてただ真っ直ぐに前方へと進む。


「バカなッ、ありえない!」


 アルトからも光が想定していない方向に曲がっているのが見えるらしく、驚嘆する声が俺まで届いた。


 剣が槍に到達する前に閃光を止める。

 突進してきた剣を、アルトは槍で叩き落とした。


 しかし、剣が横たわる前に地面から岩を尖らせ柄に当てる。反動で浮いた剣を、間合いを詰めていた俺がナイスキャッチして切っ先をアルトの首もとに突きつけた。


「そこまで!」


 バルムの決闘終了の合図が響き渡る。


「勝者――レグルス陛下」


 俺の勝利宣言が成されると、バルムの部下たちは口々に「凄い」だの「本当に強い」だのと言い評価を改めたようだ。


「私が……負けた」

「結果を焦り過ぎだな。槍の数で相手を翻弄、圧倒し、体力が削れた辺りで使用すれば良いものを……。能力自体は悪くないから、使い方次第で更に強くなる」


 嘘偽りのない評価だった。


「ありがとうございました。ですが、次は私が勝ちます」

「楽しみにしている。勝ちを譲る気はないがな」


 手を差し出すと、一瞬だけ驚いてからちゃんと俺の手を取ってくれた。握手である。


 お礼と共に頭を下げられ次の約束をすることで、俺とアルトの決闘は一先ず終わりを告げた。


「楽しまれたようで、何よりです」


 バルムが微笑みながら歩み寄ってきた。

 相変わらず隙のない足運びだ。


「ああ、楽しかった。さっきも言ったが、焦りさえなければ危なかった」

「ご謙遜を」


 さすがにバルムには隠せないよな。


 我が師匠の言う通り、剣だけ(・・・)で相手をするならの話だ。


 今回の決闘で、俺はほとんど魔法を使っていない。


 魔法を本格的に使用していたら、更に早く決着はついていただろう。


 ……と思いつつ、アルトも口では“本気”と言っていたが、奥の手があるのは察している。


「そうとは限らんよ。少なくとも、俺もうかうかしていられない、と考えを改めさせられたのは事実さ」

「初心を忘れないのは大切なことです。して、私との手合わせはいかがいたしますか?」


 俺はハッとなった。


 言われてみればそうだ。


 アルトとの決闘が楽しかったから忘れるところだった。


「その前に聞いておきたいことがある」

「何なりとお申し付け下さい」

「〈四天影心流〉と言う流派を知っているか?」


 その名を口にした時、明らかにバルムの表情が一変した。


「……存じております。遥か古より伝わる、いわば伝説とも称される流派です」

「伝説……。詳しく教えてくれ」


 バルムは〈四天影心流〉について知っていることをレグルスに話した。


四天(・・)、それ即ち四つの天――四つの世界を表します。人間界、魔界、天界、そして――冥界。その全ての世界(四つの天)を制覇するために編み出された流派こそが、〈四天影心流〉なのです」


 いつにも増して真剣な表情で話すから、俺だけではなく周りの部下たちも自然と耳を傾けていた。


「一つの技をとっても、使う武器によって内容が異なる杞憂で、あらゆる戦況に応じれる流派とされます。ですが、使いこなすのはほぼ不可能と言われ、流派の技も、今や何処の誰が使えるかどうかすら不明とされています」


 残念そうに瞼を閉じてそう締め括った。


 バルムの言葉を借りるなら、そんな伝説の流派を俺が知っていたのだから驚くのも当然だ。


 この我が師匠でさえ、逸話を聞いたことがある程度で文献などには残されていないのだから。


「しかし……いったい何処で〈四天影心流〉をご存知になられたのですか?」


 あのバルムがいつもの微笑みではなく真剣な表情を見せるものだから、俺までもが変に緊張してしまう。


「何処でと言われてもな……」


 “何処で”かは俺自身もわからない。


 “身体が勝手に使い、その名前を知っている”が俺の中での認識だからだ。


 強いて言えば、失った記憶の中にあるのだろうから、記憶喪失以前の俺が使っていたのではと考えるべきか。


「俺もよく分からないと言うのが本音だ。突然使えるようになった……いや、まだ辛うじて使えるかもしれない程度だが」

「なるほど。左様でしたか」


 考え込む素振りを見せるバルム。


 何となくこの後の展開が予想できる。


「陛下」

「なんだ?」

「私と、手合わせを願えますかな?」


 やはりな、そう来るよな。


 予想通り過ぎて嬉しくなりそうだ。


 ついつい口角が上がりそうになる。


「もとよりそのために戻ってきたと言っても過言ではない」


 半分はフレンやグリムへの報告と相談だったが、残りの半分は〈四天影心流〉を試すために帰ってきたのだ。


 細かく分ければ、そりゃあ子どもたちのことやフィーネのことなどがあるが今は置いておこう。


「アルト、立ち会いを頼む」

「御意」


 これから行うのは、互いの命運をかけた決闘ではない。


 稽古試合と同じ、己の実力を見定めるための単なる手合わせに過ぎない。


 頭ではそう理解しているのに、バルムと対峙すると自然と身も心も引き締まる。


 互いに十分な間合いを取る。


「陛下、存分に技をお試しください。この不肖バルムがしかと見定めましょうぞ」

「よろしく頼む」


 俺の手にはアルトの時に使った稽古用の剣はない。


 代わりにバンガスお手製の刀が握られている。


「良い剣ですな」


 刀身をまだ見せていないと言うのに、さすがの慧眼と言わざるを得まい。


「旅の間に、腕の立つ名工と会ってな。頼み込んで作ってもらった逸品だ」

「羨ましいですな。私も作っていただけますかな」


 いつもの微笑みを浮かべて尋ねてきた。


「ああ、もちろんだ。バルムのために武器を作れるなら、鍛治屋冥利に尽きるだろうよ」

「ありがたきお言葉。素直に喜びましょうぞ」


 老いた人特有の優しい笑い声を聞かせるバルム。


 本当に、いつ何時も隙を見せない。


「よろしいでしょうか?」


 アルトがタイミングを見失い、始めて良いかと許可を求めた。


「おっと悪いな。いつでも構わない」

「私も構いません」


 俺とバルムの了承を得て、アルトは安心したように軽く息を吐いた。


 俺としたことが、変に緊張させてしまったらしい。


「では……いざ尋常に――」


 居合いの構えをする俺に対し、剣を抜かずに佇むバルム。


 まず俺がやるべきは、バルムに剣を抜かせることだ。


 それは決して俺を侮辱しているからではない。

 逆に認めているからこそ初めから抜かないのだ。


 バルムの腰に携えてある剣はただの剣ではなく魔界の秘宝――〈神怒の剣(魔剣グラム)〉だ。


 稽古用の剣でも、普段使い用の剣ですらない。


 バルムが本気を出す時のみ使う剣である。


「ふぅ……」


 期待してくれているようだ。

 同時に〈四天影心流〉がどれほど警戒すべきものなのかも教えてくれる。


 俺としては、魔剣を相手にして刀が保つかどうかが心配だ。などと、バンガスに言ったら怒られるな。


 さぁ、見せてやろうではないか。


 伝説の流派――〈四天影心流〉を!

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