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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『情報屋』

 シグマと一通り話した後、俺たちは宿屋へ戻った。


 部屋に入ると、寝ていたはずのイーニャが起きていた。不機嫌なのか腕組んで頬を膨らませていた。


「むぅー」

「どうした、提灯(ちょうちん)みたいな顔して」

「どこ行ってたの?」


 何だ、そういうことか。


 黙って出ていったから、何処かへ行ってしまったのでは……とでも考えたのだろう。


「シグマと話をしていただけだ」

「もしかして〈勇者〉の2人のこと?」


 変に察しが良いんだから……。


 的確な予測をしてくるイーニャに苦笑する。


 こいつがただの馬鹿ではないと認めざるを得ない証拠だ。


「そうだ」


 別に隠す必要もないしな。


 俺は素直に肯定した。


「そう……」


 すると、視線を落とすイーニャ。


 本当に自分の選択が正しかったのか不安になっている、そんなところだな。


「もしかして、本当に同行させて良かったのか悩んでいるのか?」

「うっ……そうよ、悪い」


 ぷいっとそっぽを向く。


 典型的なふてくされの反応だ。


「悪くないさ。悩むのは知識ある者の特権だからな、存分に悩みたまえ」

「なにそれ、もうちょっと心配しなさいよ」


 じとーっとした目を向けてくる。


「大した内容ならしてやるさ」

「私にとっては大してだったらどうするのよ?」

「もちろん心配する」

「なんで?」


 間髪入れず聞き返してきた。


「案内人がいなくなったら困るからな」

「ふーん」

「それに、どうやらお前は…………」


 やめろ。

 期待に満ちた眼差しを向けてくるな。


 よく分からない恥ずかしさが込み上げてくるだろうが。


「お前は、なんなのー?」


 わざと口角を上げて煽ってきやがった。


 こいつ、絶対わかっててやってるな。


「今日はもう遅い。早く寝るぞ」

「あっ、ずるい。すごく気になるー」

「アカネが起きるだろうが、静かにしろ」


 “俺”のベッドで静かな寝息を奏でるアカネに視線を送りながらイーニャを諭した。


「けち」

「俺だって恥ずかしさを感じるんだ。勘弁してくれ」


 部屋に備え付けられた椅子に腰かける。


「恥ずかしい……そ、そうなんだ。なら特別に許してあげる」

「そうしてくれるとたす――」

「でも、いつか絶対に言ってよね。じゃなきゃ許さないから」


 ニコッと笑顔で宣言されてしまっては、応えるほかないだろう。


「わかった。だからそれまで死ぬなよ」

「大丈夫」


 謎の自信で胸を張るイーニャ。


「だって、レグルス(あなた)が守ってくれるからね」


 迷いのない瞳。俺を心の底から信頼してくれているのがわかる。


 よくもまあ恥ずかしげもなくそんなことを堂々と言えるものだ。


 世の乙女たちは皆こうなのか……?


「お前の言う通りだな」


 それはもはや契約などと言う堅苦しいものではなく、約束と言う絆へと変わっていたのかもしれない。



 今後の予定などを話している途中でイーニャはいつの間にか眠ってしまっていた。


 コンコン。


 タイミングを見計らって窓を軽く叩く音がした。


 魔力で誰かはわかっている――情報屋のシェナだ。


「待ってろ、すぐ行く」


 カーテン越しに見える人影は頷いてから姿を消した。


 消えた?


 まさか本体のところに行けと言うのか?


 数秒の思考の後、俺はふたりの乙女が眠る部屋を出た。転移魔法でな。


「――スゴいね、ホントにわかってたんだ」

「俺は嘘が苦手でな」


 場所は既に調べておいたので一瞬でそこに転移した。するとシェナがぱちぱちと拍手しながら俺を称賛してくれた。


「ほら見てー、ちゃんとつけてあげたんだから感謝してよね」


 耳元につけている、俺が渡した耳飾りを揺らしてアピールする。


「ああ」

「わっ、ハクジョーな反応」


 わざとらしく大袈裟な反応をして落ち込むシェナ。


「用件は何だ?」


 俺がそう言うとピタリと動きを止めた。


「アナタの予想通りに連中(・・)が動き出したよ」


 おどけた態度から一変して真剣な表情で言った。


 連中――国王直轄の暗殺部隊だな。


「名前はわからないか?」

「それは報酬次第」

「俺の本名」

「……え、マジ?」


 先程とは違った意味で固まるシェナ。


 こいつも伊達や酔狂で情報屋をやっていないだろうから薄々は気付いていたはずだ。ノルンが偽名であることくらいな。


 それにしてもこんなに驚く内容だとは思えないが……。


「いいの?」

「くどい」

「待って、心の準備が。すー、はー、すー、はー」


 深呼吸をして心を落ち着かせる。


 形から入る奴だな。


「よし。イイよ、教えて」

「先に情報だ。それにファーストネームしか言えな――」

「全然大丈夫!」


 食い気味に身を乗り出す。


「裏の世界では、もはや知らぬ者なしのチョー有名人ノルンの本名を知れるんだから、ファーストだけでもお釣りが来るわ」


 遅かれ早かれ必ず世界中に知れ渡ることになる。


 真実を知った時、この少女はいったいどんなに反応をするのか見物だ。


 密かな楽しみを増やし、俺はシェナから国王直轄の暗殺部隊の呼称を聞こうとした。


「その名も〈デシエマ――むぐっ」


 背中に寒気が走り、俺の身体は勝手に動いていた。


 シェナに先を言わせまいと手で口を塞いだのだ。呼吸はできるように鼻は塞がなかった。


 完全に無意識の動きだったが、優しさはあるようで助かった。


「焦らずに落ち着いて、そのまま答えろ。イエスなら一度頷き、ノーなら首を横に振れ。良いか?」

「ふぅ……」


 コクンと頷いた。


 イエスだ。


「よし。その名前を今まで口にしたことはあるか?」

「ふぅふぅ……」


 首を横に振った。


 ノーだ。


 だから問題なかったわけだ。


「手を離すがまだ言葉は発するな」

「ふぅ……」


 頷いたので宣言通りシェナの口元から手を離した。


 俺の尋常でない雰囲気を感じ取っているようだ。ちゃんと言いつけを守って黙っている。


「頭の中で例の名前を思い浮かべろ」

「……」


 いや、もう別に頷かなくて良いのだが気にしないでおこう。緊張が解かれるよりはましだ。


「〈思考解析(アナリス)〉」


 シェナの額に手を翳して思考を読み取る。


 ――〈デシエマター〉


 自分の直感を信じて、思考を読み取りついでに言葉の解析ができる魔法を使って正解だったらしい。


「なるほどな。許された者以外が名を口にすると死ぬようになっているわけだ」

「――っ!?」


 俺の発言にさすがのシェナも驚きを隠せないご様子。


 息を呑む音がしっかり聞こえたぞ。


 本当は死ぬのではない。転移魔法が発動するだけだ。


 恐らく転移してくるのは〈デシエマター〉の連中と見て間違いないな。そうなれば生き残れる確率は極めて低いだろうから、死んだも同然だ。


「これは面白い。さすがだ、シェナ」


 頭を撫でて褒めてやると困惑した表情を浮かべた。


「……あぁ、もう喋って良いぞ」

「ぷはー、なんなのよもぉー」


 一気に緊張が抜けたのか、文句を言いながらその場にへたり込んだ。若干涙目なのは触れるべからず。


「怖い思いをさせてすまない。俺が迂闊だった」

「ううん、いいよ。助けてくれたんでしょ? だからいいよ」


 感じた恐怖を残しつつも、俺に心配をかけまいとしているのか精一杯の微笑みを見せてくれるシェナ。


 耳飾りがあるからここまで大袈裟にする必要はなかったのだろうが、身体が勝手に動いたせいにしよう。


「報酬だ」


 もう一度シェナの額に手を翳し、俺の名前を思考に直接伝えた。


 “レグルス・デーモンロード”と言う〈魔王〉としての名をフルネームでだ。


 目を見開くシェナ。


 つい笑ってしまうくらい良い反応だ。


「デーモ――むぐ」


 今度は自分の手で口を塞いだ。


 “デーモンロード”は歴代の〈魔王〉が名乗ってきた名前だから魔族以外なら驚くのが普通だ。


 言ったら駄目だと察したようらしい。


 当たり前だ、何のために思考に直接伝えたのかわからない奴では困る。


「うそ……じゃ、ないよね?」


 恐る恐る訊いてきた。


「言っただろ、俺は嘘が苦手なのだ。あとな……取って食べたりしないから安心しろ」

「そう……そうよね、食べる気ならとっくの昔に食べてるよね、アハハー。――ホントに食べない?」

「お前って意外としつこいな」

「だ、だって、どっかの大物だとは思ってたけど……ねえ?」


 俺に訊くな。

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