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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『残酷』

「俺はあんたと戦いたくはない。退いてくれると助かるのだが?」


 俺は対峙する男に提案する。


「……許せとは言わぬ。汝はここで倒す」

「残念だ」


 ――騎士として王の命令に従う。


 そんな思いが、ギルシアの表情から伝わってきた。


 たとえそれが、望まぬものであったとしても……。


「――だが」


 俺は再び鎌から刀へと持ち替えた。


「優先すべき相手は別にいる」

「あくまで命令は()の殲滅と言うわけか」

「うむ」


 俺の言葉に頷きを返すギルシア。


 少なくとも俺を敵ではないと判断したらしい。今のところは、だろうが、戦わずに済むのなら助かる。


 そこからの戦闘は一方的だった。


「オエエェ……」


 人間が焼かれ、骨を晒す様を目の当たりにして少年は胃の中身を吐き出した。


 広範囲の炎に加え、高威力の雷から逃れられはしなかった。


「――ここまでする必要ないだろ!」


 非情なまでの徹底された行動に、意見する者が一人いた――リュウヤだ。


 次々と敵を雷の餌食にしていくギルシアに少年勇者は叫んだ。


「こ……のっ」


 そんな隙だらけな少年の背後で倒れていた騎士が最期の力を振り絞って魔法を発動させようとしていた。標的は、目の前にいるリュウヤに他ならない。


「リュウヤッ、危ない!」


 俺はリュウヤが危険だと判断し、魔法を打ち消そうとしたのだが……結果的にそれは叶わなかった。


「――ならば汝が、敵となるか?」


 ギルシアが一瞬でリュウヤの背後に移動し、敵騎士に剣を突き立てて殺したのだ。


「な……あ……そんな、俺は……っく」


 確かにあいつの言いたいことはわかるが、殺さなければ殺される。そう説明しただろうに……やはり、理屈ではないのだろう。


 許せない男(ギルシア)に助けられた事実は、リュウヤをより強く追い詰めた要因となった。


 シグマが巻き込まれないように都まで退くように指示しても、リュウヤは聞く耳を持たずに、あろうことか倒れた敵を助けようとしたのだ。


「殺す以外の方法だってあるはずだ」


 地面に横たわり、精一杯の力を振り絞って助けを求める敵の騎士に手を差し伸べる少年の優しさは、炎で阻まれることとなった。


「なんで、なんでなんだよお!!」

「リュウヤ、もうやめてっ。もうこれ以上は――」

「カグラまでそんな風に言うのかよ。俺はこんなことのために強くなりたかった訳じゃない。みんなを、みんなを守りたいって……だから――」


 そこでリュウヤの意識は途絶えた。


 シグマが強行手段を取った。つまりは気絶させたのだ。


「みんな退くぞ! あとは〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉に任せて、一旦退くんだ!」


 バッカスも率いていた冒険者や駐屯騎士たちを都へと撤退させた。


 それから一時間も経たずして、戦場には〈法儀国カイゼルボード〉の騎士だった黒焦げの死体がそこら中に転がることとなる。


 〈アインノドゥス王国〉対〈法儀国カイゼルボード〉の戦いの勝敗は決した。――〈アインノドゥス王国〉の勝利と言う形で。


 やる前から結果は決まっていたようなものだ。


 ギルシアと謎の女性はと言うと、来るときも唐突なら去るときも唐突で、敵の殲滅が終わるや否や何処かへと去っていった。




 ◆◆◆




 3日後には、王国領内の都や街に知らせが入った。


 ――敵国〈法儀国カイゼルボード〉は誉れ高き我が国に敗北し、光栄たる領土となった。


 こんなにもあっさりと戦争が終結するとは、王国の主力は侮らない方が良さそうだ。


「なんで止めたんだよ!」


 一つの課題の答えを見出だした途端、怒りを込めた少年の声が部屋に響いた。


シグマ(あんた)が邪魔しなきゃ……助けられたんだ。敵だとか味方だとか関係ない。確かに殺さなきゃ殺されるってのはよくわかった。まだ足りないかもしれないけど……でも、でもよ!」


 リュウヤがこの先に何が言いたいかなど、俺でなくとも察しがついているだろう。


「逃げてる人まで殺さなくていいじゃないか」


 皆まで言わなくても良い、それすら察していながら誰も止めなかった。……止めとも無駄だと思ったからだ。


 シグマに限ってはあえてリュウヤより視線を下に落としている。

 同じようなことを言う者たちを見てきた証拠だ。


 俺とてリュウヤのように、殺しを拒んだり否定したりする者ばかりならと思わないこともない。


 しかし、犠牲のない戦争は歴史上では一度もない。勝利と敗北の下には犠牲が付き物だ。もし、子どもでも知る常識(・・)を覆したいのなら――


「全員殺す必要はないだろ……酷すぎるよ。みんなは何も感じないのかよ!」


 誰も言わないなら、俺が重い腰を上げた。


「リュウヤとカグラ、俺についてこい」

「嫌だ」

「駄々っ子か……」


 カグラは頷いたのに、リュウヤは案の定即答で拒んだ。


「元々別の世界で過ごしていたのだ。受け入れられないのは仕方ない。だとしても、今のお前に何ができるか、それをもう一度良く考えろ」

「考えたさっ」

「いいや、足りない。考えて、考えて、考え続けて、ようやくだ」


 そう言いつつも、頭ごなしにするのは逆効果だと思い、本当にあるかもしれないと訊いてみる。


「一応、答えを聞いておこう。お前に何ができるのだ?」

「……まだ……まだ答えは出てない」


 ふっと笑ってしまった。


「笑うなよ!」

「悪いな。お前くらいの年頃は、俺もあれやこれやと悩んでいたのかもと思うと、自然と笑ってしまった」


 本心だった。


 純粋な少年に影響されたのだろう。

 ……きっとそうだ。そうでなければ。この俺がこんな単純なミスを犯すはずがない。


「――“かも”って、どういうことだよ」


 加えて、そのミスを純粋突進馬鹿少年勇者が追求してくるなど認めたくないミスだ。


 つい、こめかみに人差し指を添えてしまう程にだ。


 まぁ良い、逆に利用してやるよ。


「言っていなかったな」


 何食わぬ顔で言ってやる。


「単純な話だ。俺には――過去の記憶がない」

「「「――!?」」」


 リュウヤとカグラはともかく、シグマまで驚くとは意外だな。


 とにかく、少年の悩む心に隙を作ることできたようでひと安心。


「驚くことではあるまい。産まれたばかりの記憶がないのと変わらぬよ」


 我ながらよくやる。


 これでは何処ぞの道化と変わらないな。

 思わず苦笑する。


「いや変わるよ! な、カグラ!」

「リュウヤの言うとおり、全然違うよ!」


 話題が変わってしまった。


 気分を紛らわすだけのつもりが、ここまで食いついてくるとは思わなかった。


「私も聞いていないぞ」


 挙げ句の果てに子どもふたりにシグマも乗っかって盛り上がった。


 やれやれと苦笑しながらため息をつく俺などお構いなしだ。


「大丈夫?」だの「寂しくない?」とか「怖くない?」などと様々な問いかけをされた。


 好き勝手言いやがって。

 もちろん返答は適当にしたとも。真面目に答える必要はないからな。


 だが俺は見逃していない。

 そうやって自分の気持ちを誤魔化そうとしているリュウヤが時折見せる暗い表情を。


 だから質問タイムが終わってから、ふたりを連れてバッカスのいるギルドに向かった。

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