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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第一章 召喚されし魔王
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『同じ』

 ホーグドリアはバルムに任せて良いだろう。


 一方でグリムの方から報告はない。仕方ないか、大切に育てていた子どもが殺されたとあっては心中穏やかとはいかないだろう。


 ん? 一人から熱い視線を感じるな。

 あ、すっかり忘れてた。俺は質問を投げかけられたのを思い出してその返答を考えた。


「コホン、反乱についてだったな。聞いての通りホーグドリアにて魔王軍や市民の少数が反乱を起こして虐殺を行った。ほとんどが魔法によって操られた者だが、決して全員ではない」

「自らの意思で反乱を起こした奴もいるのか」

「ああ、そうだ。フレンにとっては辛い現実かもしれないが……軍内部だけじゃない、民にも不満が溜まっているのはこれで明らかとなった。非常に由々しき事態である」


 フレンには悪いが、俺は魔族たちを甘えさせる余裕はない。だからあんたとは別の道を選ばせてもらう。


「今より半年後、人間族の中心の国。アインノドゥス王国に宣戦布告を行い、3日の猶予を与え、期日が過ぎ次第こちらから攻め入る。だが弱い奴を戦場に連れていくほど俺はお人好しじゃない。宣戦布告より前に実力を見定める機会を用意する」


 俺は説明した。そして宣言した――戦争を行うと。フレンは複雑な表情をしていたが、後半を聞いて苦笑したのは意図を理解した証拠だ。


 この条件なら戦いたくない者は相応しくないと判断されれば家に帰れる。家族のもとへとだ。


 複数人で審査するつもりだが、一番の権力は俺が握っているから諸々の心配はない。我ながら素晴らしい提案だと自負している。


 俺の素晴らしい提案が素晴らしすぎて〈八天王〉たちも言葉を失っているようだ。我ながら自分の才能が恐ろしいぜ。


 誰もツッコまないから……冗談はさておき真面目な話、これで制御しきれるかどうかが怪しい。


 〈ハ天王〉を一人ずつ教官として各地に派遣するか。いや、それでは城の守りが手薄になる。それに魔族らの自我を奪った薬の解明も必要。


 他にも3つほど気になることがあるし、一気に俺の作業量が増えるな。


「明後日、魔界に存在する全ての魔族に向けて、俺の魔王就任と共に先程の案件を民に伝える。ここまでで異論あるものは挙手せよ」


 一人が手を上げるも無視して進行しようとしたら、うるさいアピールをしてきやがった。誰かなど言うまでもない……ピエーロルシファーだ。


 仕方ないから当ててやると、


「違う違う。身体を伸ばしてただけー」

「てめえ、ハンバーグにしてやろうか、あぁん?」

「わー、フレンあの人怖いよぉ」

「レグルス、慣れるしかない」


 諦めな表情を浮かべながらフレンは助言してくれた。

 全く悪い意味で予想を裏切らない奴だ。さてピエルシはほっといてもう一つの方も話さなければだ。


 軽く呼吸を整えてから話を始めた。


「ついでに言っとくと、俺さ旅に出ようと思うんだ」

「「……ええ!!」」


 おお、良い反応をしてくれるではないか。と喜ぶのも束の間、続きを話した。


「前から考えていてな。俺はあんたらのようにこの世界で長く生きてきた連中とは違い、圧倒的に世界を知らなすぎる。グリムに色々と教わったが、百聞は一見にしかず。実際に見て聞いて判断したいんだよ。世界をどう征服するかを」

「それはつまり、世界征服が最終目標と言うことですか?」


 たしか〈ハ天王〉序列4位。〈地獄奏者〉――ダンテ・ヴィ・ヴァンタレイ。夜空を連想させる短めの黒髪に碧眼が特徴の魔族が確認するように尋ねてきた。


 グリムの話だとなかなかのキレ者らしく、戦闘も様々な戦略を駆使して戦うとか。中でも一騎当千が得意と聞いた。


「現時点では、とだけ言っておこう」


 ならこれだけで充分だろう。あとは勝手に自分で思考を巡らせてもらおう。俺の返答に満足したのか会釈して引き下がった。


 もっと旅の方をつつかれると思ってたのに少々拍子抜けである。


「レグルス陛下は一人で旅をするつもりなの?」


 〈八天王〉序列3位。〈純真悪魔〉――ロアン・デーモンリアク。

 10歳程度の整った顔の美少年な見た目とは裏腹に、残酷なのが大好きな無邪気すぎる魔族と悪魔のハーフ。

 実力は相当らしいが、俺が苦手なタイプの趣向の持ち主だ。


「あー、それも伝えておくべきだな。俺はこいつと旅をする」


 俺の指差す方へ皆の視線が向く。そこには寝転ぶスパイの姿があった。


「ちなみにこいつは人間で、今回の魔族暴走事件の一部始終を見届けて王国に報告する役割を担っていた。……しかし通信魔法は何故か使えない。考えたこいつは自らの足で王国に帰還し、直接報告しようと移動を開始した――ところを俺が捕まえた」


 情報はメイドたちの噂話をもとに場所や人物をある程度絞り、あとは魔法を駆使して結論に至った。お勉強も中々馬鹿にできないと思い知らされた。


 グリムから通信魔法は言語を魔力に変換し、遠くへ飛ばすものだと教わっていなければ、スパイを囲むように一定の範囲で魔力を外に漏らさないよう防壁を作ろうなんて考えなかった。


 座学の先生に感謝しないとな。


「人間を旅をする……まさか寝返るつもりじゃないよね? まー、その時は殺せるようになるからボクはいいんだけどさ」


 人間の俺が人間族のスパイと旅をすると言ったら疑うのも当然か。


 手を握ったり閉じたりして魔力を巡らせる。殺気を飛ばしてきやがって、紛れもない根っからの戦闘狂だな。俺とこいつの強さはまだ五分五分くらいか。


 もし全力を引き出したとすれば……いや、それでも断言はできない。圧倒的に実戦経験がなさすぎる。ベルグスの剣をわざと受けたのも、痛みを身体に覚えさせるためだ。


 かなり痛かった。意識が飛ぶかと思ったし、治療魔法がなければ危なかった。


 でだ、そろそろ頃合いだなと寝転ぶスパイに視線を落とす。


「たぬき寝入りは不要だ、もうバレているからな」


 もそっと起き上がろうとするスパイ。手こずっているようなので手を貸した。


「女じゃん」

「魔族だが男なら色仕掛けができると考えたのだろう。入国はベルグスが手引きしたらしい」


 俺はスパイから聞き出した情報を話した。


 アインノドゥス王国の暗殺部隊の一人。他にも数人いたはずなのに、こいつと一緒に捕まえるつもりで追跡はしていた。


 だがこいつ一人を捕まえて、さて次をと思って向かった時には一足遅く、何者かに殺されていた。


 最初は隠蔽工作の可能性も考えた。しかしあまりにも悲惨な状態の遺体から見るに、その可能性は低いと考えている。まるで恨みや憎しみを思い切りぶつけたみたいだった。


 ――殺すために殺した。


 そう思えて仕方がない。決めつけるわけにはいかないから調査は続けるとしよう。と言っても犯人の目星はだいたいついているんだけど伏せておくとしよう。


「信用できるのか?」


 フレンが訝しげな顔を向けてくる。


 俺だって完全に信用したわけじゃない。だけど、人間は情に弱い生き物で女性ならなおさらだ。そこをついたから半分くらいは信じて良い。


「俺のことも含め、簡単には信用は得られないから半年の猶予を設けた。もし俺が裏切って人間たちを率いて来ればロアンの言うように殺せば良い。幸運にも統率者たる魔王は、俺より適任が生きているしな」


 俺の言葉に促されて前魔王フレンに視線が集まる。


「半年の間、俺は魔界にはいない。俺が把握している以上の戦力の強化期間としては充分だと考えている」

「人間側に情報を流しても、対処は可能という訳か」

「そうだ。魔王である以前に俺は所詮人間だ。裏切る気は微塵もないが、これだけの準備をしておけばどちらに転んでも差し支えないはずだ」


 胸を張って話し切る。


 裏切る気など本当にない。この一ヶ月、俺はいろいろ安全のためにグリムに同行してもらって街をぶらぶらした。活気に溢れる国民を見ながら思った。


 魔族だろうと人間族だろうと何ら変わらない。ほんの少し見た目と持ち前の能力が違うだけ。結局は同じなんだと。


 本能とは違う、思考を得た生物故の欠点。

 単に他者との差を深く意識しているだけだ。初めは小さな亀裂、そこで話し合いなりなんなりすれば“わかり合えた”ものを、先人たちは戦うことを選んでしまった結果。


「俺がこいつに殺されるなんてことは絶対にないから、その点に関しては心配無用だ」


 スパイが俺を睨みつけてくる。


 事実を述べただけだから、そんなに睨まないでほしいなと苦笑する。


「最後にベルグスの処遇だが殺すつもりはない」


 当然批判の嵐に見舞われたが、フレンの協力もあって落ち着かせてから続けた。


「当然罰は与える――魔界の永久追放だ。従って〈八天王〉が8人から7人に減るから〈七の忠臣(ヘタイロイ)〉に改名する。おいおい変えるつもりだが、とりあえず半年はこれでいく」


 賑やかな玉座の間。“魔王の命令”だと言ったら不満そうではあったものの引き下がったのでため息と安堵の息を漏らす。


「すまないな。もっと良い名前を考えておくから。あんたたちからどう思われてるかは知らないが、俺が〈魔王〉である以上、人間より魔族を優先する。じゃ、他の詳しい要件は後日伝えるから」


 そう言い残してスパイを担ごうとしたが、面倒になったので魔力で浮かべてから一緒に玉座の間を後にした。




 ◆◆◆




 リルの弔いを終えたグリムと合流すると感謝された。


 気恥ずかしさを誤魔化すために、丁度いいから手伝ってくれと提案。共に物資をホーグドリアへと運んでもらった。もちろんバルムに宣言したことを守るためだ。


「どうして彼女も連れて行くんだい?」

「自分の行いがどのような結果を生み出すかを教えてやるためだ」


 そうだ、こいつには知ってもらわなければならない。

 目を細めてスパイへと視線を送った。


「……」


 黙ってはいるが、本当に逃げる気はないらしい。約束を守るとはスパイにしては律儀な奴だ。


 そうこうしている内にホーグドリアに到着。

 俺たちはその惨状を目の当たりにして息を呑んだ。


「来ていただき感謝します陛下」


 穏やかな微笑みを浮かべるバルムが心の救いだ。


 そんなバルムや信頼できる部下たちの働きで騒ぎは収まり、現在は治療や避難誘導、行方不明者の捜索などを行っている。


 物資を託したらすぐに暴走した奴らのところに行くつもりだったが、そうも言ってられない有り様だ。


 手伝うとするか。


 念の為と思い、スパイの様子を窺うと街の惨状に血の気が引いていた。やはり真面目な奴だ。


 本気で自分の行いが正しいと信じてやまなかったに違いない。それが現実を目にすることで迷いが生じていると。


「グリムは怪我人の治療を頼む。俺より上手だからな。俺は捜索とかをする」

「わかった。そっちは任せたよ」


 目を閉じて意識を集中。それを周囲に広げていき、魔力を感じ取る。


 ――そこか。


 魔力を感じた場所の瓦礫を浮かし、怪我人を発見してはグリムら治療班のもとへと連れて行った。中には既に死んでいる者もいた。


 同じようなことを何度も繰り返しつつ、建物だった瓦礫を加工、組み立てして簡易的な小屋を作成したりした。




 あらかた一段落つく頃には既に空で星が瞬いていた。魔界の雲が晴れるなんて珍しいこともあるんだな。


 星空の下、城で働くメイドを何人か連れて来て街の住人にご飯を振る舞っている。


 俺は物資とスパイを乗せてきた馬車に腰掛けていた。すると誰かに声をかけられた。


「お前の言うとおりだった」


 背中に投げかけられた言葉にはまるで覇気がなかった。呟きとも解釈できるくらいだ。


「人間も魔族も同じなんて信じられなかった。……だけど、この街を見ればアタシでもわかる」

「連れてきた甲斐があった」


 声が震えている。


 価値観の崩壊はまだ少女であるスパイには荷が重かったか。


「で、そろそろ名前を訊いても?」


 しばらくの沈黙の後、本当にぼそりと言った。


「……イーニャ・トレイル」

「イーニャね、なんだか和む響きだ。俺は――」

「レグルス・デーモンロード。もう聞いたわ」


 たしかに名乗ってはいたが、まさか覚えてるとは意外だ。


 仲良しに一歩近付いたのかね。


「陛下」

「レグルス」


 バルムとグリムが歩み寄ってきた。ふたりもどうやら作業が落ち着いたようだ。


 ついでだから今回の事件の顛末と俺の旅のことを話した。


「確かな軋轢はあった、ということですな。陛下の提案には賛同しますが、その者(イーニャ)以外の供はお連れにならないのですか?」

「ああ。バルムとグリムも一緒にと考えたが……ふたりには魔界(こっち)を任せたい。独断専行する奴がいないか監視を頼む」


 事情を説明するとふたりは快く引き受けてくれた。


 確認がてら地図を見ながらイーニャとどのような経路を進むかを話し合った。万が一に備えてグリムにも参加してもらった。


 俺は睡魔に負けて途中で眠ってしまったらしい。



 翌日、グリムに起こされてその衝撃的事実を知った。

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