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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『どうする』

 俺、イーニャ、アカネ、シグマ、リュウヤ、カグラで同じ部屋に集まって今後の方針を話し合っていた。


 本当は俺が決めれば良いのだろうが、シグマ相手ならともかく〈勇者〉であるリュウヤとカグラの意見は聞いておきたかった。


 ちなみにシャロンにはとりあえずミニバルログナの姿でいてもらっている。


 人の姿にする魔法は安定したとは言え、シャロンを知っている人物がいれば怪しまれかねない――と、シグマが擁護してきたのでそれに同意したのだ。


「急がなきゃヤバイんじゃないか?」

「焦らなくて良い。今すぐに開戦するわけではない」


 焦るリュウヤを嗜め、話を続けた。


「少なくとも3日程度の時間はあるだろう」

「でも、転移魔法があるのでは?」


 落ち着いた様子でカグラが鋭い指摘をしてきた。


 師が良いと弟子も優秀だな。


 いや、師匠になったつもりはないが。


「転移魔法はお前らが想像するほど便利ではない。術者の度量によるが、大抵は一度に数人程しか転移できないのだ。魔力操作が難しい上に、消費魔力も単なる攻撃魔法とは段違いだしな」

「それに、王都には対転移魔法の陣が展開している。転移魔法を使用したとしても、陣の外にしか転移は不可能だ」


 俺の説明にシグマが補足した。


 知らなかっただろ、の鼻で笑ったのさえなければ素直に感謝してやったものを。


 事前に調べて知っているとも。

 グリム先生の戦争においての基本の教えである。


 しかし、シグマ(こいつ)はあの少年3人組のことを知らない。一人だけ魔法の行使能力が異様に高い奴がいた。恐らく魔法関連の〈特異能力(レガリア)〉持ちで間違いないだろう。


 となると、対転移魔法に対抗した魔法も使える可能性はある。が、魔力量は警戒するほどではなかったからな。


 実際にそうなってからでも対処は可能だろう。


「じゃあ、こことかは大丈夫なのかよ?」


 あのリュウヤが意外と的を得た質問をしてきたことに驚く。


「シグマの答えに付け加えよう。――王都や王国内の大きな首都には魔方陣が展開している、だ。つまりここも含まれる」

「兄様、そうなると小さな村落は含まれないのね」

「王国にとって重要ではないからな、守る必要がないと判断されているはずだ。そうだろ、シグマ」

「貴様の言う通りだ。小規模な村々が一つや2つ消えたところで、王国に損害はない」


 腕を組む仮面野郎(シグマ)に振ると、あっさりと答えられた。


 つまんない。


「そんなのってないだろ!」

「酷い……」


 淡々と事実を語る俺たち話の内容に〈勇者〉のふたりはご立腹のようだ。


 机をばんと勢い良く叩いて立ち上がるリュウヤ。


 辛そうな表情を浮かべるカグラ。


「国とはそういうものだ。全を優先し、個を見捨てることは当たり前だ」

「だけどよ、その村にいる人たちはどうなるんだよ……。もし法儀国が村を襲ったりしたら、王国はなにもしないのかよ?」

「そう聞こえなかったか?」

「そんなのって……ねえよ」


 怒ったり落ち込んだりと忙しい〈勇者〉殿だ。


「お前らが住んでいた世界がどれだけ平和だったかは知らない。だが、ここは別の世界だ。お前らが抱いている常識が、この世界でも常識だと思うな」

「……」


 悔しそうに拳を握りしめるリュウヤ。

 気持ちはわからなくもない。受け入れ難い現実など、世界には溢れている。


 感情や理性はまだまだ発展途上だな。戦闘技術面も含めてだ。


 こいつらの世界基準に当てはめると成人は20歳だったな。単純に年齢だけなら、少なくともあと4年はかかるのか。


 その頃にはさすがに俺が世界征服を成し遂げているぞ。


「落ち込むな。何のためにこうして話し合っていると思っているのだ……。本来は俺とイーニャが勝手に決めて良いことを、わざわざお前たちの意見を取り入れようとした。それくらい気付いてくれよな?」

「ノルン……まさか、俺たちが守るってことか?」

「さぁな。それは我らが〈勇者〉様が決めてくれ」


 答えをはぐらかしたのには理由がある。


 自分で事の選択を行う覚悟を養うためだ。

 だからもう少し重大さを付け加えよう。


「〈法儀国カイゼルボード〉の軍勢は(およ)そ一万。既にこの国へと進行している」


 消される直前に〈魔法鳥(ヴァード)〉で確認したからな。ついでに〈世の杯〉も使っておいたから間違いない。


「さて――〈勇者〉リュウヤ、並びにカグラ。お前たちに問う。此度の戦に参加するか?」

「それは……」


 顔を見合わせるふたり。


 今のこいつらに即決できるような内容ではないの承知の上だ。


「戦だ、戦争だ。酷く言えば殺し合いだ。相手を殺さなければ自分が、仲間が、愛する者が――殺される」


 話し合いで解決できるなら、人は他の種族ともうまくやっていけたのだろう。


「人道に反することを、半ば強制的に強いられる。ほんの少しでも迷いがあるなら行かない方が良い。戦場では躊躇した(迷った)奴から死んでいく。俺はお前たちに死んでほしいわけではないからな、それこそ強制はしないさ」


 重くなりすぎないように、同時に軽くもならないように気を配りながら話した。


 平和な世界で育ってきたこいつらに“人を殺す”行いはあまりにも大きな所業で、大きな影響を与えることになるのは明白だ。


 存分に悩め……と言ってやりたいが、〈法儀国〉の連中が王都に到着するのは早くて明後日。のんびりもしていられないのが事実だ。かと言って急かすのも忍びないしな。


 ふたりは話し合った。


 言い合いになったり、頭を抱えたりと見ている側としては楽しかった。


 俺は大人しく待った。


 “大人(おとな)”だからな。


「――決めたよ」


 やがてリュウヤがそう切り出した。


「答えを聞こう」


 何度か言おうとして言えず、それを繰り返す。


 わなわなとする少年を、隣に座る少女が支えた。


「ありがとう、カグラ。……俺は、俺たちは戦う。殺すのも、殺されるのも嫌だけど……なにもしないのはもっと嫌だから!」


 俺の目を真っ直ぐ、正面から見て自分の決意を伝えた。


「迷ってるばかりじゃ、守りたいものも守れないしな。だから、頼む! 俺を強くしてくれ! まだまだ、全然弱い俺だけど、絶対に強くなる。〈勇者〉の名前が恥ずかしくないくらい、強くなるから……お願いします!」


 そして、頭を下げた。


 〈勇者(少年)〉の覚悟は伝わった。カグラも同意すると言わんばかりにちゃんと伝えられたリュウヤに微笑んでいた。


「――シグマ」

「言われなくとも理解している」


 だから今度は俺たちが答える番だ。


「最終的な選択を行うのはお前たちだ。だが、どの選択もできるくらいに強くなってもらおう」

「「はい!!」」


 ふたりとも、良い返事だ。


 思わず笑みがこぼれた――その瞬間、何かが割れるような感覚が俺を襲った。


「なん……だ……?」

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