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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『素人』

 現在俺が用意した空間にて〈勇者〉リュウヤとカグラの稽古の最中である。


「…………」


 俺は言葉を失っていた。


「はああぁぁあっ――うわぁ!?」


 威勢は良い。


「だはっ」


 本当に威勢だけは良いのだ。


 リュウヤはシグマに剣の稽古を受けていた。もちろん真剣ではなく、稽古用の木剣を使っている。


 結果は見ての通り酷い有様だ。


 正門での戦闘ではもう少しましだった気がするのに……。


「はぁ……」


 突進馬鹿(リュウヤ)に比べて、カグラは凄まじい才能を見せつけた。


 魔法においては“天才”と言うべきだ。


 レド(・・)とやらに軽く教わったらしいが、正直言ってそれだけとは信じ難い。


 初見の時に感じたのろまさがまるで嘘のように、イーニャに教えられたことをすぐにやってのけて見せる。


 イーニャ先生も呆けてしまう程だ。


「大丈夫かー?」

「こ、このくらいはできて当然。ここからよ、ここから!」


 ふんと鼻を鳴らすイーニャ。


 どうやらカグラの心配は必要ないようで安心した。


 凡人と天才をわかりやすく絵に描いたらこんな感じなのだろう。


「まだまだぁ!!」

「――ふん」


 剣を振り上げて向かってきたリュウヤを軽くあしらう。


 どうも動きが鈍い。重石(おもし)でも背負っているかのようだ。


「……もしや。シグマ、リュウヤ、一旦中止だ」

「何か打開策でもあるのか?」

「ん……ああ」


 言葉からしてシグマは既に、リュウヤの現在の力量を理解したらしい。


「こっちを使ってくれ」


 影を収束し、2本の剣を顕現させた。


 それを木剣と交換で2人に渡した。


「これって!?」

「真剣か……確かにこの者にはこちらの方が効果的だろう」


 いつも通りに戻ったシグマに対して、リュウヤは複雑な表情をしていた。


「顔が強張(こわば)ってるぞ」


 はーん。魔物はともかくとして、人に向けるのは初めてだな?


「案ずるな。貴様相手では傷一つ負わん」

「そうそう、もう思いっきりやってしまえ」


 あわよくばシグマに剣が刺さったりしたらガッツポーズでもしてらるのだがな。


「再開する」

「おう!」


 シグマが剣を正面に構えると、リュウヤも覚悟を決めて返事をした。


 争いがない環境にいた少年に、いきなり人と殺し合えと言うのは酷なのかもしれない。


 だが、強くなりたいと宣言した以上、もとがどうであれこの世界の常識になれてもらわねば困る。その常識を覆すほどの力があるなら話は別だが……。


「相手の隙を探せ」

「はい!」

「隙がなければ作れ」

「はい!」


 文句を言っていたわりには、シグマが何気に楽しんでいるように見えるのは気のせいではあるまい。


 意外に教える立場が似合っている。


 いずれ騎士教官にでもなってもらおうか、などと考えてしまうくらいには上手だった。


 レドの仕込みもあるのだろうが、リュウヤの動きが短時間でまともなものになっていった。


 それでもまだ素人には変わりないがな。


「リュウヤ。貴様の剣には迷いがある。他者を斬ることを恐れているな?」


 鋭い指摘を受けてばつが悪そうな顔をするリュウヤ。


 遅いか早いかの違いなだけで、必ずいずれは直面する壁だ。


「やっぱりわかる、よな……。魔物とかは化け物だから踏ん切りがつくんだ。それもレドさんのおかげだけどな」


 リュウヤは苦笑した。


 自分でも理解しているのだ。――このままでは駄目だと。


 俺も同じ課題を抱く身だ。気持ちはわからなくもない。


「克服したいか?」

「そりゃあできるならしたいさ。でも、どうしても“当たる”って身構えちゃうんだよなぁ」


 ……少し違った。


 何故なら俺は容赦なく足に剣を突き刺したりはするからだ。


「本心では人殺しを恐れているか」

「……本音ではその通りだよ。俺のいた世界じゃ、人殺しは“罪”なんだ。だからどうしてもブレーキがかかって、途中でやめちまう」


 苦悩しているのは見ているだけも感じられた。


「貴様の言っていることは間違いではない、至極当然だ」

「え……」


 まさか肯定されると思っていなかったリュウヤが目を丸くする。


「人を殺めることはどんな理由があろうと、貴様の言うように“罪“であるのだろう。だが、たとえ罪を背負ってでも守りたいと思えるものがあるから、私は刃を振るうのだ」

「……守りたいもの……」


 良いことを言うではないか。

 俺もシグマと同意見だ。


 リュウヤにも響いたらしい。

 視線の先にはイーニャに魔法を教わるカグラがいた。


「――もう一度、お願いします!」


 まだ迷いが吹っ切れたとは言い難いとしても、自分なりの答えを見出だそうとしているのは良い姿勢だ。


 一度人を殺めてしまったら、2度とその罪を拭うことは叶わない。


 〈魔王〉も〈勇者〉も関係なく、同じ悩みを抱えているとは笑える話だ。


 お昼の休憩では、俺が近くの店で買ってきたものを食べて各自で休んだ。


「カグラはどうだ?」

「わかって言ってるでしょ」


 もぐもぐとサンドイッチを頬張るイーニャに話しかけるとむっとした表情をされた。


 もちろんだとも。火を見るより明らかだ。

 才能に関して、全て持っていったのではないかと思えるほどにカグラは良くも悪くも異質だ。


「全属性に適性があると聞いた時点で、薄々察してはいたさ」

「単に適性があるだけなら珍しい話じゃないわ」

「うむ」

「あの子がすごいのは、全属性を使いこなせる(・・・・・・)こと。男の子の方と違って肝が座っているのもね」


 正門での土壇場が起因しているとすれば、もとより持ち合わせた度量だろうな。


 リュウヤはともかく、カグラは扱いを間違えれば余計な被害を招きかねない。


「カグラは俺が教えよう」

「兄様が?」

「ああ。本当ならもっとあとにするつもりだったがな。状況が状況だ、わがままも言ってられまい」


 そうだ。もしリュウヤが命の危機に陥ったとすれば、カグラは力を暴走させる危険性がある。


 まだ成人したばかりの少女に精神の安定を求めるのはなかなか難しい注文だろうが、やってもらわねばならない。


 〈勇者〉なのだから。


 年頃の少年少女に相応しくきゃっきゃと楽しそうに食事するふたりを眺めて頬を緩ませる。


「リュウヤはこのままシグマに任せるのが良い。カグラは俺が教えるから……」

「私は何をすればいいの?」

「アカネと同じように王国の同行を探ってくれ。そろそろ何らかの動きを見せるだろうからな」


 ふたりの稽古中、どうしても暇になるアカネには都に広がる噂話などを集めてもらっていた。


 大事な情報収集だ。


「構わないか?」

「もちろん、この私に任せて」


 胸を張るイーニャ。


 毎度のことだが、お前の謎の自信の出所が知りたい。


「いってきます」

「いってらっしゃい、気を付けてな」

「うん!」


 まるで子どものように眩しい笑顔で元気に空間の外へと出ていった。


 休憩はそろそろ終わりだ。


 俺自身の能力向上のためにも、カグラには頑張ってもらおう。

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