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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『押しかける』

「アカネといると、つい話し込んでしまう。自重せねば……。すまないな、こんな話つまらないだろう?」


 ふるふると(かぶり)を振る。


 それからニコッと良い笑顔を見せてくれるものだから、つい抱きしめたくなる。


 まぁ、どんな思惑や策略があるにせよ、俺は全てを悉くうまく対処して見せようぞ。


「これはこれは冒険者殿、こんなところでどうされたのですか?」


 外壁の見回りに来た騎士に話しかけられた。


 都に入る際に手続きをしてくれたのと同じ人物だった。


「都全体を見渡したくてな。下から見るのも良いが、上から見るのもまた一興」

「左様でしたか。同感です、ここからの都の眺めは格別です」


 俺と同じように都に体の向きを変えて同意した。


 外壁は無闇に立ち入ってはならない場所のはず。注意をしないのはまだ新米だからかな。


「一つ訊きたい」

「はい、なんでしょう?」

「勇者はいつ都に来たのだ?」

「1週間ほど前からです。――ここだけの話、どうも、待ち人がここに来るらしいのですよ」


 小声で教えてくれた。つまり騎士の間での機密事項なわけだ。


 理由はわからないが、新米騎士殿は俺に信頼を寄せてくれているらしい。


「ありがたいが……良いのか、そんな情報を俺に教えて」

「その、なんというか悪い人ではなさそうなので……」

「たった2度の会話で相手を判断するのは軽薄だぞ」


 すると新米騎士は必死に首を降った。


 もじもじと何やら言い淀んでいる。もしかしたら別の理由があるのかもしれない。


「聞かせてもらえるか?」


 できるだけ優しく心がけて問いかけると頷いて承諾した。


「ボクは〈特異能力(レガリア)〉保持者なんです。と言っても戦いとかに使えるわけではなくて、その……良い人か悪い人かがわかる、みたいな……」

「なるほど、お前の〈特異能力(レガリア)〉では俺が良い人にしてくれたわけだ」

「……はい。感覚的なものなんで、はっきりと説明はできませんが……。それに昼間、勇者様を手伝ったりしていましたし……。ボクたち騎士は命令で“死ぬような危機でなければ放っておくように”と命じられていますから、すごく歯痒い気持ちで……そんな時、冒険者殿が現れたんです」


 目を輝かせて、その情景を思い返しているのだろう。


 素直と言うか真っ直ぐと言うか、あの素人勇者に似ているな。


「その気持ちを忘れるな少年。いずれお前の力を必要とする者が現れた時はちゃんと自分の意思を貫くのだぞ。地位や名声はなくとも、それだけでお前も〈勇者〉になれる」

「は、はい!」

「良い返事だ。ではな、俺たちは行く」

「はいっ、お元気で」


 律儀に頭を下げて見送ってくれたが、まだしばらく都に滞在する予定だから再会する可能性はあるのだよな……。


 アカネをお姫様抱っこして外壁から飛び降りると、薄暗い路地に着地した。こんな端までは灯していないか。


 都の中心に行くにつれて明るい。もう夜だというのに、上から見ると昼間のように明るかった。


 目を閉じなくても賑やかな喧騒が聞こえてくる。


 そして、人々が楽しく盛り上がる裏では、一緒にこういう奴らも湧いてきてしまう。


「へっへっへっ。命が惜しけりゃ有り金全部置いてきな」


 3人組のいかにもな連中が通路を塞いだ。


「ほれよ」

「おっとっと……」


 話しかけてきたリーダー各の男にお金が入った小包を投げた。


「聞き分けがいいじゃねえか。じゃあついでにその嬢ちゃんも置いていけ。心配しなくていいぜぇ、オレたちがたぁっぷり可愛がるからよぉ」


 舌舐めずりしながらアカネを見て更なる要求をしてきやがった。


「こらこら、欲張りはいかぬよ。金を持ってさっさと立ち去れ」


 俺から離れると爆発する小包を持ってな。


「んだと? てめえはこの状況を理解してねえみてえだなあ?」

「忠告は素直に聞くのが身のためだぞ」

「うるせえ! いいぜ、お望み通りあの世に送ってやるよお!」


 3人一斉に飛びかかってくる。


 いやいや、普通はタイミングをずらして反撃の隙を与えないようにするべきだろ。


「――見つけたぞ!」


 俺が素人丸出しの盗人3人組に呆れていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「あー、うるさい奴が来た……」


 ため息混じりにぼやくと、盗人3人組は新たに現れたそいつにまんまと気を取られる。


 これは丁度良い囮になる。


「〈勇者〉さまー、あとは頼んだ――〈短転移(テイレル)〉」


 アカネの手を握って転移魔法を使いその場を離脱する。


 しかし、不安も残るので連中が見える屋根の上に転移した。


「て、てめえ……よくも邪魔しやがって」

「あんたたちに用はない、そこを退いてくれ!」


 おやおや、随分とはっきり言うな。盗人のような連中には煽りにしかならないだろうに。


 屋根の上から優雅に見下ろしながら思う。


「……ん?」


 巫女少女の姿が見えない。


 一人で俺を探しに来たのか。いや、近くに魔力を感じる。

 入り組んだ路地で立ち往生しているようだ。まぁ、迷子だな。


「あいつ、一人で突っ走ってきたな……」


 それにしてもよく俺の居場所がわかったな。


 目立つような行動をした覚えはないのだが、機会があったら訊くとしよう。


 さて、下の様子は――


「てめえら、やっちまえ!」


 リーダーが掛け声を上げた途端、別の声が路地裏に響いた。


「我に仇なす者を貫け――〈氷鋭突針(アイシクル・エッジ)〉」


 尖った氷が盗人3人組に襲いかかる。


「うわぁーー!」

「ひゃっ、冷た、うわー」

「この程度の氷でこのオ、うぇーい」


 見事なまでに雑魚の反応をして倒された。


「「「おっ、覚えてろよー」」」


 しかもこの声は……、


「あなた、大丈夫?」


 やはりイーニャだ。お前もどうしてこんな都の端っこに来てるんだよ。


 片手を顔に添えながら一人で唸る俺である。裾を引っ張られる感覚で我に返り、アカネがいたことを思い出させた。


 駄目だ駄目だ。アカネに心配はかけるまい。


「あんたはたしか、あの冒険者の……彼女だ!」

「もうバカ、違うったら――あ」


 ドガン。


 照れ隠しで舞った手が少年勇者の顔に見事にクリティカルヒットして、衝撃で鈍い音を立てて顔面が壁にめり込んだ。


 ついに殺った。殺っちまったよ――と冗談はさておき、意外と少年勇者は丈夫らしい。


「ふぬーっ、ぷはあっ、抜けたぁ……」

「ごめんね、大丈夫……?」


 心配するなら最初からやるなよな。


「あー、やっと見つけた! 一人で勝手に走るんだもん、追いかける身にもなってよね……と、知り合い?」


 息を切らしながら駆け寄ってきた巫女少女。


 ちゃんと文句を言う辺りなかなか根性があるぞ。


「いや、ヤンキーみたいな人から助けてくれたんだ。ま、俺一人でも倒せたけどな」

「見栄張ってないでちゃんとお礼を言いなさい。リュウヤを助けていただき、ありがとうございました」


 仲間を助けてくれたイーニャに、頭を下げて感謝を告げた。


 なるほど。巫女少女が突進気味少年勇者の飼い主のような存在だな。残念ながら手綱を握りきれていないようだが。


「兄様だったらこうするって思ってやっただけだから気にしないで。そういえば自己紹介がまだだったね。私はイーニャ。旅をしながら絵を描いてるの」


 さすがはイーニャ。落ち着いた対応でふたりの緊張をほぐした。


「俺はリュウヤ、リュウヤ・トウジョウ。やっぱ苗字と名前が逆なのは慣れないな……。一応〈勇者〉って呼ばれてる」

「私はカグラ、カグラ・シノミヤ。私もリュウヤと同じように〈勇者〉って呼ばれてるけど、あんまり実感はないの」


 どうやらふたりとも〈勇者〉と仰々しく呼ばれるのを好んでいないように見える。


「急に〈勇者〉になったの?」


 ナイスだイーニャ。


 思わずガッツポーズをしてしまう。


「あんたは知らないのか。俺たちはある日突然、この世界に召喚された“異世界人”ってやつなんだよ。それで漫画とかアニメでしか見たことなかった城に呼び出されて、いきなり〈勇者〉なんて呼ばれるわ、世界を魔族から救ってくれだので……もうお手上げさ」


 ため息混じりにぼやく少年勇者――もといリュウヤ。


 リュウヤの話によると、こことは違った争いのない世界で平和に暮らしていたところを何の前触れもなく〈勇者召喚〉の魔法によって呼び出されたらしい。


「――お前らな、もう少し場所を選んだらどうだ?」


 路地裏でこそこそと自己紹介するのを見ていられず、結局口を挟んでしまう俺であった。

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