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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『眼帯野郎』

 まさに阿吽の呼吸。


 息の合ったコンビネーションで次々と敵を倒していくリュウヤたち。


 俺が知らない間にアカネと仲良くなりやがって……いや、人付き合いができるようになったのだからここは喜ぶべきか。


 断じて嫉妬ではないとも。保護者として複雑なだけだ。


「だぁー、俺は父親か!」


 一人で頭を抱えている間に、リュウヤたちを敵が数で圧倒して囲もうとしているではないか。


「やれやれ、仕方ない」


 刀で居合い斬りをするような構えで鎌を握る。


「〈穿空牙〉」


 言いながら刀を抜き去るのと同じように鎌を振り払う。


 鎌が通った軌道から黒い刃が敵に向かって放たれる。それは進むにつれて大きさを増し、敵の騎士たちに到達する頃には城門ほどになっていた。


 対抗しようと敵は魔法をぶつけるが無意味だった。爆発などはするものの、当たってきた魔法を一刀両断のもとに斬り裂く。


「ダメだっ、逃げ――」


 黒い刃の進行を防ぐのは不可能だと判断した敵は逃亡を図るも時既に遅し。魔法と同じように敵も両断していった。


 それを空から攻めてきた奴らにもお見舞いして落としていった。


「…………」


 手を握ったり開いたりを繰り返して違和感がないか確かめる。


 どうやら人を殺めても至って平静を保てるようだ。


「叡智なる光で、悪しき闇を照らせ――〈シャイニング・ブラスター〉」


 敵後方に巨大な魔法陣が展開され、そこからまさしく闇を照らす光が都に向けて放たれた。


「させるかよ」


 〈穿空牙〉を縦に放ち、光を左右に斬り分けて止まらない黒い刃は魔法陣をも斬り裂く。


 これを皮切りに数え切れない程の魔法陣が戦場の上空に展開する。


「まさか……仲間ごと殺す気か?」


 俺は目を細めた。何処まで愚かなことをする気なのだと多少の怒りを覚えながら。


 敵後方に一際目立つ少年の姿を捉えた。


 たしかあいつはサトルと言ったか。若いのに魔法をよく使える奴だったと記憶している。


 魔法陣をさっと見渡す。中には簡単に覚えたり扱えたりできないようなものまで含まれているのに驚いた。


「そろそろ俺も出た方が良さそうだ。――シグマ、都はもう良い。リュウヤたちを手伝ってやってくれ。ついでに派手に暴れろ」

「承知した」


 ここが戦況の変わり目だと判断した俺は、地上で暇を持て余しているシグマに指示を出した。


 敵の魔法に対抗すべく冒険者(こちら)側の魔法陣も展開される。


 それに俺も加勢して魔法陣の空が両者の魔法陣で埋まる。


 しかし、敵の魔法が発動することはなかった。もちろん、俺が全て砕け散らしてやったのだ。


「さて、死神にでもなるとしよう――」


 鎌を携えて戦場に降りようとしたその時、背後からとてつもない殺気と魔力を感じて身を翻した次の瞬間――


「ノルンッ!!」

「――〈迅雷孅〉」


 俺の身体は紙吹雪のように軽々と吹き飛ばされた。

 都の外壁を貫いて地面を転がりながらも態勢を立て直す。


 辛うじて鎌を盾代わりにしたおかげでダメージは軽減した。


「――ぐっ、やられた」


 あくまで軽減しただけで消し去れた訳ではない。その証拠に左腕は今の一撃で使い物にならなくなった。


 まったくいったい何が起こったと言うのだ。


 背後に殺気を感じたから振り返ると、シグマの声が聞こえたような気がしたのと同時に別の誰かの声が聞こえた時には俺は飛ばされていた。


 膝をついた姿勢からふらつきながらも立ち上がる。


 手に若干の痺れと電気がビリビリと見えることから、俺をものの見事に吹き飛ばした野郎は雷魔法の使い手。


 冷静に分析しながらも左手に回復魔法をかけていると、再び先程と同じ殺気を肌が感じ取った。


 構えなければと思ったが、狙ったようなタイミングで全身が痺れて動かなくなる。――万事休す。


「さらばだ――〈迅雷殲〉」


 突然目の前に姿を現した左目に眼帯をつけた男の言葉を耳が聞き取った時には、俺の身体は左右に分かれていた。


「――なんてな」


 世界がまるでガラスのようにパリンと割れて現実を男に見せた。


 〈法儀国〉の連中を見習って、予め幻覚魔法をかけておいて正解だった。


 本物の俺はまだ都の中心の上空に立って男を見下ろしていた。


 自分の偽物がこてんぱんにされる一部始終を見ていたわけだが……正直信じられない光景だった。


 何故ならこれは、俺が身を翻してから2~3秒程度で起きた出来事なのだ。


 眼帯男の速さが凄まじい上に、威力も今まで戦ってきた連中とは文字通り桁が違うのは十分に理解した。


 鎌では不利だ。


「――」


 俺が鎌を刀に持ち替えるのと、眼帯男が地面を踏みしめたのは同じだった。


 そして、次の瞬間には刀と剣が甲高い音を周囲に広げた。


「汝より魔の気配を感じる。何者だ?」

「お前ら王国の連中はそればっかだな。もしかして、初対面の相手にはそう言うようにと指導を受けているのか」

「そうか、汝が……」


 こっちこそ誰なのか訊きたいね。


 俺の皮肉も軽く流されるし、面倒な相手には違いない。


「くっ――」


 おいおい、この俺が押されてるって言うのか?


「汝に勝ち目はない――」


 眼帯男が距離を取ったと思いきや、俺を中心に5方向に魔力を感じた。いや、こいつを含めたら6方向だ。


 視界の隅に眼帯男と同じ形をした雷が見えた。


 なるほど、これと同じものが俺を囲んでいるわけだ。


「〈六芒雷閃〉」


 避ける判断を捨てた俺は目を閉じた。


 目で見ることを放棄したことで、他の感覚が周囲の情報を脳に伝える。


 何らかの考えがあったからこの行動を選択したかと問われれば、肯定と否定の中間のような返答をしただろう。

 自分自身でもどうしてこうしたのかはよくわかっていない。


 身体がそうしろと言っているような気がしたから従ったのだ。


 世界の時が遅くなっていき、やがて止まる。――あくまで俺の感覚での話で、実際は止まっていないだろう。


 だからこの動きは俺の意思ではなく……無意識だ。


 俺の知らない、俺の中の何か(誰か)が動かしている。


「四天影心流、第三式――〈須斬劉影華〉」


 刀が鞘から解き放たれたと思った時には、既に鞘に納まり終えていた。


 そして、世界は徐々に動き出して時間を取り戻していく。


 目の前の眼帯男以外の魔力が弾け飛んで消えた。


「……再び問う。汝は、何者か?」


 どうやらこいつは俺ですら認識できない速さの攻撃を防いだらしい。もとよりそれを予測していたのか、時間が止まる前には防御の構えをしていたような気もする。


 目を閉じていたので正確にはわからないのが残念だ。


「俺が何者かだと? 決まってるだろ、俺は絵を描くことが好きな妹を大切にしている魔法が使える物凄く強い素晴らしいと崇めても良いくらいに素敵な兄だ!!」


 早口で言い、最後に口角を上げてしたり顔を見せてやる。


 こいつのことはあまり好きではないが、おかげではっきりした。

 記憶を失う前の俺は普通の人間から逸脱していたのだと。


 心の中でため息をつく。


 結局今とあまり変わらないからだ。


「……理解した」


 勝手に理解したらしい眼帯男は再び雷を帯びた剣を構えた。


 いったい何を理解したのか教えてほしいものだ。


 こいつ相手では手加減できそうにない――。

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