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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『対話』

 部屋の扉を閉めて、外に音が漏れないように結界を張る。


「ああは言ってみたものの、どうせ起きているのだろう?」

「……」


 無反応のシグマ。


 魔力で起きているのはバレバレなのにな。


 俺の〈命言〉を受けても効果なしなのは初めてだ。


「そうかー、起きていないなら仕方ない。あの太刀を行商人に売って金の足しにするかー」

「なんだと!? 貴様ッ、あの太刀の価値がわかって……いる、のか……」

「あんな代物、扱える奴はそういない。売っても大した足しにはならぬよ」


 こうも簡単に引っ掛かるとは思わなかった。


 本人もやっちまったとばつが悪そうな顔をしている。

 誤魔化すようにお腹の辺りを確認して、傷がないことに驚きを見せた。


「貴様が治療したのか?」

「当たり前だろ。あれほどの傷を回復させられるのは、この都では俺くらいだ」

「なにが狙いか……など、訊くまでもないな」


 言いかけて途中でやめた。確かにシグマの言う通りだ。既に答えは出ている。


「我々に与えられた任務は、マクシス及びトールの報告の真偽を確かめることだ」


 やはりな。となると、あいつらは嘘の報告をしたわけだ。


「情報収集の最中、一人の男が浮上した。それが貴様だ、ノルン」

「そんなあっさりとバレたのか……」


 まぁ、目を閉じれば思い当たる節はいくつも出てくる。


 巨大な壁を作ったり、騎士部隊を襲撃したりと数え出したらキリがない。


 ついに人間界に来た。その喜びに打ち震えて調子に乗ってしまった。若気の至りと言うものだよ。


「話を聞く限り、単なる悪人には思えなかった。だから、マクシスとトールを退いたであろうその力を試すことにした」

「村を襲撃するのはわかる。だが、パラディエイラを〈魔獣〉に襲わせたのは何故だ?」


 単純に村を襲撃すれば俺が現れる可能性が高い。もし現れなかったとしても、俺に村の壊滅と言う精神的痛手を負わせられる。


 しかし、この冒険者の都――パラディエイラを、ましてや〈魔獣〉を使う必要はなかったはずだ。そこまでする別の理由があるとしか考えられない。


「無論、実力を知るためだ。ノルンとその妹がここを訪れたのを知り、距離の離れた2ヶ所を同時に襲撃すればどちらかを見捨てなければならなくなる。その采配を窺おうとしたが、まさかどちらも守って見せるなど予想外にも程がある」

「わからぬ。根本的に命じられた任務と違うことをしている。俺の実力を知ってどうすると言うのか」


 王国に反逆でもするつもりか?


 敵の力を推し測るのはわかるが、国民を危険に晒してまでやる価値があるとは思いにくい。

 なら強力な王国の勢力に対抗するための力を求めている、とか考えてみてからあり得ないなと首を振った。


「――王国をぶっ壊すためだ」

「そうか、なるほど。確かにそれには力が必要だな……何だと?」


 この俺が理解が追い付かなかった。


 まさか本当に予想通りとは思わないだろ。


「お前な……意味がわからん」

「私は今の腐りきった王国に未来などないと考えている」

「だからぶっ壊す、と。安直だな。とある者は、その腐りきった国を内側から変えると宣言したぞ」


 マクシスとトールが共に胸に抱く夢だ。

 あいつらの言葉に嘘偽りはなかった。故にシグマへの諭すのに使用した。


「それを考えた時期もあった。だがな、世の中にはどれだけ強く望もうと、どうしようもないこともあるんだ」


 目付きを悪くする。まるで目の前に映る過去を睨むかの如し。


「……」


 真面目な騎士が、王国に反旗を企む者になった経緯はわからないが、原因ならおおよその検討がついていた。


 バンガスの時と似ている。シグマ本人以外の、別の色が寄り添っている。違う点は色の感じからして、その人物はまだ死んではいない。


「……ん?」


 待てよ。この色、何処かで……見たことがある?


 口元に手を添え、首を傾げて記憶を探る。


「思い出した。はぁー、納得だ。あの〈魔獣〉か……」

「なにが言いたい」


 訝しげな表情で尋ねてくる。


 一人で納得していれば当然の反応だ。


「お前みたいな人間ごときに〈魔獣〉が従った理由がわかったのだ」

「――ッ!?」


 殺気を放ってくるのを、魔力で押さえ込んだ。


「案ずるな。他言するつもりはない。そもそも誰が信じるか、一定の条件があったとは言え〈魔獣バルログナ〉が元人間(・・・)だったなどと」

「本当に、何者なんだ……貴様は」

「何度も言わせるな。俺は絵描き好きな妹の、魔法が少し使えてちょっと強い兄だ」


 疑問は残る。〈魔獣バルログナ〉の存在が確認されたのは100年以上前の話だ。


 そうなると、人間だったのはそれより前になる。


「……お前、何歳だ?」

「いきなりなんだ。貴様、勘違いしているな。私がシャロンと出会ったのは3年前だ」

「シャロン……バルログナは擬態能力でも持ち合わせているのか?」

持っていた(・・・・・)。今はもう無理だ。2度と人間にはならないさ」


 シグマは言いながら俯き気味になる。


「とりあえずここまでで良い。詳しい話はまた今度聞かせてもらう。〈魔獣バルログナ〉も都の外で眠らせているから安心しろ。悪戯されないように結界も使ってやったのだ。(こうべ)を垂れて感謝したまえ」

「感謝はするが、貴様に頭など下げてやらん」

「お前はそうでなくてはな。聞いていただろうが、犠牲者は俺のおかげで0人だ」


 堂々と胸を張って自慢する。フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向きやがった。


「一つ訊かせろ」


 やはり、助けてもらったくせに偉そうだな。


「最後のあの技。どうやって私を斬ったんだ」


 紫電一刀流、奥の義――〈(ユカリ)〉のことを言っているのだろう。


 敵に手の内を教えるやつがあるか。


「先にお前から話せ。〈特異能力(レガリア)〉と聖眼――〈退魔聖典(ラ・ビブリア)〉について」


 〈聖眼〉とは文字通り聖なる眼。魔族が有する〈魔眼〉とは対照的な存在で、人間しか開眼しないとされる。


 ようするに、〈特異能力(レガリア)〉とはまた別物で、特殊な力を宿した眼である。


「なっ――!」

「抵抗は無意味だ。この結界に覆われた時点で、お前は魔力を操作できない。試しても良いが、すぐに暴走して爆発するのが関の山だ」


 頭では理解しているだろうに、身体が勝手に動いてしまうほど知られたくないわけだ。


「対等な情報交換だ。俺としては、頭の中を弄っても良いが、細かい作業が面倒でな。話してくれると助かるわけだ」

「ちっ……わかった。話してやるよ」


 こいつはどれだけ上から目線なのだ。舌打ちまでしやがったぞ。

 初めて対面した時からわかってはいた。わかってはいたが……いや、ぶれないのは重要なことだ、そうしよう。


 謎な言い訳で自分を納得させてから、シグマの能力の詳細を聞いた。


「特異能力は〈過程選択(セレクタ)〉で向きを変えるものだ」

「有効範囲は自分の視界内。向きを変えれる対象は魔力を宿すもののみで生物は無理、だな」


 加えて視界の範囲内と言えど、距離があればあるほど効果発動まで時間がかかる。


 と、シグマは自分の〈特異能力(レガリア)〉を分析している。


 俺から言わせれば、まだまだ使いこなせていないし、理解しきれていないな。


 もし真の意味で使われていたら、俺に本気の全力を出させていただろう。


「あ、ああ……。よくあの短時間でそこまで」

「当たり前だ。俺は単なる答え合わせのつもりだから」


 だいたい把握が終わっていても、問題には答え合わせが必要だからな。


「聖眼〈退魔聖典(ラ・ビブリア)〉は、光属性の魔法を無条件で使用可能にする」

「魔力の消費もないわけだ」

「いや、正確には魔力は消費している。この聖眼を開眼中は常に微量の魔力を吸われるからな」

「珍しいな……」


 〈聖眼〉は本来、聖なる力であるため、持ち主に負荷を与えるようなものではないはずだ。少なくとも、グリムから聞いた〈聖眼〉は全てそのようなものではなかった。


 能力を行使する場合、持ち主の魔力ではなく空気中の魔力を使用する。


 だが、戦闘においては切り札になるため、初めから使おうとする者は少ない。


 こいつの聖眼だけ特別なのか?


 未だに謎が多い〈聖眼〉だ。例外があってもおかしくはない。


「次は俺の番だな。紫電一刀流は、俺がもとの流派を改造したもので、カウンターに重きを置いているのだ。そして、お前が受けた奥の義――〈(ユカリ)〉はその中で最速の技だ」

「確かにあの一瞬だけ、私の速さを越えていた。それを認識した次の瞬間には既に斬られた後だった」


 光速を越え、神速に至ったシグマが驚くのも無理はない。初見どころか、2度目以降も防げるような技ではないからだ。


「その代わり、負荷に耐えられる刀が限られること。この技を使えば、必ず刀が使い物にならなくなるのが欠点だ」


 〈(ユカリ)〉を使う、それ即ち刀を失うことを意味する。


 手を翳し、影が収束して刀の形を成した。


「この有り様だ」


 鞘から抜いて、刃の部分は根本のみを残して消え去った刀を掲げる。


「負けたのも納得だ」


 シグマはそれを目の当たりにして苦笑した。

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