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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『足りない』

「模擬戦闘をやる。遠慮するな、何処からでもかかってこい」


 カグラの稽古をイーニャに代わり俺が行うことにした。


「いきます!」


 できるだけ多種多様な魔法属性を使うように指示している。


 だが、言われたからすぐに実践が可能になるのはやはり驚きだ。


「〈ファイアーボール〉〈アイススピアー〉」


 魔方陣を展開し、そこから炎の球と氷の刺が放たれた。


 詠唱なし、名称あり。


 しかもふたつの魔法を同時に使うとはな。


「――!?」


 目の前で二種類の魔法はいきなり軌道を変えて衝突し、煙を巻き起こした。


 視界が奪われたのだ。


「顕現せよ――〈影斬(カゲキリ)〉」


 影を収束させて刀を形成して目を閉じる。


 煙を突き抜けて迫り来る氷の刺を斬り裂いた。


「〈暴れ狂う水嵐(ウォーターストーム)〉」


 声が聞こえた方に意識を向けるが背後から気配を感じた。


 地面を軽く踏んで土の壁で背後を守ると、さながら荒れる濁流のような凄まじい勢いの水が衝突する。


 すると、他の方向からも魔力を感じ取った。開いている場所は正面だけ。


 作戦に乗っても良いが、ここはあえて乗らないでおこう。


「――〈影斬り〉」


 周囲に意識を集中させて、向かってくる魔法の位置を把握。それらの進行方向に影の刀を形成して対消滅させた。


 視界が良くなってきた、その途端に急に全身が重くなる。


 どんどん重くなっていく。


 この感覚は身に覚えがあるぞ――重力魔法だ。


「〈ウィンド・ソード〉」


 頭上に風の剣が形成される。


 横から狙っても重力で落ちてしまうからだ。


 んー、まずいな。


「行っけえ!!」

「〈強化(ブースト)〉」


 身体能力強化をし、風の剣が俺に当たる直前で身を翻して間を抜ける。


「えっ!?」


 カグラの驚きの声が耳に届いた。


 そして重力魔法の範囲から一気に抜け出し、カグラとの距離を詰めようとしたが……、


「〈ファイアーボール〉〈アイススピアー〉」


 先程と同じ魔法の組み合わせ。


 同じ手は2度も通じないぞ。


 真っ直ぐ(・・・・)向かってくる炎の球と氷の刺を影の刀で斬り裂いた。爆発されると厄介だからな。


 そう、俺は確かに斬ったのだ。


「なるほど」


 だが斬ったはずの魔法が相も変わらず俺に迫っているではないか。


 思わず苦笑をこぼした。


 2種類の魔法を同時に発動、かつ2回連続で使用していたわけだ。


 一発目で2発目の魔法が丁度死角になるように調整した上で俺に放った。


 なかなか高度な技を使ってきやがる。


「おっと」


 冷静な分析をしている場合ではなかった。


 二の太刀で対応して難を逃れる。


「よし、ここまでだ――」

「危ない」


 突然終わりの指示を出したのに反応が間に合わず、カグラの魔法が発動した。


「大丈夫」


 パチンと指を鳴らして魔法を打ち消した。


「ご、ごめんなさい」


 ばっと頭を下げて謝罪するカグラ。


 容赦なく俺に無数の魔法を使ってきた奴とは思えない真面目なやつだ。


「気にするな。にしても魔法の使い方はかなり上手だ」

「ありがとうございます」


 本当に魔法を使うことに関しては上手だ。最後の追撃だって標的を自動で追いかけるようにしてあったのは見てわかった。


 しかしそれだけでは、戦場で生き残るとなるとまだ足りない。


 魔法使いは単純な剣士などの前衛の役割を果たす連中と違い、魔法を使うと言う性質上どうしても中衛から後衛を任される。


 故に近距離より遠距離に意識が向きがちなのだ。そこを突かれると魔法使いは途端に弱くなる。


 凄腕の剣士と凄腕の魔法使いの一対一の勝負だとどちらが勝つか?


 答えは――わからない。


 つまりどちらが勝つ可能性があるのだ。


 それは一重に距離の有利不利が関係してくる。


「お前は確かに魔法の扱いに長けている。ただ一つの場所から動かないのは良くない」


 俺が魔法が使えない凄腕の剣士なら、今頃カグラの首は胴体から離れていただろう。


「魔法は単なる便利な道具と同じだ。使い手がそれをしっかりと使いこなして初めて“強い”ものとなる」


 だから歴史では剣士、魔法使い、そしてそのどちらの要素を併せ持つ魔法剣士の順番で数を増やしているわけだ。


「幸い、お前は魔法を使うことに関してセンスが良い。魔法を極めるだけでもそれなりの強さを手に入れられるだろう」

「そうしたら……そうしたら、リュウヤを守れるかな……?」


 自信がなさそうにやや俯きながら訊いてきた。


「さあな、断言はできない」


 下手な慰めや励ましは逆効果だ。


 シグマくらいに一定の年齢に達すればそちらの方が良いのだろうが、まだまだ少年少女なこいつらにはな……。


「全てのものには必ず終わりがやって来る。己で招くか、他者の意思か、はたまた自然の摂理によるのかはわからないが、免れようのない道理だ」


 だから代わりに難しい話をしてやろう。


「〈勇者〉だろうと〈魔王〉だろうとそれは変わらない。だがお前たちはその肩書きがある以上、他の民よりも死が近い」

「私たちは好んで〈勇者〉になったわけじゃない」

「ああ、聞いているとも」


 リュウヤやカグラがいた世界では成人になるのは20歳だと聞いている。つまりこいつらはまだ子どもに等しいのだ。


 〈勇者〉の重荷を背負うのに、こいつらはまだ幼い。


「――逃げるか?」

「……っ」

「俺たちといれば難しい話ではない。お前たちが〈勇者〉になりたくないと望むなら協力しよう」


 我ながら卑怯な手口だ。


「どうして私たちを助けてくれるの?」


 カグラが首を傾げた。


 当然の疑問だ。


「リュウヤやお前の悩みが、他人のものだと思えないからだ。押し付けられた定めに葛藤させられ、どうしようかと立ち止まる。誰もが通過する道行きを進んでいる〈勇者(ふたり)〉がな」


 〈魔王〉としての企みはあれど、それも確かな本心だった。


「話を戻してだ。それでもお前たちが逃げずに歩み続けると……守りたいと言うなら、俺は背中を押そう」

「私は……リュウヤを守りたい。戦うのは嫌だけど、リュウヤがいなくなるのはもっと嫌だから」


 気持ちを吐露する少女の頭をぽんぽんと撫でる。


「覚悟は決まったようだな。まぁ、迷うのは悪いことではない。何度でも迷い、悩み、決意して進む。“大人になる”とはそういうことなのだろう」

「そうかもしれないね。ありがとう、なんだか楽になった」


 笑顔でお礼を言うカグラ。


「リュウヤを守るのは構わないが、それでお前が死んだら意味がない。ゆめゆめ忘れるな」

「ノルンの言うとおりね。うん、忘れないようにする」


 両手でガッツポーズをして答えた。


 本当に大丈夫なのかね。

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