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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『平等』

「情報屋、いらなくない?」


 じとーっとした目を向けてくるシェナ。


「必要だ。お前の情報は頼りにしている」

「……あっそ」


 背中を向けられてしまった。


 フォローしたつもりだったのだが、どうやら失敗してしまったらしい。


「詳しく聞かせてくれないか。俺には“法儀国が動き出した程度”しかわからないのでな」


 俺がそう言うと、にんまりとした笑顔で「仕方ないなー」と嬉しそうに振り向いた。


「まだ公表されてないけど、国王に対して宣戦布告を行ったみたいなの」

「宣戦ふ――むぐ」


 大きな声で驚こうとした悪い口(イーニャ)を黙らせ、情報の続きを聞いた。


「相当慌ててるみたいだよ。〈魔界〉進行のための騎士を募ったばかりなのに、これでは士気が削がれるってさ」


 内容を聞いて俺は眉をしかめた。


「その言い方だと、まるで〈法儀国〉は脅威ではないと言っているみたいだな」

「実際ノルンの言う通りだと思う。国王や五老公は〈法儀国カイゼルボード〉を敵として見ていない。道端に転がる石ころみたいに。蹴り飛ばせばいいってね」

「だがタイミングが悪かった、と」

「そういうこと」


 〈魔界〉への進行を前に、余計ないざこざがあれば、ただでさえ徴兵で忙しい国民の不満は再び積み上げられる。


 国王や五老公の本命はあくまで“魔族撲滅”なのだから。


 連中は〈法儀国〉を甘く見ている。


 一般の騎士ならば本当に問題はないのだろう。それはシグマを見ていればわかる。


 しかし、相手は騎士だけではない。異世界人もいるのだ。


 その事実を知っているかどうかで、勝敗が分かれるほど大きな要因だ。


 個人的には別に王国が滅ぼうが滅ぶまいがどちらでも構わない。


 俺がやるか、その前に他の誰かにやられるかの違いだ。


「まったく……」


 構わなかった。今となっては過去形だ。


 何故ならシェナの前回の情報で、俺たちを〈エルファムル連合国〉が俺たちの様子を探ろうとしていると聞いてしまったからだ。


 〈エルファムル連合国〉は亜人国家で、王を筆頭としているが平等を掲げている国だ。故に差別を好まないし断じて認めない。奴隷制度もなく、住まう者に仕事を分け与えている。


 それもこれも王である〈竜人姫〉の成せる業だとかなんとか……。


 彼の王とは交渉の席につきたいからな、下手にこの国を見捨てる(・・・・)選択はできなくなってしまったわけだ。


 武力行使で屈服させるのは簡単だろう。


 だがそれではいずれ反乱を招くのは目に見えている。


 だからこそ対等な立場で“交渉”したいのだ。


「悩み事?」


 シェナの顔がいつの間にか目の前にあり、集中しすぎていたことを悟った。


 もちろん、気付いていて寛容な心であえて近付くことを許可したのだ。


「なにか悩みがあるなら相談に乗るよ?」

「――その必要はないわ」


 俺とシェナの間にすっと入ってきたイーニャ。


 何やらご立腹のご様子で、どうしたのだろうか。


「兄様の相談は“私が”受けるから、あなたは法儀国の様子でも探ってきたら」


 父親を取られた娘のようだ。


 とりあえず頭を撫でておこう。


「知ってはいたけど、ずいぶんと気に入られてるね。なにしたの?」


 苦笑しながら尋ねてきた。


 今回の報酬はそれにしよう。


「命を救っただけだ。大したことではない」

「いや、それは大したことだよ……」


 さらっと言った俺に再び苦笑いを浮かべるシェナ。


 こうして何気なく見ていると、気のせいかシャロンを思い出す。


 親戚だったりしてな。もしそうなら世界の狭さを感じるな。


「イーニャの助言もあったが、〈法儀国〉の動向よりこの国の国王連中の探りを頼む」

「そっちでいいの?」

「気をつかってくれるとは優しくなったな」

「そ、そういうわけじゃないよ」


 最近、やたら人に目を背けられるのだが何なのだろう。


「感謝する。正直俺にとっては〈法儀国〉よりこの国の方が重要なのだよ」


 俺が倒すべきは国王や五老公だろうからな。


 〈法儀国カイゼルボード〉など、二の次で構わない……そう考えたい。先に対処するのは間違いなくこっちだろうがな。


「くれぐれも気を付けろ」

「ノルンの方が全然優しいよ……」


 微かに“私なんて”と聞こえたがそのあとは聞き取れなかった。


 確かなのは何か思い悩んでいる表情、悲しげな表情を見せたことだけだ。


「悩みがあるなら相談に乗るぞ?」

「……ふふ、ほら優しい。でも大丈夫……って言いたいけど、本当に辛くなったら頼るかも。そのときはよろしくね?」

「ああ、任せろ。特別に無償で頼らせてやろう」


 冗談に笑顔を返してシェナはこの場を後にした。


 俺は歩き出そうとするが、両手がぐいっと引っ張られる。


「あんなに仲がいいなんて、聞いてないんですけど」

「何故敬語? 戦において、情報は勝敗を左右する程の価値がある。そして、情報が重要になればなるほど危険度は増す。それをあいつは俺たちの代わりに担ってくれてるんだ」


 少し大袈裟に説明した。


 今のふてくされイーニャにはそれくらいが丁度良い。


「そう考えれば、邪険にするなどできまい」

「うぅ……」


 イーニャは納得いかなそうに唸る。


 もう一押し必要らしい。


イーニャ(お前)やアカネが危機に陥るのを俺は望まない。だからと言って俺は下手に動けない。それでは手詰まりになる。そんな時にあいつは現れたんだ」


 狙ったようなタイミングでな。

 むしろ本当に狙っていたのだろう。


 それでも俺が助かったのは事実だ。


「情報屋なんぞ危険に晒されるのは当たり前の仕事だ。安全な職など他にいくらでもあっただろうに、あいつは情報屋(それ)を選んだ。命を懸ける、その覚悟を俺は認めた。そうでなければ、頼りはしないさ」

「信じてるってこと?」


 上目遣いで尋ねてくる。


「そうだ。悪く言えば利用し、利用される関係。まともな例えならば価値がある情報に、それ相応の対価を払う対等な関係。つまり、仲良くするのもその一貫なんだよ」

「……ふぅ、わかった。そこまで言うなら特別に仲良くするのを許してあげる」


 渋々納得してくれたようだ。


 いやまぁ、何故お前の許可がいるんだ、とか思いはしたが余計なことは言うまい。


 アカネも早く祭りに行きたそうにしているからな。


「とりあえず面倒事は後で考えるとして、今日は祭りを思い切り楽しむぞ!」

「おー!」

「ん……」


 周りから見れば親子に見えるだろう俺たちは、盛大に盛り上がる祭りを存分に堪能した。


 祭りとはこんなにも楽しいものなのかと驚いたくらいだ。

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