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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『本隊』

「多いな」


 地面を走る奴、浮遊して移動している奴、空を飛んでいる奴など2万の数は伊達ではないと思い知らされる。


 冒険者と駐屯騎士たちは押され気味だ。


 そもそもこちらの人数が相手の2万に対して圧倒的に少ないのだ。


 その数――500人だ。


 当然普通ならもうとっくにイルギットの二の舞になっている。


「なんで魔法がッ――うわぁあ!!」


 手元に展開した魔法陣が砕け散り、隙だらけの男を冒険者の一人が剣で斬りつけた。


「気を付けろっ、魔法が掻き消さ――れ、ゴフッ」


 指示を出そうとした指揮官の腹に、バッカスの拳が吸い込まれるように直撃した。


「フハハハハッ、甘い、甘いわ!!」


 楽しそうだな、ギルマス。


 高笑いするバッカスを見ながら苦笑する。


 浮遊魔法なんて高位の魔法を使える優秀な人材は少ない。


「飛べないなら撃ち落とせば良い」


 術者の魔法に呼応して追撃を行う〈連墜球(カルザム)〉と言う魔法の球体を遠距離部隊の全員に3個ずつ追従させている。


 魔力がどんどん減っていくのがわかる。


 ちなみに俺は都の中心の上空の魔法陣の上に立っている。

 高みの見物ではないが、ここなら戦場と都の全体を見渡せるからだ。


 まだ負けていないのは何を隠そう、この俺が援護しているからに他ならない。


 しかし、後方の連中が加われば戦況は一転するだろう。


「……妙だな」


 こちらが本隊なのは間違いないのに、今一強さを感じない。更には3人の少年の姿が何処にも見当たらない。


「ん?」


 俺が視線を向けた先でちょうどリュウヤたちが戦っていた。


 実は、左目でずっと見えていたのだがな。


 右目で周囲の情報を、左目でリュウヤたちを見れるように魔法をかけておいたのだ。物凄い違和感なのは俺だけの秘密だ。


「斬り裂け――〈光刃〉!」


 リュウヤが振り下ろした剣から光の刃が放たれて敵を吹き飛ばした。


 実際の戦場で心が引き締まっているのか、案外善戦しているようだ。


「……」


 にしても、やはり何かおかしい。敵の攻撃も単調に見えるし、何より弱すぎる。


 まるで操られた人形と戦っているのかと勘違いしそうなくらいだ。……いや、待てよ。もしかしたら――。


 俺の脳裏にとある魔法が過った。


「仕方ない。来い――〈黒華〉」


 俺の呼び声に応えて漆黒の鎌が現れる。


「これで当たったら笑ってやる。断ち斬れ――〈黒華天輪〉」


 円を描くように鎌を回した。まるでそこにあるものを斬るようにだ。


 すると、俺を中心とした円が描かれ、それは形を成すや否や即座に広がった。


「当たってしまったようだ……」


 残念な思いを全力で込めて呟いた。


 何故なら広がった円は見事に俺の推測を証明してくれたからだ。

 斬られた結界が効力を失い、世界が本当の姿を取り戻していく。


「なんだ!?」

「敵が消えていくぞ!」

「どうなってるんだ?」


 戦っていた2万の敵が結界と共に消えていく。それを目の当たりにした冒険者たちは驚愕と困惑の声を上げる。


「くっ、まんまとしてやられた訳だ」


 実体のある幻。


 そういえばそんな魔法があると、グリムから教わっていたな。


 消え行く結界の外側には、本物の〈法儀国カイゼルボード〉の軍勢が待ち構えていた。


「幻の中に本物を混ぜることで、判断を鈍らせていた」


 幻用の結界が完全に消えてもいくつかの敵の騎士は消えていない。


 俺も詰めが甘いな。まだまだだと思い知らされたぜ。


「はぁ……」


 ため息が出てしまった。


 ここからが本当の戦争の始まりだ。


「こんな醜態を晒すとは、俺としたことが……。神を倒して図に乗っていたらしい。反省反省」


 これでは示しがつかない。


 俺の後悔とは裏腹に、無情にも敵が遠距離魔法を無数に展開する。中には対多数用の殲滅魔法の陣もあった。


 冒険者たちは困惑した思考を整理するので精一杯のようだ。


 対処が到底追い付かないのは火を見るより明らかだった。


「……やるしかないか」


 俺が渋々鎌を構えたその時、一人の男の声が戦場に響き渡った。


「――立ち止まるなッ、我が勇敢なる同胞たちよ! 我らはあの〈魔獣バルログナ〉にも臆さなかったのだ。たかが2万の騎士程度に、いいように弄ばれてよいのか! ――否、断じて否! この戦場こそが、我らの意地の、強き意志の見せ所だろ!! 立てッ、怯むなッ、そして敵を倒せ!! 先陣はこの、バッカス・ガルヴェリウスが切る。同胞よ、我に続けえ!!!」

「「「オオオオオォォオオォォ!!!」」」


 バッカスが冒険者たちを、騎士たちを鼓舞して宣言通りに先陣を切って同胞を率いた。


 ギルドメンバーとしてギルマスの底知れない何かを称賛すると同時に、〈魔王〉としてはとてつもない脅威に感じた。


 戦場で厄介なのは凄腕の騎士か――否。


 揺るぎない信念を抱く勇者か――否。


 敵にとって一番の脅威なのは――立ち上がり、立ち上がらせる奴だ。


 自らが最も危険な先陣を切り、同胞たちを言葉だけで鼓舞して率いる――まさに今のバッカスだ。


 だが、俺は今、奇しくもその脅威に助けられたのだ。


「一つ借りだ」


 バッカス本人の知らぬところで勝手に恩を感じる俺であった。


 なればこそ、恩は返さねばなるまい。


 敵の魔法陣が光りを帯びて次々と魔法を放ち始める。


「させるかよ――〈標的操作(テリット)〉」


 鎌を右手に携え、左手の指でパチンと音を鳴らす。


 すると、バッカスたちに向かっていくはずの敵の魔法が、あろうことか術者である敵のいる方へと進行方向を変え、衝突したり爆発し出した。


 他人事みたいにそんなことを思う俺だが、犯人はもちろん俺だ。


 〈標的操作(テリット)〉――文字のまま、魔法の標的を操作する魔法だ。相手の魔法の構造を理解していなければ使えないがな。


 魔法の構造を理解するなど、俺の特異分野だ。まさに朝飯前と言うべきだろう。


「いやっほーうっ!!」


 一人の少年が楽しそうに魔法を掻い潜り、バッカスたちに迫る。それも疾風の如し勢いでだ。


 あのツンツン頭には見覚えがあるぞ。


「――バッカス。そいつが例の3人の内の一人だ」


 バッカスの頭に声を送る。


「こいつがぁ……〈断骸拳(ヴォロス)〉」


 噛みしめるように呟き、その名を口にする。


 バゴッ。


 地面が割れた。


 決して攻撃で割れたのではない。

 ただ、一人の男が踏みしめ、走るために蹴った。それだけのこと。

 それだけのことで、地面は割れたのだ。


 次の瞬間――


「――へ」


 一人の少年が一瞬にして距離を詰めた男の拳と衝突し、断絶末魔もなく――砕け散った。


 断じて比喩などではない。本当に砕け散り、周囲に小さな破片と血が飛び散った。


「すご……」


 俺は気付いた時には苦笑を溢していた。


 ただの身体能力強化ではないのは明白。


 それに〈断骸拳(ヴォロス)〉と言う名の魔法は聞いたことがない。つまりあれが、バッカスの〈特異能力(レガリア)〉なわけだ。


 バッカス・ガルヴェリウス――異名〈破城者〉がしっくりくる能力だ。


「俺も負けていられないな」


 鎌を握りしめて2万の軍勢を見下ろす。


「〈法儀国カイゼルボード〉の騎士たちよ、俺はお前たちに怒りを覚えると共に感謝もしているのだ。先延ばしにしていたであろう選択を、こうして迫ってくれたおかげで俺はお前たちを……殺せる」


 聞こえなくて良い。

 これは俺の、自己満足だ。

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