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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅

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『突き出す』

「……おや?」


 左目が見える。


 何故かもとに戻っている。


 回復魔法では治せなかったのに、いったいどんな経緯でこの目は元通りになったのか。答えは永遠に謎のままだった――などと言うことはない。


 アカネの血を体内に宿しているためであろうと結論付ける。


 〈吸血種(ヴァンパイア)〉としての驚異的な再生能力が、失われた俺の左目を修復したのだろう。


 もはや人間の能力を逸脱している。


「またか……」


 両腕ががっしりと捕らえられて、動かせるが動かせない状況である。


 イーニャとアカネの仕業だ。


 男としては非常に喜ばしいのだが……これから戦場に赴くので俺も準備をしたい。しかし、心地良さそうな寝息を聞いていると起こすのは忍びない。


 ――結局ふたりが自然に起きるまで待った俺である。


 別に幸せだからこのまま……とか思っていた訳ではない。時には優しく接するのも必要だと思っただけだ。


 俺が〈転移法(テイル)〉で全員を冒険者の都へと転移させた。


 ギルマスのバッカスに事情を説明するために、先んじて一人で来ていたので、冒険者たちは既に戦闘態勢だった。


「やっと来たか、待ちくたびれたぞ」

「まだ約束の時間より早いはずだが?」

「そうだったか? ずっと待っていたからとっくの昔に過ぎたと思ったぞ」


 冗談を言いながら、わははと見た目に似合う笑い声を出すバッカス。


「にしても、また増えたなぁ」


 俺たちを見渡しながら呟いた。


「いろいろあったのだ、察してくれ」

「噂の〈勇者〉まで仲間にするたあ、さすがとしか言いようがねえな」

「俺は何もしていない。成り行きで仕方なくだ」

「そこが凄えんだよ」


 周りには万全の準備を終えた冒険者たちが戦いを待ちかねていた。


「よくもまぁ、一日でここまで集められたものだ」

「〈法儀国カイゼルボード〉が攻めてくるとあっちゃあ黙ってられねえ。ここはみんなの家だからな、守るためなら戦うに決まってるだろ」


 笑顔で背中をバシバシと叩きながら言ってきた。


 飛ぶ飛ぶ、飛んでしまうから。


 大きい身体に備わった四肢から繰り出される打撃は、かなりの威力を併せ持つ。


「――バッカス」

「ああ、わかってるさ。……いるんだろ(・・・・・)?」


 笑っていた表情を暗くし、真剣なものへと変えて訊いてきた。


 そうだ。


 相手は〈法儀国カイゼルボード〉の軍勢。


 その中にはあの3人の少年たちも含まれている。


 つまりバッカスにとってはギルドメンバーの仇がいるわけだ。真剣になるのも納得だ。


「3人とも揃っている」

「日頃の行いってやつは、こういう時に報われるんだな」

「イルギットを襲ったのは、武器の補給をさせないため。ここに来るのは、冒険者(手練れ)を潰しておくためだろう」

「上等だ。殺された仲間たちへの手向けにしてやる」


 バッカスは拳を握りしめて表情を険しくした。


「死ぬなよ、ギルマス」

「当たり前だ。おめえこそ、人間相手に躊躇すんなよ」


 なかなか手痛い指摘をしやがる。


「誰に言っているのだ、俺は〈魔獣〉を倒した男だぞ。人間なんぞに遅れを取るかよ」

「そうだった。……ノルン、頼りにしているぞ」

「期待には応えるとも」


 お互いに笑顔でその場を去った。


 全体の指揮は前回の〈魔獣バルログナ〉の一件で活躍したバッカスが選ばれた。


 まぁ、当然だろう。

 俺だってあいつを選ぶからな。


「シグマは正門で都内部の警戒に当たってくれ。転移魔法を使ってくる可能性があるからな」

「敵も単なる雑魚ではないわけか」


 シグマの言葉に頷きを返す。


「俺はあまり前に出ず、全体の援護に徹する。イーニャとアカネ、リュウヤとカグラの4人は一緒に行動しろ」

「りょーかい」

「ん」

「了解だ!」

「はい」


 各々の返事をした。


 俺が傍にいなくとも、アカネがいれば大丈夫だろう。それこそ神でも出てこなければ負けないとも。


「気を引き締めろ。だが、気負う必要はない。俺がお前らを守るからだ」


 そこで一旦言葉を止め、一呼吸してから再開した。


「バッカスと同じとは言わないが……俺も少々怒りを覚えた」

「兄様……」


 イーニャが悲しげな表情を見せる。


 こいつもバンガスとは仲が良かったからな、思うものがあるのだろう。


「俺はもう迷わない。自分の使命を全うするための試練なのだろうよ。ならば必ず乗り越えて見せる。俺は俺として、必ずな」


 イーニャの頭を撫でる。


 小動物のように目を細めるのに可愛い奴めと思ったのは言うまでもない。


「だから、背中を気にせず思い切り戦え。おいおいリュウヤ、緊張しすぎだぞ。全身に力が入りすぎているではないか」


 まったく、緊張した場を程よく和ませてくれる〈勇者〉だ。


 ガチガチになって顔も引き締まりすぎて、もはや一種の変顔だ。


「深呼吸だ」

「あ、ああ。すーっ、はーっ、すーっ、はーっ」


 勢いが強い。


 それでは逆に身体に力が入るだろうに……。


「ゆっくりだ。急かさないから、焦らずに自分のペースですれば良い」

「お、おう、そうだな。すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」


 今度こそ落ち着きを取り戻せたリュウヤ。


 カグラはくすくすと笑っていた。


「わ、笑うなっ。緊張するに決まってるだろ」


 乙女のように頬を膨らませる。


「私も緊張しているけど、リュウヤを見て安心した」

「なんだよそれ……」

「絶対に勝とうね」

「もちろんだ」


 お互いの拳と拳をコツンと当てた。


 いちゃいちゃしやがって、俺たちの存在を忘れてもらっては困るぞ。


「何だそれは?」


 俺が尋ねると、快く教えてくれた。


「故郷の風習っつーのかな。健闘を祈る、みたいな時によくやるんだよ」

「なるほど。それは良いことを聞いた」


 そして、誰もが予想しただろう行動を俺は実行する。


「これでよし」


 俺、イーニャ、アカネ、シグマ、リュウヤ、カグラの全員で片手を突き出して拳を当てたのだ。


 カンカンカンッ。


 甲高い音が都中に響き渡る。


 どうやら獲物が罠にかかったらしい。


「さぁ、開戦だ」


 俺たちは遊撃部隊として敵を撹乱させる役割を担っている。


 とは言うものの、リュウヤにそんな器用な真似が不可能なのは百も承知。


 突撃部隊と呼称するのが正しい気がする。


 やれやれと肩をすくめた。


 ――獲物が罠にかかった。


 都全体に対転移魔法用の結界を張っておいたのだ。


 都内に転移してきたら正門前に目的地を強制変更するように。


 斥候は難なく対処した。バッカスたち冒険者がだ。


 そして、あの騒々しい音が鳴ったのは、目視で敵本隊を確認した合図だ。


「敵は2万。実戦には持ってこいの数だ。さて、〈勇者〉リュウヤは何処まで頑張れるかな?」


 俺は口角を上げた。

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