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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『送る言葉』

 レグルス(ノルン)が上空から見守る中、〈勇者〉リュウヤは次々と斬りかかってきたり、魔法を使ってくる敵に対処していた。


「ハァッ!」

「リュウヤ、後ろ!」


 騎士の一人を吹き飛ばしたリュウヤの動きの隙を狙って、別の騎士が斬りかかる。


 カグラが知らせる。


 リュウヤは即座に剣を持ち変え背中の方へ向くようにし、背後から迫っていた騎士の剣と衝突させた。


「わかってる!」


 逆に隙が生まれた背後の騎士に回し蹴りをお見舞いする。アカネは宙を舞う無防備な騎士の首もとを軽くトンと叩いて気絶させた。


 リュウヤが親指をグッと立てると、アカネも同じように親指を立てて応じた。


 接近戦を得意とするリュウヤが前衛、アカネがそれを補佐する。


 魔法行使が得意なカグラは敵の魔法への対処に徹底。イーニャはそんな彼女の防衛。


 左目で彼らの戦いを見ていたレグルス(ノルン)は口角を上げた。


「やはりな」


 リュウヤは実戦でこそ輝ける。ただしそれにはいくつかの条件が存在する。


 条件の選定のためではあったが、自分の予想通りだったので笑みを浮かべたのだ。


 実際に先程の剣捌きはシグマとの稽古ではできなかったのに、命が懸かっているここでやり遂げた。


 しかし、完全に懸念が無くなったわけではない。


 彼らはまだ敵を“殺していない”のだ。つまり気絶または戦闘不能に陥らせて退けていた。


 実力や数が拮抗、或いは勝っているなら可能だろう。


 イーニャとアカネはともかく、リュウヤとカグラは経験も実力も足りない。長続きはしないとレグルス(ノルン)は眉を歪める。


 素人や初心者と呼ばれる類いの中でなら、リュウヤは確かに頑張っている。


「人生を犠牲にして費やした努力も、戦場では一瞬で散るのだよ」


 レグルス(ノルン)が無情な現実を例える言葉を紡いだ次の瞬間、リュウヤら目掛けて無数の魔法が迫る。


「撃ち落とせ――〈空破弾拳(グランス)〉」


 それらは一人の男の声が聞こえた途端に、全てが空中で爆発した。


「無事か、勇者!」


 元気よく少年たちに声をかけたのは、彼らに迫る魔法を全て防いだ図体の大きな男だった。


「さっすがっ、バッカスさんっ。〈勇者〉を助けるなんてカッコいいっすっ」


 全ての語尾を強調する茶髪の少年のおかげで。リュウヤたちは自分たちを助けてくれた人物の名前を知れた。


「無駄口叩いてないで戦えバカ野郎」


 バッカスは茶髪の少年――もとりベリンの頭を小突いて周りの敵の対処を命じた。


 本来はレグルス(ノルン)とシグマを含むリュウヤたちが遊撃部隊として敵を撹乱させる作戦だったが、もはや前衛の冒険者と駐屯騎士たちも似たような立場になっていた。


 それ故にバッカスが少年たちの加勢ができたのだ。


「助けてくれて、ありがとうございます!」

「真っ直ぐないい瞳だ」


 リュウヤの瞳を見ながらバッカスは呟いた。


「だが、迷いがあるな」

「……あっ……はい」


 一目で目の前の少年が胸に抱く迷いを見抜いた。


 今まで何人、何十人も同じ瞳をした若者をギルドに迎えたギルドマスターならではの慧眼であろう。


 大きな身体も相まって、リュウヤは若干身を引きながら素直に答えた。


「戦場は初めてか?」

「初めてです」


 何やら申し訳なくなったのか、俯き気味にリュウヤは問いに答える。


「別に悪いことじゃない、誰だって初陣は経験するさ。オレだってそうだしな。そして、その初陣でほとんどの奴が死ぬ」


 苦笑しながら人生の先輩として、少年に言葉を送った。


 将来への輝かしい夢を抱く若者が、死なないように大人(バッカス)ができる数少ない行いの一つだった。


「だとしても、勇者おめえは死ぬな。オレが想像できねえような責任だろう。だがな、迷ったら思う存分悩めば良い。悩んでもダメなら話せば良い。おめえは独りじゃないんだ、それを忘れるな」


 そこまで言って片方の口角を上げた。


 単なる言葉と侮る者もいるだろう。たとえそれが事実だとしても、全ての者にとって侮って良いものではない。


 今のリュウヤには、まさしく心に響くほどの価値があった。


「あともう一つ、おめえは自信を持っていいことがある」


 終わりだと思い感謝を伝えようと口を開いていたリュウヤは、まだ言い残したことがあったバッカスに間抜けな顔を見せる。


「な、なんですか?」


 決して誤魔化すためではないと心の中で言い訳をしながら、リュウヤは気付いたら訊いていた。


「ノルンがいるってことだ」

「ノルン、ですか……」

「そうだ。なにを考えてんのかよくわかんねえやつだ。けどな、仲間を大切にするのは確かだ。今やギルド〈ボルボレイン〉の自慢よ」


 リュウヤはここで初めて、レグルス(ノルン)がギルドに所属していた事実を知った。


 密かに俺もギルドに入りたいと思ったのは自然な流れなのかもしれない。


「今はあいつに思い切り頼れ。そして――見返してやれ。おめえには守りたい人がいんだろ? だったら、全力で足掻(あが)いてみろ。生きるってのは、そういうことだろ」


 少年の瞳から迷いは消えていた。決意に満ちた、強い意思を秘めた綺麗な瞳になっていた。


「――話は終わったな。いい加減、戦闘に戻りやがれ。若者を諭すのは構わんが、場所を考えろ場所を」


 ふたりの頭にレグルス(ノルン)のため息交じりの声が届けられる。


 彼を始めとした少年の仲間たちが周りの敵を寄せ付けないようにしてくれていたのである。


「ごめんよ、ノルン。もう大丈夫だ」


 剣を握りしめる自然と手に力が入る。


「カグラ――」

「なに?」

「援護頼む」


 名前を呼ばれたカグラはリュウヤの頼みを聞いて一瞬目を丸くした。


 ついさっきまでなよなよとした雰囲気を感じさせていたのに、いつの間にか強い意思を声から読み取れた。


 長年一緒にいる幼馴染みであるカグラだからこそ、リュウヤのちょっとした感情の変化がわかったのだ。


「――もちろんよ!」


 故に彼女の答えは決まっていた。


 相変わらず敵に突進する少年に負けじと元気に返事をした。


「俺が〈勇者〉だ! うわっはっはっはー、勇気あるやつはかかってこい。俺が相手だ!」

「馬鹿あー!」


 やはりいつも通りなリュウヤを咎めながら、同時にカグラは嬉しくなっていた。


 何だかんだで悩み続ける少年を一番心配していたのだから、元気になってくれて喜ぶのは当然だ。


 ――ここからが本番だ。


 ふたりは同じ思いを胸に抱き、彼らの加勢に入ったバッカスと共に迫りくる敵を迎え撃つのだった。

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