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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『保留』

「聞かなかったことにするか?」


 あえて俺から逃げ道を作ってやる。


 情報屋としての腕前は確かだ。今後も利用したいと思えるくらいにな。


「大丈夫。ありがとう」


 俺の気遣いはあっさりと一蹴されてしまう。


「怖くないって言ったら嘘になるけど、アナタだから大丈夫。数々の行いが悪い人じゃないって物語ってるし、それにいい名前だったしさ」

「褒めるなよ、照れるだろ」

「真顔で言われても信じられないよー」


 そう言ってシェナは冗談っぽく笑った。


 こんな風に笑えるのだな。

 一人で勝手に感心した。


「しつもーん」


 わざわざ手を上げてアピールしてきた。


「聞くだけ聞こう」


 この場合の問いは限られる。


 目的は何だ、何故旅をしているのか、名前を偽る理由などだろう。


「目的は?」


 顎に人差し指を添えて首を傾げる。


 やはり予想通りだ。

 俺がシェナの立場なら同じ質問をするからな。


「提供する情報次第だな」

「うげっ、やっぱりそう来たか」


 だから俺も情報屋相手に相応しい答えを返した。


 苦笑いを浮かべるシェナ。


「当然だろう。お前は情報屋だからな」

「マジメだなー。なら、有名な序列4位(シグマ)を仲間にできた理由も?」

「情報の報酬だ」

「むーわかった。とびきりの情報を掴んできてやるんだから」


 何だかんだで楽しそうに見えるのは気のせいではないだろう。


 難しい試練ほど燃えると言うやつか。俺にはよくわからない部類だな。


「あ、そうだ。もう一つ耳寄りな情報。アナタたちに注目してるのは王国だけじゃないよ」

「法儀国だろ。ぼこぼこに負かしてやったからな」

「〈特異能力(レガリア)〉保持者の異世界人3人を相手によく勝てたよね……じゃなくて。そこもそうだけど、亜人国家〈エルファムル連合国〉のほう」

「エルファムル?」


 聞いたことが気がする。


「そう。噂では“竜”の血を引くお姫様が王様だとか」


 〈竜〉または〈ドラゴン〉とも呼ばれる人外の最強種族と言われている。バッカスのギルド名〈ボルボレイン〉の由来になった〈神龍ボルボレイク〉と同じ種族だ。


 もっとも、〈神龍ボルボレイク〉に関しては“神”になったとされているがな。


 〈竜〉たちは南の大陸に住んでいて、世情には不干渉だと聞いている。


 俺としてもそれが望ましい。何故なら“最強種族”の名前は伊達ではない。一体で一国を滅ぼせると聞けば、脅威の度合いは十分に理解できる。


 過去には〈魔族〉〈竜〉〈悪魔〉と名前だけでも圧力を感じさせる連中が戦争を行っていた時代があるとかないとか。


 グリム先生から教わった時は心底安心した記憶がある。


 ――過去でよかった、と。


「俺は知らず知らずの内に有名人ってわけだ」

「あんなに目立てば当然ね」

「ははは……」


 乾いた笑いしか出せない。


「具体的にどんな様子だ?」


 竜の血を継ぐお姫様には、ぜひとも一度お目にかかりたいと思っている。


 交渉のためにもな。


「んー、具体的にはまだ様子見って感じ。どんな人物なのかを探ってる印象だよ」

「掴みかねてるわけだ」

「うん。アナタの行動は王族や貴族からすれば重罪だけど、国民にとっては悪ではないからね」


 俺はそれを聞いて首を傾げた。


「待て。その口ぶりだと、国民にも俺の噂は広がっているのか?」

「当たり前じゃん」


 爽やかな笑顔でシェナはさらっと肯定した。


 俺は反対に複雑な表情をしている。


「どう?」


 報酬を得るのに値するかどうかを訊いてきた。


「十分だ」


 これではどちらが情報屋なのか……。


「シグマが俺たちの旅に同行したのは、あいつ自身が申し出てきたからだ。理由は一つの目的のため……今話せるのはここまでだ」

「えっ、そうなの!? 序列4位に認められるなんてさすがだね」


 俺からの報酬を聞いてシェナは目を丸くする。


 まさか俺が誘ったとか考えていたのではあるまいな?


「ではな。眠くなってきたから戻る」

「うん、またね」

「ああ、無事を祈っている」


 俺がそう言うと急にもじもじしだすシェナ。


「え、それって愛のこく――」

「新しい情報が欲しいだけだ!」


 毎度恒例行事にでもする気なのか、俺は言うだけ言って宿屋へと転移した。


 部屋に戻ると椅子に腰かけて腕を組む。


 〈アインノドゥス王国〉に〈法儀国カイゼルボード〉、さらには〈エルファムル連合国〉までもが加わるなどやめてほしいものだ。


 〈人間族〉だけでも大変なのに、別の種族が交ざるとなるとより面倒が増える。


 だが下手なことをしなければ奴らは邪魔をしてこないはずだ。


 〈人間族〉と〈魔族〉の争いにも、保守的になり何も干渉はしていない。


 だから俺への調査は単なる探求、または謎の人物が脅威になり得るかの判断材料と考えて良いだろう。


 じきに会いに行く予定だし、それが早まっても俺は別に構わないが、アカネがどういう対応を受けるかが心配なのだ。


 〈鬼人族〉と〈吸血種(ヴァンパイア)〉の混血種など非常に珍しいからな。


 まったく、イーニャの行き当たりばったりにここまで苦労させられるとは思わなんだ。


 しかしそれも旅の一興。存分に堪能しようではないか。


 敵対の意思を見せるなら容赦しないし、友好的なら手を取るだけだ。


 できれば後者の方が望ましい。


 シェナは言ってなかったが、〈エルファムル連合国〉にはもう一人注意しなければならない人物がいる。


 ――〈獣王〉だ。


 シェナが言っていた竜の血を引く姫、通称〈竜人姫〉を育てた張本人である。


 一度相対したバルムも相当な実力者だと評価していた。

 あの〈漆黒の剣聖〉バルレウス・ウィル・リンデベルトが高評価しているのだぞ。


 並の実力者ではないのは確かだ。


 頭を抱えるような案件が日に日に増えていく……。


 しかし、丁度良いのかもしれない。


 一度〈魔界〉に戻ってグリムやフレンの意見を聞いてみよう。


 やはりこういうのは先人から学ぶべきものだろう。


 よし決まりだ。では早速明日にでも帰る……のは疲れるので明後日にしよう。


「おやすみ」


 静かに眠るふたりにそう言ってから俺は目を閉じた。

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