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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『有能』

「バルム」

「これは陛下、お戻りになったのですね、おかえりなさい」


 部下の稽古中にも関わらず、バルムは快く迎え入れてくれた。


 優しい微笑みを浮かべる目の前の人物が、あのギルシアと同じ〈剣聖〉だとは信じ難いな。


「すまない、邪魔したな」

「いえいえ、お気になさらず。我らは陛下のために存在していると言っても過言ではありません。遠慮はいりませんよ」


 バルムは部下たちを一度チラリと見てから、俺に視線を戻し苦笑した。


 なるほど、下手な遠慮は却って逆効果になる訳か。他でもないバルムの忠告だ、しっかりと覚えておこう。


「では遠慮せずに――バルムに頼みがある」

「何なりとお申し付け下さい」


 俺の頼みを聞くべく、バルムがその場に跪く。


 すると、周りにいる部下たちが眼を見開いて明らかな驚きを見せた。


「試したい技があってな。手合わせの相手をしてほしいんだ」

「左様で。喜んでお相手を務めましょう」


 顔を上げて同意するバルムに苦笑いを返した。


「――そう考えていたが予定変更だ」


 〈魔族〉は純粋な強さを求める。


 こいつらが俺に向ける視線に込められた感情は用意に想像がつく。


 だから予定を変更するのだ。


「この中で一番強い奴は誰だ?」

「そう言うことでしたら、彼――アリーヴァル・ケイドスフォールズ、アルトがお相手に相応しいかと」


 俺の意図をすぐに理解したバルムは、一人の魔族の名を告げた。


 すると、部下たちの中から自分だと主張するように一人が躍り出た。


 薄い黄金色の短い髪の青い瞳の、少々細身の青年だった。


 単純な見た目の印象なら有能な奴なのだろうが、俺には()が見えるからな。


 残念ながら胸の内に秘める思いまで丸見えだ。


「陛下にお目にかかれて光栄でございま――」

「建前は良い。お前の心は手に取るようにわかる」


 名乗りも聞かずに話を遮った。


 俺のことを良く思っていないのは表情や仕草から沸々と伝わってくる。


 良くも悪くも典型的な〈魔族〉の考えを持っているらしい。


「俺を〈魔王〉と認めていないのだろう。〈人間族〉風情が何を出しゃばっているのか、と」

「いえっ、そのようなことは決して」


 一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに持ち直し首を振って否定した。


「他の者も俺が何故〈魔王〉になったかを知りたいはずだ。教えてやろう。なぁに、難しい話ではない。俺がお前らより――強い(・・)からだ」


 おやおや、殺気が漏れているぞ。


 〈人間族〉を弱小種族と見下す〈魔族〉らしい反応で安心した。


 その無駄にも等しい種族の優劣の決めつけを、ここで俺が直々に壊せると言うもの。


「バルムが選んだアルト(お前)には特別に機会を与える。今から行うのは手合わせではなく、“決闘”だ。俺が負けたら、お前に〈魔王〉の座を譲ろう」


 念のためバルムの様子を伺うと、言うと思っていましたと苦笑を浮かべていた。


「私が……本気、ですか?」

「俺は嘘が苦手なのだよ」


 顔つきが変わった。


 人間に勝てば栄光ある〈魔王〉になれるのだ。やる気が出て当然だ、と言うよりやる気になってもらわなくては困る。


 全力を出した相手を叩き潰してこそ、俺の実力が証明されるからな。


 もちろん、俺は全力を出すつもりはないとも。あっさりと決着がついてはつまらない。


「受けるか、否か」

「――受けます」


 ほぼ即答だった。


 俺はそれを聞き、俺はバルムの部下にメイド長――マグリスを連れてくるように命じた。


 忙しいの承知の上だ。かといって、治療に関しては俺の回復魔法に匹敵するほどの人物だからな。

 この後の展開を考えると、いてもらわなくてはな。


 未来ある若者の芽を摘むのは忍びない。


「――陛下、おかえりなさいませ」

「ただいま、と言っても用事が済んだらまたすぐに出るけどな」


 マグリスとの再会の挨拶をしてから、バルム立ち会いの下、俺とアルトの決闘が始まろうとしていた。


「本気で来い、アルト。何なら俺を殺しても構わないぞ」

「恐れ多い……と言いたいところですが、またとないチャンスを逃す方が恐ろしいので、お言葉に甘えさせてもらいます」


 薄ら笑いを浮かべるアルト。


 勝利を確信しているのは馬鹿でもわかる。


 それとは別に、純粋に戦いが楽しみなのも含まれているのだろう。


「両者構え、いざ尋常に――」


 バルムならいざ知らず、こいつ相手にバンガスお手製の〈黒シリーズ〉を使うのは気が引ける。


 なので俺は訓練用の並の強度しかない剣を手にしている。


 対してアルトのは、彼用に手が加えられている武器()のようだ。


「始め!」


 始まりの合図が告げられた瞬間、アルトは地面を蹴り跳躍し、俺との間合いを一気に詰めた。槍の先端の刃が眼前に迫る。


 頭の一突きで終わらせるつもりか。浅はかにも程がある。


 魔法を使う必要すら感じない。


「――えっ、ぐはッ」


 剣を地面に突き立て、手の甲を槍の刃がない部分に軽く当てて軌道をずらし、顔の横を通過させる。


 速度がある分、軌道をずらすのは簡単だ。


 そのまま槍を掴んで引っ張り、空いた手を握りしめて拳を形成、魔力を収束。体勢が崩れたアルトの腹を殴る。


 収束した魔力が拳の威力を上げ、アルトは球のように地面をころころと転がった。


「ぐっ、がっ……このッ!!」


 が、さすがはバルムが選んだ人物。転がる途中で地面を殴って体を跳ねさせて無理やり体勢を立て直して着地する。


「アアァアッ!!!」


 その直後、アルトの胸を槍が貫いた。


 武器()相手()の手に渡ったことを忘れていたのか、投げたら避けないから刺さってしまった。


「よく、わかりました……。生半可な攻撃は通用しない」


 胸に刺さった槍を抜きながらアルトはそう言った。


「正直、人間だからって甘く見ていましたよ。ですが、ここからは私の本気でお相手します!!」


 アルトが本気宣言をしたのと同時に、槍が彼の手を離れて宙に浮いた。


「嵐の如し荒れ狂う刃よ、天を貪れ――〈六槍嵐慧啼(バルファーレ)〉!」


 槍が6本に増え、尾が長い鳥のような黄緑の光を纏った。


 これからが本領発揮と言うわけだ。


 詠唱の間に攻撃しても良かったのだが、そこは弁えているらしくしっかりと防御魔法を周囲に展開していたのでやめてやった。


 どのようなものか見てみたくもあったしな。


「――翔べ」


 アルトの一言が聞こえた時には既に5本の槍は周囲に展開し、最後の1本は彼自身が握りしめていた。


 と思ったのも束の間、槍が空気を切り裂く勢いで突っ込んできた。


 後ろに飛び退いて躱わすも、槍が衝突した反動で割れた地面から小石が飛び散った。


 魔力で全身を覆って、小石を弾く。と、そこで俺はアルトの方から強い魔力を感じた。


「吹き飛べ――〈一槍穿狼咆(バルフォリア)〉!」


 アルトの正面に4本の槍が四角を描くように並び、その中心目掛けて手にしていた槍を突き出すと、黄緑の閃光が彼の前方へと放たれた。つまり、俺が標的だ。


 一歩や二歩で避けられるような範囲ではない。


 正直、躱わす手段ならいくらでもある。


 しかし、ここで受けて立たねば男が廃ると言うものだろう。


「やってやるさ」


 俺はそう呟きながら、剣を正眼に構えた。

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