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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『確認』

「よくそれで信じれたな……」


 あまりの安直さにため息が出る。


「自分でも不思議に思うさ。けどよ、なんていうか言葉にできないくらい凄い人なんだって」


 そんな凄い人なら是非とも一度お目にかかりたいものだ。


「……」


 くいくいと袖を引っ張られる。犯人に視線を下ろすとシグマの様子を見るように促された。すると、あのシグマが眉を歪めているではないか。これはただ事ではないぞ。


「シグマ、凄い顔になってるぞ」

「ハッ……」

「もしかしてお前、レドとか言う奴を知っているのではないか?」


 目だけではなく顔まで逸らしやがった。


 明らかに知ってるだろ!


 俺の鋭い視線の圧力に耐えきれず、渋々話し始めた。


「10年ほど前、似た人物に助けられたことがある。その者もレド(・・)と名乗ったはずだ。確かに掴み所のなかったような気がする。記憶が曖昧で同一人物かは怪しいがな」


 開き直って男らしい顔で語りやがった。


「うぅむ……。どんな奴なのか凄く気になるが、とりあえずレドとやらの話は置いておこう」


 シグマに何か負けた気がするが、いずれ俺が勝つから首を洗って待っていろ。


「一番重要なことだ。お前たちは強くなって何がしたい?」


 なんとなく返答は予想できているとしても、やはり本人たちの口から聞いておきたかった。


「苦しんでる人たちを助けたい。そのために魔族を、魔王を倒す。なんだかんだ言っても俺たちは結局〈勇者〉だからな。もちろん他にも理由はあるぞ」

「困っている時はお互い様って言うでしょ。私は見て見ぬ振りはしたくないの。だから私の答えもリュウヤと一緒、少しでも多くの苦しんでいる人たちを助けたい」


 若いな。戦場では早めに死ぬ奴の考え方だ。


 だが……嫌いではない。


「だってさ、イーニャ」

「へ!?」

「今回はお前が決めろ。こいつらを連れていくか否かを」

「そんなぁー」


 情けない声を出しながらも真剣に考え込むイーニャ。プレッシャーと言う名の、若い〈勇者〉ふたりの熱い視線が注がれている。


「……シグマが増えたばっかりだし、この際2人が増えたって変わらないわ。連れていきましょ、兄様」

「まぁ、そうなるよな。ふたりともイーニャに感謝するのだな。魔法の稽古をしてくれるらしい。ちなみに剣の稽古はシグマだ」

「どうして私になるんだ! 貴様はどうした、貴様は!」


 名指しされて文句を言うシグマ。


「もとあれ(・・)の一人だし、教えるのもうまいのではと思ったのだが……。そうかぁー、シグマともあろうお方がちゃんと教えられる自信がないのかぁー、それは仕方ないなー、うーんどうしたものかー」


 とてつもない棒読みで挑発すると、ぷるぷると握りしめた拳を震わせる。


「いいだろう。私が小僧を貴様なんぞより素晴らしい剣の使い手にしてやる」


 いやぁ……ちょろいわ。


 顔に出そうになったので咳払いをして誤魔化した。


「さぁて、デザートだ。旅のお供が増えためでたい席だ、美味しくいただこうではないか」


 合図をしてデザートを運んでもらう。


 険悪な空気から一転、全員が華やかな盛り付けがされたデザートを存分に堪能した。




 ◆◆◆




 話があるとシグマに呼び出され、女子ふたりを寝かせてから部屋を出た。

 リュウヤとカグラには、今日はひとまず自分たちの宿屋に戻らせた。何処かへ行ってしまわないかと心配されたが、約束を(たが)えるほど落ちぶれてはいないと返した。


 アカネは恐らく起きているだろうが、イーニャを守ってくれと耳元で囁いておいたから大丈夫だ。


 水の都のあちこちにある公園の一ヶ所。

 そこで相変わらずの仁王立ちで待っていたので、見つけるのに時間はかからなかった。


「待たせたか?」

「いや、5分ほどだ」


 待ってたのだな。


 さりげなくアピールしてくるのはシグマらしいよ。これで本人に自覚があるかどうか……。


「あそこで話そう」

「わかった」


 公園の中の数カ所に設置されたベンチの一つに仲良く腰掛ける。


 人払いはわざわざする必要はないようだ。仮面をつけたそこそこの身長の男が仁王立ちしてたら近寄ろうとはまず思わない。


 シグマが俺を呼んだ理由は検討がついていた。


「一度敵対した私が言うのは筋違いだと承知している。だがあえて言おう。なぜ〈勇者〉を引き入れたんだ?」


 だよな。お前なら当然そう訊いてくると思ったよ。


「俺としてはどちらでも良かった」


 〈魔王()〉と〈勇者(あいつ)〉は相容れない存在。


 善と悪。希望と絶望。生と死。


 対になるものを共に存在させ、対立させることで世界は均衡を保っている。


 シグマが行ったように、リュウヤはまだまだ小僧に過ぎないがこれから確実に強くなる。そう断言できるんだ。


「だからイーニャ(彼女)に判断を委ねたのか」

「あいつは馬鹿でも愚かではない。ようやく確固たる自分を獲得しようとしている段階。イーニャ自身の今後のために選ばせたんだ」


 仲間とよく例えたとしても、内心では本当にそうなのかと葛藤している部分がある。


 始まりは協力関係だった。


 しかし、旅を通じて俺たちは……。


「信頼しているわけか」

「どうなんだろうな、正直自分でもよくわからない」


 まさかシグマなんかに話す羽目になるとは思わなかった。


「私から見れば、貴様は確実にイーニャ(彼女)を信頼しているよ。アカネ(あの娘)も同様にな」

「そうか?」

「そうさ。2人の話をする時、貴様は嬉しそうに感じる。言葉遣いも柔らかくなっているしな」

「そうか……」


 そうだったのか……。


 言われて初めて気付いた事実だった。


 見栄を張っていただけなのかもしれないな。


 〈魔王〉は孤高の存在でなければならない。一人で戦わなくてはならない。一番の理由は――決まっている。


 思わず微笑する。


「では、俺が信じるイーニャを信じろ。それがお前の問いへの答えだ」

「命を救われた身だ。単なる確認、もとより疑ってはいないとも」

「よく言う」


 俺とシグマは笑った。楽しそうに笑い合ったのだ。

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