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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『陥落』

「兄様っ、どうしたの!?」


 慌てて俺の顔を覗き込んでくるイーニャ。


 何をそんなに慌てているのか。


 おいおい、皆してどうしたと言うのだ。俺の顔に何かついているのか?


「……ん?」


 何やら左目の視界がぼやけ……なるほど。


 左手で頬に近付けると、温かい滴に触れた。


 ――嫌な予感がする。


「アカネ。姿を晒してでも、全力(・・)で己の身とイーニャを守れ」

「んっ」


 アカネは力強く頷く。


「シグマは、リュウヤとカグラを頼む」

「承知した」


 シグマも頷いて承諾してくれた。


「俺が戻るまで警戒を怠るな。――〈転移法(テイル)〉」


 状況を確認するためにニステア村に転移した。……が、何も問題はなさそうだ。


「イルギットか」


 炭鉱の街――イルギットに転移しようと〈転移法(テイル)〉を使ったが発動はしているのに移動する気配がない。


 何らかの反魔法か結界が働いているのは明らかだ。


 イルギットに直接転移できないなら近くに転移すれば良い。


 何度か位置調整をして転移できる場所を探った。


「――原因はこれか」


 転移すると目の前に結界が張られていた。


 隠蔽に特化した仕様のようだ。中の様子が見えもしないし感じもしない。


「邪魔なんだよ!」


 拳に魔力を集中させて結界を直接殴った。


 すると、ガラスのように結界はパリンと大きな音を立てて崩壊した。


「これで――〈転移法(テイル)〉」


 イルギットに辿り着いた俺は――言葉を失った。


「…………」


 悲劇や惨劇の言葉が相応しい惨状が俺の前には広がっていた。


 家屋は焼け落ち、そこら中に遺体が転がる。


「バンガス……!」


 世話になった〈炭鉱族(ドワーフ)〉のオヤジのもとへと走った。


「――わかっていた、ああ、わかっていたとも。街に入った時点で、あんたの魔力は感じなかった。答えは既に出ていた。だとしても、儚い希望を抱くくらいは許されよう。そう思わないか……バンガス」


 腹這いで倒れる知り合いに俺は話しかけた。


 もちろん返事など求めていない、ただの自己満足だ。現実を受け入れるための通過儀礼だ。


「……ん?」


 バンガスが何かを大事そうに抱きしめているのに気付いた。それは黒く、それでいて透き通った手のひらサイズの丸い球体だった。


 球体に俺が触れると、待ちかねていたかのようにひとりでに浮遊し、淡く黒い光を帯びてイヤリングの形へと変わった。


 そして、流れるように俺の左耳へと装着される。


「――どうだ、驚いただろ? あんちゃんなら気に入ってくれると思うぜ」


 イヤリングから聞き覚えのある声が聞こえた。他の誰でもない――バンガスのものだ。


 頭の中に5種の武器の姿が浮かんだ。


「完成していたのだな。遅くなって悪かった、バンガス。ありがたく使わせてもらおう」


 生き残っている者は……いるようだ。


「うぅっ、ひぐっ……うぅっ」


 泣きじゃくる少女がいた。――アクナだ。

 その傍らにはゴードンが倒れていた。瀕死の重傷を負っているようだ。


 事情を聞くのはこいつが最適だろう。


 回復魔法で治癒し、ゴードンから事情を聞いた。


「あなた様に、こうして助けられる日が来るとは、感謝いたします」

「礼なら何があったか説明してくれ」


 ゴードンは分かりやすくそれでいて簡潔に、この街に何が起こったかを話した。


 俺が指示した通りに行動し、ようやく軌道に乗ってきた矢先に奴らはいきなり攻めてきたらしい。


 〈法儀国カイゼルボード〉の旗を掲げ、更には妙な服装をした少年3人組がいたとすると、恐らくこちらが本隊だな。


 圧倒的な数の差で街がこの有り様になるのにそう時間はかからなかった。


「そいつらは何処へ向かった?」

「王都へ真っ直ぐ向かっていきました。恐らく、次に狙われるのは――」

冒険者の都(あそこ)か……」


 その方角を睨み付けた。


「ノルン様、申し訳ありませんでした。我々が不甲斐ないばかりに、機会を与えてくださったのに……この街を……守れませんでした」


 深々と頭を下げるゴードン。


 こらこら、アクナがどうすれば良いか戸惑っているだろうが。


「謝る必要はない。俺が甘かった。ぬるま湯に使って、それが心地良いお湯であると自分に言い聞かせていた。だが間違いだったようだ」


 この事態は予測できたはずだ。


 穏やかとは言い難くも平和な日々に慣れてしまい、すべき想定を怠っていた。


 だからこれは自分自身へのけじめとする。


「これから見聞きすることを他言しないでくれよ――展開」


 結界を5重に張り、外との繋がりを断つ。


 これで、今からこの街で起きる出来事は、ここにいる者たちしか知れない。


「世界よ(つづ)れ、(ことわり)(われ)が支配する。故に終わりを無きものに、死を生に記し直さん。我が奏でるは、世の理を外れし(しるべ)ぞ。さぁ、世界よ、聞き届けるが良い。()が導たる歌を――〈流転する鎮魂歌クラシオ・ジ・レクイエム〉」


 街を覆うほどの白く巨大な魔法陣が展開する。


 何処からともなく白き羽が舞い、天使の如し清らかな声で歌が世界を彩る。


「これは……なんと美しい」

「キレイ……」


 歌は聞く者全ての心を穏やかにし、羽が触れし者にはもう一度立ち上がる機会を与えた。


 蘇生を含めた完全回復魔法。それが――〈流転する鎮魂歌クラシオ・ジ・レクイエム〉である。


 蘇生の秘術と回復魔法を掛け合わせ、手を加えた俺のオリジナル魔法だ。


 街の民たちの蘇生と回復を終え、魔法陣が揺らいだ直後――世界から色が消えた。


「……違うな」


 単純に色が消えただけではない。全ての者が活動を停止している。世界の時が止まっていた。


 ――パリッ。


 空にひびが入った。


 自分でも何を考えているのかと疑いたくなるが、実際にひびが入っているのだから仕方ないだろう。


「やはり来るか」


 書物の中に何度か現れた存在、いや、もはや概念と言うべきかもしれない。


 世界の(ことわり)に反する者を断罪する抑止力。


 神の一柱――〈理の番人アクテリオゴス〉か……。

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