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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『人格』

 勇気ある騎士を求む――などと国王から半ば強制的な指示が国民に下った。


「戦争って大規模なんだろ。人手は必要なんじゃないか?」


 能天気な発言をする〈人間族〉の希望たる〈勇者〉殿の馬鹿さ加減にはため息が出てしまう。


「間違ってはいない。だが考えてもみろ、人数が増えれば戦力が増える。比例して犠牲者も増えるのだよ。全ての人間が魔族に勝てるほどの力を持たないからな」

「そんなに魔族って強いのか……」

「だってよ、シグマ殿」


 ここで俺が強いと断言するのが良いのだろうが、変な誤解を招いても困るのでシグマに託した。


「殿ってなんだ? そうだな……私が戦ったのも一度だけだからな断言はできない」


 言いながらシグマは眉を歪める。


 結果は聞くまでもないな。


「勝ったのか!?」


 純粋や馬鹿はこういう時だけは便利だ。


 期待の眼差しに睨みを返す。


「……私の負けだ」

「はいはーい。その人はどんな人だったの?」


 イーニャが手を上げて質問する。


 馬鹿はもう一人いたのだった。


「名前くらいは聞いたことあるはずだ。〈漆黒の剣聖〉――バルレウス・ウィル・リンデベルト」


 バルムかぁ……。恐らくお前より良く知ってるぞ。


 顔に出ないように意識したのは言うまでもないだろう。


 武士道と並ぶ騎士道を胸に抱く人物だからな、人間たちの中でもバルムだけは認めるどころか尊敬するものさえいるらしい。


 わからなくもない。


 頷きかけて……深呼吸で誤魔化した。


「私がこの世界で尊敬する2人の人物の内の一人だ」


 ここにもいた。バルムを尊敬する人がいたよ。


 本人に言っても落ち着いた対応をされるんだろうなー。


 うん、簡単に想像できる。


「2人……となると、もう一人はもしかして序列1位だったりしてな」

「……」


 冗談のつもりだったのだよ。


 そんなに睨み付けるな、当たるとは思わないだろ。


「序列1位って、ひょっとして〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉の序列1位か!?」


 何故か興奮気味になるリュウヤ。


 こっちも確かに有名だったな。


 〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉序列1位、通称〈隻眼の剣聖〉――ギルシア・S(皇、スメラギ)・アイオン。


 こうも呼ばれている――人間族の頂点。


「高揚することか?」

「だって、人間の中で一番強いんだろ。やっぱ男なら最強には憧れるんだよ」

「最強ねぇ……。シグマ、実際序列1位の強さはどの程度なのだ?」

「〈剣聖〉の名に恥じない実力の持ち主だ。私も残念ながら直接戦ったところは見たことがない」


 俺が知る限りで〈剣聖〉のふたつ名を持つ人物はバルムとその序列1位殿だけだ。


 似たような名を持つ者ならもう一人いるが、今は気にしないで良いだろう。関与してくる様子もなさそうだしな。


「では、リュウヤは〈勇者〉の名前に恥じないほど強くならねばな」

「当然、そのつもりだぜ。見てろよぉ、すぐにあんたたちを追い越してやるからな!」

「だと、シグマ。追い越されぬように気を付けたまえ」

「貴様こそ油断しているとすぐに追い越されるぞ」


 鼻で笑って返す。


 カグラはともかく、リュウヤに追い越されるなど、よっぽど強力な〈特異能力(レガリア)〉が発現しない限りないな。


「それでは〈勇者〉リュウヤよ、本日の戦績を聞かせてもらおうか」

「うっ、それを聞くかよ……」


 明らかにばつが悪そうな顔をするリュウヤ。あまり芳しくないのは今日に始まったことではない。


「どうなのだ、シグマ」

「聞くまでもない。全て私の勝利だ。……だが、日に日に動きは良くなっているのも確かだ。今ならこの都周辺の魔物程度なら難なく倒せる」


 おや、意外と高評価だな。


 シグマが心なしか嬉しそうにも見える。


 師が弟子の成長を喜ぶと言ったところか。


「貴様の方こそどうなのだ?」


 お返しと言わんばかりにカグラの稽古の調子を訊いてきた。


「カグラの場合は、リュウヤのように経験を積むより方法を知るのが先決だからな。実践形式の稽古はほとんど行っていない。王国の騎士にも引けを取らないさ」


 と言うか、見ていたくせに。


 それを言うなら俺もだな。


「リュウヤも可能性が見えてきた。カグラも順調に実力を身に付けている。ふたりとも慢心せずに精進すれば、本当に俺たちを追い越せる日がやって来るかもしれないな」


 無論、追い越される気など全くないが、自信をつけるには丁度良い。


「さっ、堅苦しい話はここまでにして、今日は祭りだ。日々の疲れを吹き飛ばすほど楽しんでこい。くれぐれも羽目を外しすぎないようにな」

「おうよっ、行こうぜカグラ」

「ええ」


 〈勇者〉ふたりは元気良く喧騒が響く外へと走り出していった。


「お前も行ってこい、シグマ」

「私は……」


 肩に乗るミニバルログナ(シャロン)に視線を落とす。


「お前も祭りに行きたいよな?」

「キュー!」


 あの巨体を誇る〈魔獣〉だったとは思えないほど可愛らしい鳴き声で返事をした。


「だってよ。こいつは行きたがってるぜ」


 パチンっ。


 指を鳴らすと、ミニバルログナが光を帯びて姿を変えた。


「――ッ!?」


 成人前の純粋な男子よろしく、シャロンを目の前にして瞳を揺るがすシグマ。


「確認する。お前は、こいつの大好きなシャロンで間違いないか?」

「貴様ッ、誰が――」

「フフッ、全然変わっていなくて安心しました。はい、わたしがシャロンです」


 嘘は言っていないようだ。


「バルログナの時の記憶はあるのか?」

「あります。最初はわたしの意識すらなかったのですが、あの時……シグマ様を見つけた時にわたしは起きるように意識を取り戻しました」


 それはシグマがバルログナと初めて出会った時のことを言っていた。


 そのあとにシグマはシャロンを発見する。


「なら――バルログナの意識を出すことも可能だな」

「……はい」

「なんだと!?」


 驚きの声を上げるシグマ。


 おいおい、事前に話しておいたはずだぞ。


「言っただろ。シャロンとバルログナが同一人物……まぁこの際はそうしよう。仮に同一人物であったとしても、同一存在とは限らない。ふたつの意識、ふたつの人格を一つの身体で共有しているのだと」

「ノルン様のご推察通りです。わたしの中には〈魔獣バルログナ〉の人格も存在します」

「本当だったのか……」


 シグマからすれば複雑なのだろう。


 当然だ。愛する者が手を汚した事実だけでも精神に来るものがあるはずだが、その上現況たる〈魔獣バルログナ〉が身体を共有しているとなると……。


「ならばバルログナに変わってくれないか」

「それは……」


 渋るシャロン。


 彼女なりの心配があるわけか。


「案ずるな。ここには前と違ってイーニャとアカネがいるのだ。暴れるようなら容赦しない。それに――」


 不安そうな表情を浮かべるシャロンに微笑みかける。


「俺は〈魔獣バルログナ〉を悪い奴だと思っていない」


 目を丸くするシャロンとシグマ。


「貴様、いったいなにを言っているんだ? 相手は〈魔獣〉だぞ、そいつが悪くないなどあるはずが……」


 シャロンが手を伸ばして制止した。


「うんうん、違うの」


 首を振ってシグマの意見を否定したのだ。


「この方の仰る通り、バルログナは悪い方ではありません。なぜなら絶望の中死にかけていたわたしを助けたのは、心の中にいたシグマ様と――〈魔獣バルログナ〉ですから」


 予想はしていたが、やはりそう言うことだったか。

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