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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅

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『報せ』

「ノルンのやつめぇ、カグラの頭を撫でやがってー」

「おい、貴様。見惚れている場合ではないぞ」

「いて」


 呆けるリュウヤをシグマが軽くこずいた。


「なあ、シグマさん」

「なんだ」


 急に真面目な表情で名前を呼んできたので睨みを効かすシグマ。それに怯みつつも問いかけた。


「〈魔王〉を倒せば、この世界は平和になるんだよな?」


 純粋な疑問だった。


 もしかしたらリュウヤはそうであってほしいと、心の何処かで思っていたのかもしれない。


 〈魔王〉を倒しさえすれば世界は平和になり、自分たちはお役御免。晴れて帰還できると考えたのだろう。


「そうとは限らない」


 だが、シグマは諸悪の根元は王族や貴族だと思っている人物。訊く相手が違ったのかもしれない。


「……やっぱり、そう、だよな」


 希望を抱いた返事ではなく、リュウヤは残念だと苦笑を見せた。


「難しく考えなくていい。皆が笑っていられる平和、それが貴様の望むものだろう? ならば成せることを成して行けばいい。貴様は決して一人ではないのだから」

「一人ではない……」


 そう言われてちらりとカグラを見る。


「確かに、俺は一人じゃないな」

「なにから成せばいいかわからなければ、まずは自分の大切なものを守ることから始めればいい。いずれ、自ずと答えが出てくるからな」


 堅物のシグマにしてはまともな答えを出しのではないだろうか。


 その証拠にリュウヤの表情は明るさを取り戻していた。


「シグマさん、ありがとうな」

「礼には及ばん。さぁ、稽古を再開する」

「はいっ、よろしくお願いします!」


 元気に返事をする少年勇者。


 まだまだ未熟者で、世界を救うなんて偉業を成し遂げるには足りないものは山ほどある。


 しかし、それを成し遂げられる希望くらいは、目の前の少年から感じられたシグマであった。


「へぇ、シグマにしてはまともだな」


 密かに聞いていたが、意外にもちゃんとした返事をしているのに感心した。


 そんなシグマのおかげか、リュウヤの剣捌きが良くなっているように見える。


「シグマさんがどうしたの?」

「ん? ああ、リュウヤの悩み相談を受けたのさ」

「リュウヤが?」


 驚いたように訊き返してくるカグラ。


 まぁ、普段のリュウヤの様子では“悩み”なんて感情を抱くようには見えないからな。この反応は不自然ではない。


「あいつなりに〈勇者〉になったことについて、真剣に考えているのだろう。単なる猪突猛進やろうではなかったわけだ」

「猪突猛進……この世界にも四字熟語ってあるんだ」


 今度は別の意味で驚くカグラ。


 いや、それには少し複雑な事情があってだな……。


 俺としたことが迂闊だった。


「あー、それはだな……少し違うんだ。異世界人がこの世界にやって来るのは何もお前たちが初めてではない」


 それは紛れもない事実だ。


 いくつもの書物や文献の類いが残されているからだ。


 そこから王国の連中は別の世界の存在を知り、異世界人を故意にこの世界に招く〈勇者召喚〉魔法なるものを作り出した。


「先人の異世界人たちは、これを〈神隠し〉だと呼称していた」

「神隠し……」

「わかるのか?」

「うん。私たちの世界では、原因がわからない行方不明とかをそう言ってたの」


 どうやら誤魔化せたようで安心した。


「原因不明か。なるほど、さながら神が隠したのだと例えたわけだ」


 しかし、こいつらの世界にも〈神〉は存在するのだな。


 ただこの世界の神々のように明確なものではないらしいが。


「なあ、気になったのだが、そちらの世界には〈神〉はいるのか?」

「んー、いたって歴史では言われてるけど、実際にいたかどうかは証明できていないの」


 若干の悩むような唸りと共にカグラは答えた。


「すると、いなかった可能性もあるわけだ」

「うん、そうなる。だからこの世界には驚かされたの。空想上の神様や魔物なんて生き物がいるんだから」


 聞くところによると、彼らの世界には馬などの動物しかおらず、魔物などの生物は存在しないらしい。


「世界が違えば常識や理が異なる可能性はあると考えていたが……やはりだったな」



 国や種族によって考え方、価値観が違うのと似たようなものだ。


 それがこと世界になると規模も比例するわけだ。


「さて、こちらも稽古を続けよう。もう一度各属性ごとの魔力球を作ってくれ」

「はい!」


 それから俺がカグラを、シグマがリュウヤを稽古する日々が続いた。


 もやは稽古が日課になりつつあった2週間が過ぎた頃、事態は大きく動こうとしていた。


 気分転換に都を散歩していた時に、俺はそれを見かけてしまった。いや、聞いてしまったと言うべきか。


 人だかりができていたから気にせず通り過ぎようとしたが、話の内容が無視できるものではなかったのだ。


「――これより四の月の後、忌まわしき魔族が跋扈(ばっこ)する〈魔界〉への進軍を行うことが決まった。これにより、国王は国民から勇気ある騎士を集うと仰せになった」


 鎧を身につけた、如何にも騎士ですよと主張せんばかりの格好をした男が紙を見ながら、国王からのお言葉であると高らかに語っていた。


 わざわざあんなに大袈裟に紙を掲げる必要があるのか?


 ようは(てい)の良い人員補充だろ。


「もちろん、報酬は用意している。1年間の税の免除、及びその期間の生活に必要な資金を提供する」


 たかだか1年?


 3年から5年くらいにすれば良いものを……それでは国が保たないか。


 しかし、1年か一生か、どちらかを選べとはなかなか酷な選択だ。


「各々入念な準備を行い、指示を待て。国民たちの勇気ある選択を期待している。国王よりのお言葉は以上だ!」


 戦争の準備は自分たちでやれってことか。


 随分と投げやりな期待の抱き方だ。


 シグマが嫌になるのも頷ける。


 集まった期待された国民たちも口々に不満を露にしていた。


「どうする?」

「行くしかないだろ」

「だよな、行かなきゃ非難の嵐だもんな」


 周りが行くから自分たちも行かなければ責められる。


「あなた……」

「心配ない、必ず帰ってくるさ」


 俺はこんな者たちと戦わなくてはならないのか……。


 自然と拳に力が入っていた。


 くいくいと服の裾を引かれた。こうするのは一人しかいない。


「どうした、アカネ」

「……ん」


 視線を落とすと予想通りの人物がちょこんと立っていた。


 眉間を指差して頬を膨らませている。


「……あぁ、そうだな、すまない」


 優しいアカネに思わず笑みがこぼれる。


 だからお礼に頭を撫でてやった。


 目を細めて嬉しそうな表情を見せてくれるアカネに癒されたのは間違いないと断言できる。


 ついに王国も重い腰を上げたわけだ。


 こちらの状況を確認しておこうか……。


 俺は現状の確認と報告をするために、一旦〈魔界〉に戻ることにした。

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