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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第四章 勇者邂逅
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『所属』

 〈魔獣襲撃事件〉から1週間が過ぎ、復興も目処がついてきた。


 そうなれば、やることは一つ。


「バッカス。もう良いだろう?」

「ああ、もちろんだ。まさかこんなにも早く復興作業が落ち着くとは思ってなかった」

「この俺のおかげだな!」

「……悔しいがその通りだ」


 どうだとふんぞり返ると、非常に認めたくなさそうに明後日の方向を向きながら肯定した。


「にしてもよ、こないだから気になってたんだが……その顔はどうした?」


 獣に引っ掻かれたような傷を、顔のあちこちに刻んだ俺に尋ねてくる。ちなみに一週間前に既に刻まれて、触れるべからずと思ったのだろう。ようやくバッカスが訊いてくれた。


 誰もが尋ねないから、無性に話したくて堪らなかった。


「ふははははっ、ついに聞いてくれるかバッカスよ」


 バッと腕を横に伸ばし、威厳のある体勢で教えてやる。


「実は、アカネにやられたのだ!」

「あの嬢ちゃんがか? おめえ、どうせ襲いかかったりでもしたんだろ?」

「ふははは、それはどういうことかな?」


 バッカスの中での俺の印象って、子どもに襲いかかるような発情期の獣のようだったのか。


「冗談だ。で、本当は何があったよ」


 何だ冗談か、安心した。


 ほっと胸を撫で下ろす。


「シグマを俺たちの旅に同行させるのはもう知っているだろ?」

「ああ。なるほど、嬢ちゃんは守護者サマがお嫌いなわけだ」

「そういうこと。話したその瞬間に引っ掻かれたから、これ以上は傷が増えないようにあえて治していないのだよ」


 ズキズキして痛いし、寝返りしたら目が覚めるし、なかなか酷い有り様だが予想通り傷は増えていない。減りもしないがな。


「まあ、仲良くしなよ」

「言われなくても仲良くするさ。明日にはもう仲直りしているさ」

「それ、昨日も聞いたぞ」

「うっ……とにかく、俺は報酬を受け取りに来たのだ」


 話を切り替えてやり過ごした。我ながら素晴らしい話術。


「これだ」


 机の上に差し出されたのは3枚の透明なプレート。それと袋に入った若干の金である。


「ほぉ、これがギルドプレートか」


 手渡されたプレートに魔力を流し込むと所属ギルドと名前が表示された。


 〈ギルドプレート〉――ギルドから冒険者に渡されるプレートで、身分を証明するのに使え、通行手形代わりにもなる優れものだ。


 今後いろんな街や都市に入る際に通行料がかからなくなるのと、身分を証明できる。つまり、怪しまれる危険性を減らせるからと報酬で頼んでおいたのだ。


 あとは多少の報酬らしいお金だ。


「本当にこれだけでいいのか?」

「俺が逆に訊きたい。得たいの知れない俺たちの身分証明をして良いのか?」

「都を救った恩人だ。実は悪魔でしたとか言われても全然構わないね」


 惜しいな。実は魔王なのだよ。


 気絶した甲斐があったようで何よりだ。


「それは頼もしい。悪魔に契約を持ちかけられたら、バッカスのせいにして結ぶとしよう」

「言いやがる」


 俺の冗談に笑って返す。


「まぁ、俺たちは生活に困っているわけでも、お金のために旅をしているわけではないからな」

「こっちとしちゃ助かるけどよ、おめえがいいならもう言わねえよ」

「ありがたくもらっておくよ。――バッカス、感謝する」

「な、なんだよ、急に改まって」


 前振りなしに態度を急に変えた俺に、驚き半分で苦笑を見せるバッカス。


「恩義には報いるのが礼儀だろう。だからあんたには、あんたたちには忠告しておく。今回の事件をきっかけに、王国の連中は本腰をいれて俺たちのことを探りにくるだろう。当然あんたらにも取り調べを受けるに違いない」


 シグマの部隊はあくまで騎士団の裏の組織としての隠密部隊だった。


 そして、隠密部隊はもう一つ存在する。正直そっちの方が本命。国王直属の暗殺集団に等しく、まさに王国の闇を担う連中らしい。名前、性別、年齢などは一切不明。


 唯一実力だけははっきりしていて、シグマと同等かそれ以上だと言う。


 何故ならシグマたちは対人間用の隠密部隊で、国王直属の奴らは対他種族用の部隊だからだ。


 ――そう、イーニャが所属していた部隊である。任務遂行のためなら平気で仲間や己を殺す奴らだ。


 シグマからその話を聞いたのは、あいつの同行を許可した翌日だった。知っていたら誰が許すかと言うんだ。抑止力がいなくなれば、当然そいつらが出てくるに決まっているではないか。何を考えているのだあの馬鹿野郎は!!


「乱暴な手段に出る可能性もある――」


 手を翳され、そこまでで十分だと言う意味だと察して話を止めた。


「オレたちは冒険者だ。冒険者は自由だが、仲間を守るのは暗黙の了解だ」


 バッカスはフッと鼻で笑ってから続けた。


「プレートを渡した、それ即ちおめえらはギルドメンバー(オレらの仲間)。オレにとっちゃあ仲間は家族。どんな卑劣な手段を使われても、仲間(家族)を守るぜ」

「……」


 受け入れられるだろうと予想はしていたが、予想以上の答えを言われてしまって呆気に取られてしまう。


「改めて感謝を」

「……」


 軽くだが頭を下げた俺に、今度はバッカスが呆気に取られたようだ。


「よせやい、おめえらしくねえ。いーや、ギルドマスターとして受け取らせてもらうぜ」

「あんたにはいずれ話さなければならないことがある。時が来たら必ず話す。それまで死ぬとか認めないからな」

「あたりめえよ、家族を残して死ねるかよ。――またな、ノルン」

「――またな、バッカス(ギルマス)


 俺は背中を向けて軽く片手を振り、ギルド〈ボルボレイン〉をあとにした。


 今日都を出発するのを伝えていないのに、家族のことなら何でもお見通しなのかね?



 ――宿屋に戻ると、凄まじい光景が広がっていた。階段を上がろうとした瞬間に、ドガンッと宿屋を揺らす爆発が起きた。


「おいノルンッ、私を助けろ!」

「おかえりなさい、兄様。ちょっと待ってて、すぐに今日の晩ごはんを仕留めるから」


 こらこら、シグマを晩ごはんにするなど、俺を本物の魔族にする気か我が妹よ。


 見事に宿屋の二階のほとんどを吹き飛ばし、残っている壁には氷で串刺し状態の人間がいた。安心したまえ、刺さっているのは服と若干の皮だけだから。


 律儀にアカネとイーニャに手出しをするなと言ったのを守っているらしい。


 俺とアカネとイーニャは同室で、シグマだけ一人寂しく隣の部屋だった。


 恐らくこんな構図だ。俺に用事があり部屋を訪ねたところ、運悪く女子ふたりが着替えか入浴中だった。そのため、変質者として見なされたシグマは魔法による攻撃を受け、抵抗できずになされるがまま現在に至る――。


 ふたりは旅の身支度でもしていたのだろう。

 シャロンとやらに、他の女に手を出せないよう呪いでもかけられているのかね……。


 そのシャロンは小さくなってシグマの肩に乗っているがな。


 この俺が苦労してあそこまで縮小してやったのだ。圧倒的な感謝をしても良いだろうに「……感謝する」の一言で済まされたのを俺は忘れない……とか思いながら良い実験になったからおあいこである。


 だから本音ではこのままイーニャの氷の餌食になれとか思っていたりいなかったり……。


「暴れてないでさっさと支度をしやがれ。誰がこれを直すと思っているのだ……」


 この一週間、毎日この騒ぎだ。宿屋の主人は「元気で良いことです」と穏やかな微笑みを浮かべてくれて助かった。


 支度を済ませ、宿屋を出るときにバッカスからもらったお金の半分を部屋に手紙と一緒に置いておいた。主人の性格なら真正面からは受け取らないと思ったからだ。


 俺たちの馬車と馬は都の被害など何処吹く風である。当たり前だ、俺の結界に守られているからな、全然気にならないだろうよ。


 おや、シグマが俺を睨んでいる。


「反撃するくらいは許せ」

「却下」


 このやり取りも毎日繰り返しているのは言うまでもない。

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